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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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マルティール騎士団

第二十五話。敵の本拠地に近づきます。

「まさか、山の中がこんな事になっていたなんて」

 周囲を見渡すハーティルに対して、狼刀(ろうと)は驚いて言葉も出ない。

 まるで、ビルの中だ。

 山の中にもかかわらず、壁は石膏のような素材でできており、壁には一定の間隔で窓がある。部屋の中には余分な装飾品がなく、上へと続く階段は突き当たりの壁にあった。

 三勇城(さんゆうじょう)とは、造りからして全く違う場所だ。

「と、驚いている場合じゃないな、行こう」

 しばらく呆けていたハーティルだが、我に返ると狼刀の手を取って、走り出す。狼刀は手を振りほどくと、ハーティルと並んで走り出した。

 二階、三階、四階と、全く同じ部屋が続く。

 五階、六階、七階と、顔に疲れが出始める。

 八階、九階、十階と、歩く速度が落ちていく。

「ちょ、ちょっと、休もう……」

 どれくらい上がったのかもわからなくなった頃、ハーティルがその場にへたり込んだ。

「ええ、休まれるがいいでしょう。永遠にね」

 二人を囲むように、黒装束の集団が現れる。邪神教(じゃしんきょう)の神官には違いがないのだろうが、その服装は深紅の塔にいた神官達とは異なるものだった。

「我らに逆らうものには、天罰が下されるのです」

 集団の奥から、男の声がする。

防砦魔法(キャランサ)

 その声に合わせて神官達が襲い掛かるのと、ハーティルが魔法を発動させたのは、ほぼ同時だった。ハーティルを中心として半球状の魔法防壁が生成される。

 狼刀がいるのは、その半球の内側だ。

 神官達が立ち止まったのを見て、狼刀も動きを止めた。


「バラム殿。頼みますよ」

「承知。此方に任せるがよい」

 神官の声に答えるように、図太い声がした。

 その瞬間、ハーティルが展開していた防砦魔法(キャランサ)が軋んだ。まるで、上に何かが乗ったかのように。

防盾魔法(シルカンサ)

 ハーティルはその場所に対して魔法を重ねた。

 広い範囲を包むように守る防砦魔法(キャランサ)ではなく、一部だけを守る強度の高い魔法である防盾魔法(シルカンサ)。それを、幾重にも渡って、重ねる。

防盾魔法(シルカンサ)

 押し返すことは出来なかったが、それ以上、沈み込んでくることはなくなった。


「グゥルァァアアア!」

 低い唸り声と共に、一部の神官が宙に舞った。

「グルァア」

 神官達が吹き飛ばされる。一直線に隙間が生まれて、その中を何かが勢いよく駆け抜けてくる。

 上に気を取られているハーティルは、その異変に気がついていない。

「やるしかないか」

 狼刀はその変化に気が付いて、竹刀を構えたまま、走った。敵の姿は見えないが、はね飛ばされた神官の位置からおおよその場所は検討がつく。

 あとは距離だが、互いに向かっていけばぶつかるのは必然だ。

「グ……」

 手応えあり。小さなうめき声が聞こえ、ふっと手応えが消える。最後まで姿は見えなかったが、狼刀は敵を倒したことを確信した。

 狼刀はハーティルの元へと下がる。

「大丈夫かい? ハーティル」

「大丈夫……とは、言えないかな」

 言いながらハーティルは、防砦魔法(キャランサ)をかけ直す。強度を上げるために、二人だけを包んで。

「下手に動かないように頼むよ」

 防御の魔法は、多数展開していればいるほどに魔力を多く消耗する。狼刀が小さく頷いたことを確認すると、ハーティルは展開していた防盾魔法(シルカンサ)を消した。

 地面が揺れ、二人の前に異形の存在が現れる。

 三つ首だ。中央には鬼のような形相の顔があり、肩から伸びるのは牛と羊の頭。巨大な腕、巨大な足は二本づつだが、先端に蛇のついた大きな尾が生えている。

「此方の力にここまで耐えるとは。そなたらは誇ることが出来るぞ、黄泉でな」

 鬼の形相に笑顔を浮かべ、魔神は左手を振り上げた。

「死ぬがいい」

 元より巨大な手を、さらに肥大化させて振り下ろす。手はハーティルの魔法に防がれ、一度は止まった。が、それを破壊したのか、勢いよく振り下ろされる。

 狼刀は魔神の手なた竹刀を突き立てた。

「やはり、魔断(まだん)……」

 魔神は消えつつある左手を切り離すと、距離をとる。

「厄介。オルダー、加勢を請う」

「マルティール騎士団。波状螺旋」

 魔神の一声を待っていたかのように、オルダーが神官達に命令を下す。神官たちも慌てることなく、陣形を組んだ。砦にいた神官達とは、動きが段違いだ。

「切りかかれ!」

 狼刀とハーティルを囲むように立つ神官達が、四方からタイミングをずらしながら、攻撃を仕掛ける。

防盾魔法(シルカンサ)

 三方からの攻撃にはハーティルが対応し、残る一方には狼刀が対応した。片手の狼刀では、それが精一杯だ。

「砕けろ」

 神官の体を、魔神の手が貫いた。

 狼刀が竹刀で受け止めると、左手が消え、神官が崩れ落ちる。

 入れ替わるようして、別の神官が切りかかった。

 狼刀がその対応をしていると、神官の体を貫いて、魔神の手が迫る。

 その手を消滅されれば、別の神官が立ち塞がる。

「きりがない!」

 思わず狼刀がそう叫んでしまうほど、際限のない波状攻撃だった。


 ハーティルが相手をする神官達は、一人が防盾魔法(シルカンサ)に阻まれても、次の一人がその隙間を狙う。という攻撃を三方向から繰り返していた。

 同時展開出来るとはいえ、三方向に集中力をさくのは難しい。ハーティルの防御には徐々に余裕がなくなっていた。

 このままでは、崩される。

「……すまない。減速魔法(ネギア)

 ハーティルは制御出来ない奥の手を発動した。


 ハーティルが呟くと、周囲の神官達の動きが遅くなった。否、神官だけではなくバラムの動きもゆっくりしたものになっている。

 考えるまでもなく、魔法だろう。

 狼刀は神官を押しのけ、魔神に一太刀を浴びせんと迫る。

「ちっ、ムタカ!」

 いち早く状況を理解した魔神が、叫んだ。その声に答えるように、一羽の鳥が高速で降りてきて、狼刀の体を貫いた。

「なっ……」

 鳥は勢いのままにハーティルの体も貫通し、魔神の右腕に止まる。

「ご苦労。ムタカ」

 魔神が慈しむような笑みを浮かべた。

「ケケッケ」

「ああ。此方の勝利は、そなたのおかげぞ」

「ケッケー」

「ラクマは死した。無念だ」

「ケッケケー」

 一体と一羽の間で会話が交わされる。

 その間に、騎士団は体勢を立て直し、オルダーが狼刀の前に立った。

 体に力が入らない。狼刀は体は動かさずに顔だけをあげた。

「我らマルティール騎士団を打倒したかったのなら、邪神教の神官を一人でも従えてくるべきでしたね。そうすれば、万に一つの可能性もあったかもしれないというのに」

 と、オルダーが手を一つ叩く。

「しゃべり過ぎましたね。まあ、冥土の土産には丁度いいでしょう」

 オルダーは興味を失ったように狼刀に背を向けた。

「殺してしまいなさい」

 オルダーと入れ替わるように一人の騎士が近づき、剣を振り下ろす。

 狼刀の意識はそこで途絶えた。

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