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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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大神官の力

第九十六話。最高権力者

 天の神官(アンジュ)が敗走し、戦者(ハルマ)や知恵者も戻らない。大神殿の入口を守護していた魔神(レラジェ)は討ち倒された。

 予言者(ジェーン)やその配下は反対側の守備についているから、呼び戻すことは出来ない。大神殿の中は迷路のように入り組んでいるが、神官達はほぼ全てが出払っている状況だ。

 すぐではないとしても、敵が祈りの間(ここ)に到着するは時間の問題だった。

「急がねばな」

 大神官マルティールは祈りを捧げ、魔法陣から溢れる魔力を、部屋の中心に浮かぶ魔力球へと注ぐ。一刻も早く、破壊神を復活させるために。

 だが、

 

「大神官!」


 敵の到着は、マルティールの予想よりもはるかに早かった。

「……こんなにも早く辿り着くとはな」

 レラジェを倒した後、道中でほとんど迷わなかったとすれば、これくらいで到着するかもしれない。そんなことを考えながら、マルティールは敵を見据えた。

 トレイス城の王女、スペーディア・ジャンヌ・トレイス。それから剣を持った男が二人。

「やむを得ん。我が相手をしてやろう」

 マルティールは鈍く光る錫杖を、高く掲げた。

「魔力よ、我に集え」

 マルティールの背後にある魔法陣から多量の魔力が放出され、錫杖に向かって急速に収束。魔力は錫杖を媒介としてマルティールの身体に流れ込み、その身に力を漲らせていく。

 本来なら破壊神召喚のための魔力だが、背に腹は変えられない。

極大(マキシ)火焔魔法(エルマス)

 左手を突き出し、溢れんばかりの魔力を込めて魔法を放つ。その威力は普段のそれとは桁違いだ。

 巨大な紅蓮の焔が、敵を飲み込む。

 だが、

「……仕留められなかったか」

 敵を倒すことは出来なかった。

 スペーディアと二刀流の男は変わらず立っているが、エース城の兵士と思われる男だけは膝をついている。

 おそらく、膝をついている男が防御系の魔法で防いだのだろう。

「だが、無駄な努力だ」

 男は一度防ぐだけで膝をつくほど消耗した。対するマルティールは魔法陣から無制限に魔力が供給させるのだ。

 同じ技をもう一度放てば、防ぐことは不可能。

 マルティールは左手を前に出した。

「させませんわ!」

 女の声だ。それも、すぐ近くから聞こえた。

 マルティールは魔法として放出しようとしていた魔力を全身に纏って、防御態勢をとる。

「くっ……」

 スペーディアの刀が、左脇腹を直撃した。魔力に守られ斬られることはなかったが、勢いで体勢が崩れてしまう。

「せぃっ、やぁっ、とぉっ」

 敵はその隙を見逃さなかった。スペーディアが連続で放つ突きは、一撃一撃が必殺の威力を持っている。マルティールは魔力で包んだ錫杖で受け止めるが、守るだけで精一杯だ。

 一方でスペーディアの突きは、徐々に鋭さを増している。

「離れろっ!」

 マルティールは魔力を勢いよく放出することで、スペーディアを怯ませ、距離をとった。魔力の放出と魔力による加速で大きく消費した魔力は、魔法陣から補給する。

「……幻影系の魔法。その使い手がいるのか」

 兵士は膝をついたままだが、もう一人の姿が見えなくなっていた。居なくなったということではないだろう。

 スペーディアが急に近くに現れたことと合わせて、マルティールは消えた男が幻影系の魔法を使ったと判断した。

「覚悟しなさい!」

 立ち止まっていたスペーディアが、眼前に現れる。

火焔魔法(エルマス)

 マルティールは魔法で迎え撃った。

 移動する姿を視認させなかったのだろうが、同じ手を二度食らうほど愚かではない。

「くっ!」

 スペーディアは横に飛んで炎を(かわ)した。マルティールは魔力による加速で距離を詰め、魔力の鎧を纏った左手でスペーディアの刀を掴んだ。

「なっ……」

 掴んだ感触が残っている。目の前のスペーディアは間違いなく、本物だ。

極大(マキシ)爆破魔法(ジャーリス)

