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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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VS魔神

第九十五話。待ち受けていた敵は

 狼刀(ろうと)がレラジェ達と戦っている頃。スペーディアもまた、レラジェの群れと戦っていた。

「無駄ぞ、下郎」

 スペーディアの斬撃は死神の格の力の一部を帯びた、防御不可能の斬撃だ。だが、敵も一撃必殺の矢をもっているらしい。

 勝負はいかに(かわ)し、いかに当てるかの勝負だと思われた。

「くっ……」

 そんなスペーディアの思いは瞬く間に裏切られることになる。

 一つ目は、敵が一体ではないこと。人間大から大きめの個体まで合わせて十体くらいはいた。

「このっ!」

 二つ目は、スペーディアの当てるの基準だ。

「無意味ぞ」

 枝を斬ろうと、幹を斬ろうと、レラジェは倒れなかった。動きが鈍るのも、再生する僅かな間だけだ。

 顔が浮かぶ果実を斬らなければ、レラジェは倒れなかった。

「隙ありぞ」

 だが、そうして狙いを定めていると、射撃準備の整ったレラジェが不治の矢を放つ。スペーディアはそれを(かわ)すか、斬り落とさなければならない。

 そんな状況で的確に果実を狙うことは難しかった。


 ◇


 狼刀とスペーディアがレラジェ達と戦っている頃。レラジェからターゲットにされなかったウオトラは何もしてなかった訳では無い。

 床に寝転がり、匍匐前進の要領で、ゆっくりと巨大なレラジェへと近づいていた。

 巨大なレラジェは攻撃を受けない限り、仲間(・・)を巻き込む攻撃は行わない。狼刀とスペーディアが小型のレラジェ達を引きつけているし、派手なことをしない限りは安全だ。

 ウオトラは巨大なレラジェの根元で、チャンスを待った。

「下郎が」

 巨樹の中央に実る果実が動く。人間くらいなら一呑みに出来そうなくらい大きいが、攻撃方法はそれではない。

「射殺してくれようぞ」

 ざわざわと枝が揺れ、不治の力が込められた矢が放たれた。一本ではない。無数の枝から、無数の矢が放たれた。

 狙いは、レラジェ達を封じ込めた狼刀。

 狼刀は敵を封じ込めたドームの陰に逃げ込んだ。巨大なレラジェの攻撃は、ドームに弾かれて狼刀に届くことはない。けれど、レラジェは攻撃をやめようとはしなかった。

 狼刀は殺られもしないが、殺れもしない。

 スペーディアは数体のレラジェと交戦中。


 二人の様子を確認して、ウオトラは動き出した。


「ここだ! 火魔法(エル)!」

「ぎぃあぁ!」

 ウオトラは立ち上がり、剣に火を纏わせて、巨大なレラジェの太い根っこに突き立てる。力任せに剣を振り上げ、引き抜くと、火のついたままの剣をレラジェの幹に突き刺した。弱い火は焼き目をつけるだけで、燃え広がらない。

「貴様ァ!」

 中央の果実がウオトラを睨み、攻撃の矛先を変えた。一斉に不治の矢が放たれる。

突風魔法(ヴェーファ)

