転生の間
第十一話。戻ってきました、あの場所に。
蛇を最初に倒すのは、間違っていなかった。
入手した魔封石を持ってすぐにアレスコに行くのは、間違っていた。
ドルフィンを連れずに天軍師を倒しに行くのは、間違っていた。
けれど、魔封石とドルフィンがいれば、天軍師を倒せるという予感があった。
ふいに、微睡みから引っ張られるような感覚を覚え、まぶたを開く。
青年は白い部屋の中にいた。
白くて、何もなくて、天井も壁もわからない部屋。青年の体だけははっきりとしており、全身に力も入るのだが、奇妙な浮遊感のせいで上手く動けない。そもそも、自分が立っているか、寝ているのかさえわからなかった。
「ここは……?」
青年――狼刀の口から声が漏れる。
それは疑問文の体をなしていたけれど、答えを求めてのものではなかった。そもそも、狼刀はこの場所を知っている。
一度しか訪れていなくても、強く印象に残っている場所だ。
「ここは転生の間。って、答えれば満足?」
天使がふわりと舞い降りる。
「今までの中では、頑張った方だと思うけど、五回も死んじゃってさすがにもうあきらめる?」
狼刀の周りを飛び回る天使。
「ねー、どーすんの? 諦めるの? 魔王倒すの?」
狼刀は、その天使にただならぬ既視感を覚えていた。
最初にここに来たときに会っているから、当然と言えば当然なのだが、それだけでは何とも言えない。言うなれば、違和感があった。
「ちょっと、聞いてんの? ゆーきろーとさーん」
思考を巡らせ、狼刀は既視感の意味に気がつくと同時に、叫んだ。
「ドルフィン!」
「はぁ? いきなりどうしたの?」
怪訝な顔をする天使。
「お前、ドルフィンだろ? 天空民の」
狼刀は、確認するように言った。
態度といい、声といい、姿といい、似ているなんてものじゃない。髪や瞳の色こそ違うが、造詣は瓜二つ。むしろ、最初にドルフィンを見たときに、なぜ気が付かなかったのかが不思議なくらいである。
「確かに、あたしも天空民だったけど、ドルフィンじゃないわ」
「え……」
狼刀は間の抜けた顔を浮かべたが、天使は構わずに続ける。
「あたしは、マナティ。そして、あたしの妹が、ドルフィン。あの子は、まだ、あの世界で生きてるの。でも、このまま何もしないと、魔王に殺された天空民と同じ運命をたどってしまう。だから、他の天空民から特別な力を託されて、転生の間に残ったあたしには、ドルフィンを救う義務があるの。だから、強そうな人間を見つけては、あの世界に転移させてるの」
天使――マナティの長台詞を狼刀は呆然と聞いていた。
「いい? あたしの話、理解できた?」
「え、ま、まあ……」
「じゃ、決めて。魔王倒すか、諦めるか」
「…………」
マナティがいつになく真面目な表情を浮かべる。
「まあ、もし、もしもの話だけど……」
マナティはさらに言葉を続けるが、狼刀の意思は決まっていた。
「魔王を倒してやるさ」
攻略法は見えている。新たな敵が現れたって、何度でも立ち向かってやる。不可能なんてない。
真剣な顔の狼刀を見て、マナティは満足そうに笑う。
「じゃあ、いってらっしゃい」
「いってきます」
狼刀も、渾身の笑顔で応えた。
かくして、狼刀は異世界へと舞い戻る。




