いつもと同じ
第二十六話。いつもと同じような戦い。
「くそっ……誰か、誰かいないのか」
「誰でもいいんだ……」
「城にあの人より強い人! なんて……」
「強い人、強い人、強い人……」
城の大広間で慌ただしく行き交う人々。その話し声で狼刀は目を覚ました。また、戻ってきてしまったらしい。
「そこの旅の者」
背後から声をかけられる。
「突然、すまない」
声をかけてきたのは、眼帯をつけた金髪の大男――兵士長リヴァルだ。何度繰り返しても、彼は狼刀に声をかけ続ける。
「腕に覚えがあるなら、この城を守るために協力して――」
「わかりました。案内してください」
狼刀はリヴァルの言葉に被せるように返事をした。新たな攻略法を胸に描きながら。
「おお、ありがたい。では、王の間へ」
「行きましょう!」
狼刀はリヴァルと並走するように、王の間へと向かった。
「お待ちくだされ」
錫杖を振り上げる神官に、リヴァルが声をかける。ブラストは錫杖をゆっくりと下ろすと、リヴァルを睨みつけた。
「約束の御仁をお連れした」
ブラストの鋭い視線が、狼刀へ移る。
「リヴァル兵士長。剣を貸していただけませんか?」
その視線を気にすることなく、狼刀はリヴァルに問いかけた。
「あぁ? 無視かぁてめぇ?」
「安心しろ。お前の相手はしてやるよ」
狼刀は剣を受け取ると、不満げな顔のブラストへと切っ先を向ける。
「俺は結城狼刀。こいよ、神官!」
「上等ぅ!」
叫ぶと同時に、ブラストは錫杖をバットのように振りかぶった。
「減速魔法」
叫ぶ魔法はハーティルが唱えていたものと同じだ。使用者が違えども、効果は同じなのだろう。リヴァルがのっそりと動く王を玉座に座らせているから、間違いはないはずだ。
狼刀はゆっくりとした動きで、剣を構える。
「勝負あり、だなぁ」
不敵な笑みを浮かべ、ブラストが高々と錫杖を振り上げた。
「そうだな」
「なぁ……!?」
素早い動きで、狼刀は錫杖を巻き上げる。錫杖が宙を舞い、狼刀の後方――王の間の入口近くに突き刺さった。
「くっ」
ブラストは武器の回収を諦めたのか、拳を握り締める。
だが、狼刀が剣を叩きつける方が、早い。ブラストが体勢を崩した瞬間に、狼刀が剣の腹で一撃を叩き込んだ。
「くふっ……」
ブラストは床に膝をついた。
「投降しろ。命は助けてやる」
その首に剣を突きつけ、狼刀は降伏を促す。
「投降だぁ? ふざけんじゃねぇ」
ブラストは憤然とした面持ちで、狼刀の剣を握った。素手だ。食い込んだ指からは血が滲み出している。
けれど、ブラストに気にする様子はなかった。
「ふざけんじゃぁ、ねぇっ!」
力が込められ、剣が押し返される。狼刀は元の世界でも鍛えていたわけではない。純粋な力勝負で、狼刀に勝ち目はなかった。
「減速魔法」
追い打ちをかけるように魔法を放つブラストだが、狼刀に変化はない。とはいえ、ブラストにとっても予想の範囲内なのだろう。表情は曇ることなく、さらに力が込められる。
「このっ……」
狼刀は両手を使っても、押し返される状況に焦っていた。
「ッルアァァァァァァァ!」
ブラストが叫ぶ。
「ハアァァァァァァァァ!」
狼刀も負けじと叫び返した。
互いに全力で押し合う中。最初に限界を迎えたのは、ブラストの手だ。
剣を受け止めていたその手は真っ二つに斬り裂かれ、勢いの止まらない剣はブラストの首を斬り裂いた。
「くっ……ぁ」
血を吐き、ブラストが倒れる。
決着はついた。
「すげーよ、兄ちゃん!」
「ありがとう、この城を救てくれて」
「ちっ……」
「感謝しますぞ」