 ウオトラは自らに向かって突風を発生させ、着弾地点から離脱した。

「ぐあぅっ」

 逃げを優先したため、受身を取ることも出来ずにウオトラは床を転がる。体勢を立て直そうとするが、レラジェが次の矢を放つ方が早かった。

「ここまで……」

 諦めたかのようにウオトラは目を閉じる。

 ほどなく、全身を貫くような痛みが襲って――こない。

 代わりに足首を掴まれた感覚と、引きずられるような痛みが全身を襲った。ウオトラは思わず目を開ける。

「意外とやるじゃない、あなた」

 スペーディアがウオトラの足首を持って、走っていた。

「ありが、いっ、とぁ」

 ウオトラは頭を強かに床に打ちつけ、手で抑える。その手が頭の下敷きとなって床に叩きつけられ、さらにダメージ。

「あの、スペーディア様、離し……」

「離してもいいけど、死にますわよ?」

「え?」

 離して欲しいと言おうとしたウオトラに対して、スペーディアは笑顔でその頭上を指し示す。ウオトラが顔を向けて見ると、無数の矢が床に突き刺さっていた。

「死にたい?」

 スペーディアが笑顔を浮かべる。

「いえっ、つぅ!」

 ウオトラは彼なりに考えて、されるがままでいることを決めた。


 ◇


 狼刀が城壁の盾の陰で手をこまねいていると、攻撃の音がピタリと止まった。狼刀はゆっくりと顔を出し、様子を伺う。

「ウオトラ……」

 巨大なレラジェの根元で、ウオトラが攻撃を仕掛けていた。攻撃してきていたのが巨大なレラジェで、今は彼に狙いを変えたのだ。

 狼刀はそのことを理解すると、竹刀を構えて、巨大なレラジェに向かって走る。小さなレラジェが何体か現れたが、最低限の動きで矢を(かわ)し、竹刀で倒した。

 巨大なレラジェがウオトラ目掛けて、矢の雨を降らせる。

 ウオトラは体勢を崩しながらも、矢を回避した。

 転がり倒れたウオトラに向かって、巨大なレラジェが再び矢を放つ。

 ウオトラは動くことが出来なかった。しかし、スペーディアが素早く駆け寄り、その足首を掴んで矢から逃れる。

「スペーディアがいれば大丈夫だな」

 狼刀は二人から視線を外し、巨大なレラジェだけを視界に収めた。そして、自分が勘違いをしていたことに気づく。

「嘘だろ……」

 狼刀が中庭だと思っていた場所は、レラジェの根っこが床を砕いて作り出した場所だったのだ。つまり、中庭の魔神ではなく魔神の中庭。

 とはいえ、驚いている余裕はない。狼刀は短く息を吐いて、思考を切りかえた。

「……あれは、危険な敵ぞ!」

 狼刀に気がついた果実が叫ぶ。

「くっ、いっけぇ!」

 これ以上近づく暇はないと判断し、狼刀は竹刀を投げた。綺麗な投擲とはいえないが、助走がついていたこともあり、竹刀は放物線を描きながら飛んでいく。

「くっ! 撃ち落とせェ!」

 レラジェは標的を竹刀に絞った。

 だが、走っている人間に当てることが出来ない狙撃手は、飛んでくる竹刀も撃ち落とせない。

 竹刀が刺さり、レラジェの体が消え始める。

「くっそがぁ!」

 レラジェは全方位に向けて矢を乱射するが、三人には当たらなかった。

「バースト!」

 最後の力を込めて、レラジェは炸裂する。大広間は(まばゆ)い光に包まれた。

「くっ……」

 狼刀はあまりの(まぶ)しさに目を逸らす。

 目が(くら)むような閃光が収束すると、巨大なレラジェの姿はなくなっていた。死ぬ前に何かをしたのだろうが、消滅してしまった今、狼刀にはわからない。

 それでも、レラジェを突破したことだけは間違いなかった。

「二人とも大丈夫か?」

 狼刀は、スペーディアと彼女に足を掴まれたウオトラへと駆け寄る。

「大丈夫よ」

「……な、なんとか大丈夫です」

 スペーディアは胸を張って、ウオトラは立ち上がりながら、答えた。

「ですから、進みましょう」

 ウオトラが拳を握りしめる。

 その意見に反対する人はいなかった。


 しかし、簡単にたどり着かせてくれるわけはない。


 大神殿の中は迷路のように入り組んでいた。

 突き当たりや交差する場所を見つける度に、ウオトラとスペーディアが悩む素振り一つ見せずに突き進んでいく。

 狼刀は道案内用に神官の一人でも連れてくるべきだったなどと考えつつ、通路に目印をつけながらついて行った。

 スペーディアにはデュース城での前例がある。

 気がついたら出口に戻ってましたという事態になりかねないのだ。

 だが、その心配は杞憂に終わった。

 何個目かの階段を登った先に、いかにもボスの部屋といった豪華な装飾の施された扉があったのだ。 

 ウオトラとスペーディアが、扉を押し開ける。

 その部屋の中央にいた人物は、淡く輝く球体に向かって両手を伸ばしている。何かを捧げるような姿勢だが、真実は分からない。

 だが、その人物には心当たりがあった。


「大神官!」


 手から腕にかけては白い肌着をつけ、体に纏うのは赤と紫に彩られた貫頭衣。大神官は傍らに浮かぶ銀の錫杖を手に取り、振り返る。

「……こんなにも早く辿り着くとはな」

 純黒の髪と力強さを感じさせる瞳が印象的な二十歳(はたち)くらいの男。それが狼刀が感じた第一印象だった。

「やむを得ん。我が相手をしてやろう」

 神官は険しい表情を浮かべつつ、錫杖を振り上げる。

 狼刀は無言で刀と竹刀を構えた。

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