悪魔VS商人
第十九話。戦う商人たちのお話。
顔面に傷のある大男。デストロは、意気消沈とした様子で歩いて来たダイヤナに声をかけた。
「ダイヤナ」
ビクッとダイヤナは小動物のように肩を震わせた。
「はい。何でしょうか? デストロ様」
「これから、奥に魔物どもを倒しに行く。お前は監視を頼む」
戦斧を担ぎ、デストロは背を向ける。
「これから、ですか?」
「ああ。さっきみたいな奴がいつ来るかわからねぇからな」
デストロは振り返ることなく答え、返事を待たずに立ち去った。
「わかりました」
答える必要はない。戦勝報告を持ってくればいいのだ。それが、デストロとダイヤナの距離感だった。
「行くぞ。シシ、デッドール」
「はい」
「了解」
部下の二人を連れ、デストロは洞窟の奥に向かった。誰がつけたのか、天井にはランプがぶら下がっている。
「げへへ、人間の匂いだなぁ」
その光に照らされ、太った悪魔のような魔物が三体いた。
一匹は槍、残りの二匹は杖を持っている。
「やるぞ。てめぇら!」
デストロが合図を出すと、背後に控えた二人が動き出した。
ローブの男が二本の剣を構えて走り出し、痩躯の男がブーメラン型の魔法機を飛ばす。
「飛刃!」
デッドールが指を鳴らした。
それが魔法機発動の合図だ。ブーメランは空中で爆散し、無数の刃の雨を三体の魔物へと降らせる。
だが、杖を持った二体の魔物が防御魔法を展開し、その刃を防いだ。
上に気を取られた魔物の懐に、シシが滑りこみ腹を斬り裂く。魔物が倒れることを確認することさえなく、流れるように、もう一体の杖を持った魔物に斬りかかった。
発動者が無効化され、防御魔法が消滅する。
一度は防がれ、弾かれた刃が重力に引かれ降り注いだ。
シシもその真下にいるが気にはせず、残った一体の魔物に斬りかかる。刃がその身に傷をつけることはない。一見、防御力などなさそうなローブが、その刃をすべて弾いていた。
槍を持つ魔物とシシが切り結ぶ。とはいえ、魔物は刃に打たれながらだ。決着は見えている。
「終わりましたよ。デストロ様」
デストロが手を出すまでもなく、三体の魔物は地に伏した。
「よくやった、シシ。デッドールもよくやった」
シシが丁寧に礼をする。
「さあ、重力の石を回収するぞ」
目当ての宝石は、壁の窪みに置いてあった。
デストロは地面に戦斧を突き刺すと、重力の石に手を伸ばす。だが、窪みの外でその手が止まった。
「あ? なんだ?」
デストロが顔をしかめる。
次いで、シシ、デッドールが手を伸ばすが、いづれも窪みの外で手が止まった。
「なんだこれは?」
「どうして、届かねぇ」
「何故」
三人は代わる代わる手を伸ばし、重力の石を取ろうとする。
そんな中、デストロの体をデストロの戦斧が切り裂いた。
「火炎魔法」
戦斧の先から炎がほとばしる。その炎がシシのローブを燃やす。ローブが燃焼材となって、シシの体は炎に包まれた。
デッドールはブーメランを構えるが、投げる暇すらなく、斬り倒される。
「げへへ。殺れたと思っただろ? 馬鹿が。貴様らが殺ったのは二体の分身だけだ」
悪魔は戦斧を捨てて、槍を拾うと倒れるデッドールの体に突き刺した。
「げへへ。俺様には勝てるわけねぇんだよ。人間ごときの力じゃなぁ」
デッドールの体をグリグリと抉り、燃え盛るローブへとぶつける。人の体は燃えやすい。瞬く間に炎は勢いを増した。
「げへへ。俺様が油断させるように仕向けてんだけどな」
二つになったデストロの体をまとめて貫き、炎に投げ入れる。
「火炎魔法」
槍の先から炎が迸った。炎は火炎となり、人の山を焼き尽くす。
「げへへ。骨になりなぁ。人間」
火炎を眺め、悪魔は下卑た笑みを浮かべていた。




