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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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脱出戦

 第百話。ランフォーのーマネー

 大神官を下し、彼が召喚した破壊神も打倒した。邪神教(じゃしんきょう)の全体勢力がどれくらい残っているかはわからないが、討伐は完了したといえるだろう。

 狼刀とスペーディアは、祈りの間を後にする。

 ウオトラは疲れて動けないとのことで、置いてきた。二人の判断ではない。敵はもういないから大丈夫だと、ウオトラ自身が提案したのだ。

 狼刀は渋っていたものの、反対する理由が見当たらず、折れた。

 かくして、狼刀とスペーディアは大神殿から脱出するべく歩いている。のだが……

「嘘だろ……」

 狼刀は来る時に目印をつけていた。

 それが、途中で途絶えたのだ。道を間違えたのではない。道が崩れて通れなくなっていた。

 おそらくは、破壊神の余波によって。

「わたくしに任せなさい」

 スペーディアは自信に満ちた笑みを浮かべ、崩れていない道に向かって歩き出した。

「あてはあるのか?」

「ありませんわ」

 いつかみたパターンだ。

「でも、大丈夫ですわ」

 本人が本当に大丈夫だと思っているのだろう。その分タチが悪いのだが。

「仕方ないか……」

 他の案が浮かばなかったため、狼刀はスペーディアについて行く。

 同じところを通らないために、目印は残しておいた。元の目印と混ざらないように、向きだけは変えて。


 迷路のように入り組み、時々崩れた廊下は避けながら、二人は大神殿の中を駆け抜ける。


 たどり着いたのは、祈りの間よりもさらに大きな部屋だった。床には人が入れそうなくらいの四角い穴が無数に空いており、鉄格子で蓋がされている。

 狼刀は警戒しつつ、部屋へと踏み入った。スペーディアが後ろに続き、穴へと目を向ける。

「なに、これ……」

 スペーディアは手で口を覆った。

「……閉じ込められて、死んだのか」

 穴の中にあったのは、服を着た骸骨だ。手首や足首、首には鉄枷がつけられている。白骨化するまでにどれくらい時間がかかるかはわからないが、それが短くない時間であることは狼刀にも予想がついた。

 それほどの時間を、閉じ込められて過ごしたのだ。

「邪神教っ……」

 狼刀は拳を固く握り締めた。


「そこで何をしているのですか?」


 背後から声が聞こえ、狼刀はゆっくりと振り返る。部屋の入り口には、十数名の神官が立っていた。

「何者かは知りませんが、投降を勧めましょう」

 先頭に立つ神官が笑顔を浮かべ、にじり寄る。

「このアロイスが身の安全は保証します」

「お断りしますわ!」

 スペーディアは神官――アロイスの提案を一蹴した。神官の一団がどよめく。

「なるほど。残念です」

 アロイスはため息をつき、錫杖を構えた。

「命の保証は致しませんよ!」

「望むところですわ!」

 アロイスが、スペーディアが、神官たちが武器を構えて走り出す。狼刀は遅れながらも刀と竹刀を構え、踏み出した。

 リーダー格と思われるアロイスはスペーディアに向かい、残りの神官は狼刀に向かってくる。

 一対多。複数の神官(てき)に囲まれた状況での孤軍奮闘。その状況でも狼刀には余裕があった。より多くの神官(てき)を前にしても勝利してきたのだから、当然といえば当然である。

 だが、その余裕は一瞬で消えることとなった。

「くっ……」

 狼刀が全力で振り下ろした刀を、目の前の神官は受け止める。狼刀はすぐに竹刀を振り上げるが、それは別の神官に防がれた。背後から迫る気配を感じ、狼刀は横に飛んだ。

「強いな……」

 狼刀は二刀を構え直す。

 数は少ないが、強さは今までの神官の神官とは比べ物にならなかった。三者や三神官ほどではないが、少なくとも圧倒出来る相手ではない。

 せめて防戦にならないために、狼刀は床を蹴った。

 目的は倒すことでも、全員を捕らえることでもない。狼刀はこの場を切り抜けさえ出来ればよかった。

 アロイスと戦うスペーディアもそのことは理解しているだろう。

 狼刀はちらりと目を向ける。

 スペーディアの刀がアロイスを貫いていた。けれど、余裕の笑みを浮かべているのはアロイスだ。スペーディアは驚いたような、虚ろな表情を浮かべる。

 その体が崩れ落ちた。

「スペーディア!」

「させない!」

 狼刀は助けに向かおうとするが、その前に神官が立ち塞がる。狼刀は脇をすり抜けようと、姿勢を低くした。

「無駄です」

 神官は錫杖を回し、その行く手を塞ぐ。

 狼刀は刀を打ち合わせて、弾かれる勢いのままに距離をとった。倒れている暇はない。踏ん張りをきかせて、体勢を立て直す。

火炎魔法(エルマス)

 そこへ狙い済ましたかのように魔法が放たれた。

 勝負を決めに来たのだろうが、狼刀にとっては都合がいい。

 狼刀は魔法の発動に気にすることなく、スペーディアの元へと急いだ。

「スペーディア!」

 声を張り上げ、手を伸ばす。

火炎魔法(エルマス)!」

風切魔法(リーファ)!」

氷柱魔法(スイーレ)!」

 神官達は立て続けに魔法を放った。だが、それでは狼刀を足を止めることが出来ない。

「……止まりなさい」

 狼刀の前に白髪の神官が立ち塞がる。不気味な仮面のせいで顔は見えないが、声から判断すると女性だろう。

 狼刀の動きが僅かに鈍る。

「……死にたくなければ、武器を捨てなさい」

 神官は静かに二本の短剣を構えた。身に纏うローブこそ他の神官と変わらないものの、異質な神官だ。

「悪いが、通らせてもらう!」

 狼刀は刀を握り直し、床を踏みしめる。

「……そうですか」

 神官は膝を曲げ、跳んだ。優雅に舞うように、身をよじらせながら、短剣を振り下ろす。

 狼刀は刀で短剣を受け止め、竹刀を突き出した。

 神官は脚を振り上げ、竹刀を蹴り上げる。狼刀の手から、竹刀がこぼれ落ちた。

「まだだっ」

 空いた手を伸ばし、狼刀は神官の足を掴む。

「……なんですって」

 驚きの声を上げる神官。狼刀はその体を力任せに投げ飛ばした。床に叩きつければ死にかねない。狼刀の頭にはそんな判断があった。

 力が足りなかったというのも、あるが。

「……なかなか」

 神官は床に短剣を突き立てた。

 体を捻り、両足で床を踏みしめる。獣のような姿勢で、神官は狼刀に向かって飛び出した。

 狼刀は両手で刀を構える。

「なっ……」

 その瞬間、狼刀は背後から殴られた。

「眠りなさい」

 それが誰なのかを見る余裕は、狼刀にはない。

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