 マルティールは二人の間で魔法を爆裂させる。マルティール自身も巻き込まれてしまうが、魔力に包まれているおかげで、傷を負うことはない。

 攻撃と防御で大きく魔力を消耗したが、おそらく敵の攻撃の要はスペーディアだ。補助の二人くらいは、どうにでもなるという自負があった。

「決着をつけよう」

 マルティールは錫杖を手放し、右の拳に魔力を集中させる。煙が晴れて姿を現したスペーディアは、鎧以外がボロボロで満身創痍だ。

「ま、だ……」

 それでも、瞳には諦めの色が浮かんでいない。

「いや。もう終わりだ」

 マルティールは必殺の魔力を込めた拳を振り上げた。

「させない!」

「無駄だ」

 二刀流の男が横槍――武器は刀だが――を入れてくるが気にしない。体に纏う魔力の鎧を突破することなど不可能だ。

 相手をするのは、スペーディアの後でいい。

 マルティールは拳を振り下ろした。

「なにっ!」

 スペーディアの姿が掻き消える。同時に、迫っていたはずの男の姿も霧散した。残ったのは、マルティールの手に握られたひと振りの刀だけ。

「はぁ!」

「やぁ!」

 左右から聞こえる掛け声。右からは二刀流の男が、左からは無事だったスペーディアが、迫る。

「無駄だ!」

 マルティールは左手に持つ刀を捨てて、両手を横に向けた。二人の攻撃を同時に受け止めるつもりなのだ。

 二人はマルティールの動きに構うことなく刀を振り下ろす。マルティールは視界の両端に二人を捉え、刀を受け止めた。

 男が振り下ろした刀だけを。

「幻影か!」

 左側から迫るスペーディアは幻。本物のスペーディアはマルティールの正面に立っていた。手にはマルティールが捨てた刀を持っている。

 武器は本物だったのだ。

 破壊しなかったことが悔やまれるが、気にしている暇もない。

「はぁっ!」

 スペーディアは――おそらくわざと――急所を外した突きを放つ。

「残念だったな」

 刀はマルティールには届かない。

 魔力の鎧が刀を防いだのだ。

 攻撃を受ける点に魔力を集中させることで、スペーディアの攻撃を受けて無様に体勢を崩すこともなかった。

「ほらっ!」

 スペーディアを蹴り飛ばし、男をぶん投げる。

 二人の奥には、片膝をついて(うずくま)る兵士がいた。

極大(マキシ)火焔魔法(エルマス)

 マルティールは両手を突き出し、一直線に揃った敵に向かって、限界まで魔力を込めて魔法を放つ。


 巨大な紅蓮の焔が、敵を飲み込んだ。


「手こずらせおって」

 攻撃と防御で膨大な魔力を消費した。

 だが、あのスペーディアを倒すためだったのだから、仕方ないのない消費だと言えるだろう。

 しっかりと燃やしきるまで放った焔が消える。

 そこに、敵は残って――いた。

「……なに?」

 おそらくは、最初と同じように防御系の魔法で防いだのだろう。だが、最初にその魔法を使った兵士は疲労していたし、スペーディアは魔法を使えない。残った男は魔法を使えるような体勢ではなかったはずだ。

 マルティールは考える。

 だが、すぐに思考を中断せざるを得なくなった。

「「覚悟なさい、大神官!」」

 たくさんのスペーディアが現れる。もちろん、一体を除いては幻影だろう。だが、本物がどれか見分けられない以上、全てのスペーディアに対処する必要があった。

 魔力の供給があり、魔力を纏うことでスペーディアの格を無効化出来るとしても、攻撃を無防備に受け続けていては魔力の損耗が激し過ぎる。

爆破魔法(ジャーリス)

 幻影が三体消し飛んだ。

「せいっ」

 攻撃を防ぐと、一体が消える。

「はぁっ」

 その近くで刀を構えていたのも、幻影だった。

火焔魔法(エルマス)

 錫杖から焔を放ち、その先にいた幻影達を焼き消す。

「くっ」

 ギリギリで防いだ攻撃は、本物だった。

火焔魔法(エルマス)

 すぐに錫杖を向け、魔法を放つ。迫ってきていた幻影は掻き消えるが、本物には逃げられた。

 姿を変えているのか、消したのか。背中を向けるスペーディアはいない。

「くそっ、きりが――」

 悪態をつこうとした瞬間に、全身から力が抜けた。

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