悲しき守護兵器
第十二話。敵にもドラマがある。
「ここか」
狼刀が発する一言目が変わった。
仄暗い暗闇から注がれる複数の視線。などと、現状の確認をする必要すらなく、狼刀は状況を理解していた。
「よくきた。ゆうしゃよ」
低く威圧感のある、もはや聞きなれた声がして、狼刀は反射的に愛用の竹刀で攻撃を仕掛ける。老魔法使いは、完全な不意打ちに反応が間に合わず、消滅した。
「ひ、卑怯者ぉ!」
「この、人でなしが!」
周囲にいた魔物たちは怒り狂い、狼刀に襲い掛かる。魔物に人でなし呼ばわりされるというのはどうなのだろうか。
そんなことを考えつつも、狼刀は魔物たちの攻撃を躱し、あるいは受け流して、竹刀を振るう。
最後まで残っていたのは、無傷の狼刀、一人だけだった。
狼刀は城内で回収しなければいけないアイテムを回収。小さなコインはふくろに入れておき、最重要な聖水は手に持って、城の外に出た。
「な――」
狼刀は、あくまのきしの台詞を聞こうともせずに、聖水をぶちまける。
「――――」
声にならない悲鳴をあげ、あくまのきしは消滅した。
ここまでは問題がない。
まずは、あの巨大な蛇を倒す。そのあとは、こちらの大陸に戻ってゴーレムからのイベントをこなす。それが考える限りの最適解だ。それだけ思うと、狼刀は動き出した。
北の大陸にある魔封石の眠るアスガル洞窟。
「ミーに何かようデースか。人間」
いつ来ても変わらぬ問いかけをする大蛇に、狼刀は今までと違う応えかたをする。
「魔封石というのを探しに来た」
大蛇は割けんばかりに口を開いた。狼刀を呑み込まんとする構えだ。
狼刀は飛びかかってきた大蛇を受け流すと、首に竹刀を突き刺し、大蛇のスピードを生かして、全身を真っ二つに斬り裂いた。
大蛇は力尽きて動かなくなり、消滅。
狼刀は洞窟の奥で魔封石を回収し、洞窟を出た。
洞窟の外に出ると日が落ちたためか、あたりは暗くなっていた。星は出ているようだが、とても十分な明るさとは言えないだろう。
夜を越すだけならアレスコという手もあるが、一度入れば出られなってしまうため、避けるべきだ。
そんな折に見つけたのが、旅の宿ルナティークだった。
ログハウスのような作りで、中は簡易なベットがいくつかあるだけの、質素な造りだ。
管理人は若い男性で、元々はサタナキに住んでいたらしい。奇妙な縁もあったものである。狼刀はサタナキについての雑談に、しばし花を咲かせていた。
そして夜が明けた。
狼刀は要塞都市サタナキの入口の前で、ゴーレムと対面。魔王軍幹部の魔物の一撃よりも重たいであろう攻撃を躱し、竹刀を突き立てる。
「グオォォォォォー」
空気が震えるような叫びを残し、ゴーレムは砕け散った。
狼刀は悲劇の巨人の冥福を祈り、町の中に入っていく。待ち受けていたのは一人の老人だった。
「ようこそ、旅の方。あのゴーレムを倒してしまうとはお見事です。是非とも、この町の守護者になってもらえませんか」
前回と同じ流れである。
「申し訳ありませんが、私には魔王討伐という目標があるので……」
狼刀は、魔王討伐のためと言って断った。
老人――長老のカッシーニは残念がりながらも、もてなしをしてくれる。そうなると、狼刀は知っていた。
「そうですか。ではせめて今は、この町でゆっくりしていってください。お礼の品も用意しますゆえ」
狼刀の予想通りの――というか、前回とまったく同じ――展開である。
「心遣い感謝いたします」
狼刀のセリフも、前回とまったく同じだった。
その夜。町では宴が催された。
狼刀は前と同じように、住人達から話を聞いて回ったが、サタナキ出身の宿主について知っている人はいなかった。彼は町のことに詳しかったのにである。
まあ、住民票もお役所もないところで、全員をしっかり把握するのは無理ということだろう。
狼刀も四桁くらいいてもおかしくない住人のことは、長老を除いて覚えられなかった。
翌朝には城壁の盾というアイテムを入手。同じ手順を踏めば、同じ結果にたどり着く。それは実にゲームのような感覚だった。