「悔しいけど、さすがだよ」
「近衛兵長の仇を取ってくれてありがとう」
周りの兵士から賛美の声が浴びせられる。
剣を持ち上げることも出来ずに、肩で息をする狼刀には届いていないのだろうが。
「この城を救ってくださったこと感謝しますぞ、旅のお方」
リヴァルに付き添われながら、王が頭を下げる。
「近衛兵長を失ったのは痛手ですが、あなたのおかげで王が救われたこと感謝申し上げます」
リヴァルは倒れる神官を一瞥。
「容赦ないですね」
狼刀から剣を奪い取るように回収すると、血をふき取った。とどめを刺さねば甘いと言われ、殺したら殺したで容赦ないと言われる。一体どうすればリヴァルは満足なのだろうか。
その答えを、狼刀は持たなかった。
「この勝利を祝い、今宵は宴を開きます。ぜひ、旅のお方も御参加ください」
予想通りの王の提案。
「わかりました」
狼刀は静かに頷いた。
その夜。城の中央大広間――最初に狼刀がいた場所――にて宴が催された。
「邪神教の脅威を退けたことを祝い、今宵は宴と参ろうぞ」
杯を掲げ、王が宴の開幕を宣言する。会場から歓声が沸き起こった。
「さあ、ロウト殿も行きましょう」
狼刀に声をかけたのは、その横に立つリヴァルだ。一緒に動くというのは予定外だが、宴での立ち回りはわかっている。
この宴は、料理の置いてあるテーブルから料理を選び取り、自分のテーブルに戻って食べるというバイキング形式だ。当然、誰がどれくらい取ったのかということは周知の事実となる。特に、主賓とも呼べる狼刀の動きは誰もが気にかけているのだ。ここでは、遠慮をせずに気持ち多めに食べ物を取っていくくらいが、良い反応を得られる。
狼刀はリヴァルと共に、中央の大きなテーブルへと向かった。
「和洋折衷……とは違うよなぁ」
パンとご飯、主食となる炭水化物が二つ。バイキング形式で両方があってどちらかを選ぶというのはよくあることだ。だが、この世界ではどちらも食べることが普通らしい。
他には野菜料理、スープ、麺料理などが並んでいる。
肉料理はない。
この世界に来てから何度か食事をする場面があったが、肉料理だけは一度も出たことがなかった。
「お気に召しませんか?」
料理を選ばずに立っている狼刀の顔をリヴァルが覗き込む。
「あ、いえ、食べます」
狼刀は料理を選ぶと、テーブルに戻った。
少し離れた場所では、王が兵士たちに囲まれて食事をとっていた。一人の兵士が料理を運び、三人の兵士が毒見をして、その食べかけの料理を王が口にする。毒味なのだろうが、あれで美味しいのだろうか。
いつ見ても変わらない王の食事風景を見ながら、狼刀はパンに噛みついた。
「お口にあいますかな?」
「はい。美味しいです」
「それは良かった。それから、これもどうぞ」
リヴァルが缶を差し出す。
「それは?」
狼刀は缶の使い道がわからずに、リヴァルに訊ねた。
「栄養満点で、病気対策の効果があり、料理がとてもおいしくなる、幻の調味料ですよ。って、信じてませんね?」
胡散臭さ満載の台詞に思わず眉をしかめた狼刀に対して、リヴァルは苦笑いを浮かべる。
「まあ、冗談はこれくらいにして。乾杯としましょう」
リヴァルから手渡された杯を持って、狼刀は乾杯に応じた。
「乾杯!」
中身はワインか何かだろうか。甘く、水よりもトロッとした舌触りがなんとも未知の感覚だ。体が内側から暖かく、軽くなって、なんとなく楽しくなってくる。
「……いい飲みっぷりですね」
宴は大いに盛り上がった。
いつもとほとんど変わりなく。
宴を楽しんだ狼刀は軽い足取りで寝床に向かい、眠りについた。




