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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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アンジュVSスペーディア

第九十話。異次元の戦いが

 狼刀(ろうと)の気迫に負けたのか、一人の神官がスペーディアがいると思われる場所を吐いた。狼刀はその真偽を深く考えずに、信用。

 神官達は無視して進もうとしたのだが、多勢に無勢では強行突破もままならない。

 そこへ予期せぬ来訪者が訪れる。

「大丈夫かい? ロウト」

 デュース城で別れたはずのハーティルだった。後ろには数名の兵士の姿も確認できる。

「先を急ぐんだろ。ここは任せてくれ」

 ハーティルと兵士達が狼刀を囲むように構えた。

「あぁ、頼む」

「任せろ」

 ハーティル達が道を切り開き、狼刀が駆け抜ける。数は神官たちの方が多いが、ハーティル達の動きは完璧だ。

 狼刀は振り返ることなく、走った。

 目指すは、スペーディアが待つトレイス城だ。

 左手と脇腹の傷は、いつの間にか塞がっていた。


 ◇


 トレイス城一階の大広間。爆発に巻き込まれずに残ったその一角にアンジュは佇んでいた。

 自身は爆発に巻き込まれたはずだが、その体には傷どころか汚れさえもついてはいない。

 そして、同じような状態の人物がもう一人。

「これは、予想以上だね……」

 スペーディアもまた無傷で抉れた地面に立っていた。いや、立っていたというと少し語弊があるだろうか。

 スペーディアは両手と両足、四肢で地面を踏みしめていた。

「キッ!」

 短い掛け声とともにスペーディアが跳躍。氷の爪を振り下ろす。アンジュはバックステップで回避。火炎魔法(エルマ)を放つ。スペーディアは氷の膜で防御。空中に生み出した氷柱を射つ。アンジュは軽やかな動きで氷柱から逃れた。それを追尾するように氷柱が放たれる。逃げ切れなくなったアンジュは爆破魔法(ジャーリス)で迎え撃った。爆煙で二人の視界が塞がれる。だが、スペーディアは氷柱での攻撃を止めようとはしなかった。氷柱が爆煙の中から不規則に飛来する。アンジュは防砦魔法(キャランサ)で氷柱を弾く。しばらくして氷柱が止まった。アンジュは防砦魔法(キャランサ)を解除。そのタイミングを狙ったかのようにスペーディアが飛びかかった。アンジュは光線魔法(シャレン)を照射。スペーディアは空中で方向転換し、光線を躱した。そして、大きく息を吸い込む。

「ま――」

 アンジュの声は、死の力を含んだ氷の咆哮に掻き消された。

 スペーディアは空中に氷を生み出し、その上に立つ。ゆっくりと下を覗き込むが、そこにアンジュの姿はない。


「――今のは危なかったね」


 声は、スペーディアの頭上で響いた。

 スペーディアは上を向こうとするが、アンジュが踵を落とすほうが早い。氷の膜が防いだためダメージはなかった。ただし、勢いを殺すことは出来ない。

 スペーディアは強かに地面へと叩きつけられた。

「キッ!」

 スペーディアは体勢を立て直しもせずに、氷柱を放つ。

 落下していくだけのアンジュに防ぐ術はない――はずだった。氷柱が当たるまさにその瞬間、アンジュの姿が掻き消える。

「少し大人しくなってもらえるかな?」

 次の瞬間には、スペーディアの真横に立っていた。

 スペーディアが振り向く。その隙を狙うようにして回し蹴り。氷の膜に包まれたまま、スペーディアは大きく飛ばされた。

「壊してみようか」

 蹴り飛ばされたスペーディアの眼前に、アンジュが現れる。振りかぶった拳は、赤く輝いていた。

爆破魔法(ジャーリス)

 アンジュが拳を叩きつけると爆発が発生。拳を離すと同時に、反対の拳を叩きつける。反撃の隙を与えずに、アンジュは爆発を伴う拳を叩きこみ続けた。

「ぐっ……」

 氷の膜は拳も、爆発も防ぐが、限界はある。

 十数発目の拳で、氷の膜が砕け散った。守りを失ったスペーディアは、爆発をまともに食らって吹き飛んだ。

「せいっ! てやっ!」

 アンジュは吹き飛ぶスペーディアの下から殴り、打ち上げられたスペーディアを横から蹴り飛ばした。

 爆発は起こらないが、氷の膜も形成されない。

 スペーディアは瓦礫の中へと落下した。僅かに足掻くが、ゆっくりとその動きが止まる。

 アンジュはふわりと地面に降り立った。

突風魔法(ヴェーファ)

 手を払い、突風で瓦礫の山を吹き飛ばす。

 宙を舞うスペーディアは、氷の膜に覆われていた。

「シッ!」

 瓦礫を足場に体勢を立て直し、アンジュに向かって飛び出す。氷の爪を巨大化させた姿は、まるで大きな槍のようだった。

神聖(セイク)火炎魔法(エルマ)

 アンジュは白く輝く炎で対抗。しかし、氷の巨爪を溶かすことは叶わない。

 一切減速せず、それどころか加速しながらスペーディアが迫る。

 アンジュは手をかざした。

相殺呪法(アルマロス)

 一瞬。

 たった一瞬で、氷の巨爪が消し飛んだ。

 無防備になったスペーディアに、アンジュは回し蹴りを繰り出す。氷の膜は間に合わず、蹴りが炸裂。スペーディアは瓦礫の上を転が続け、壁にぶつかって、止まった。

「グッ、キ……」

 スペーディアは瓦礫の中からゆっくりと這い出す。両手両足で大地を踏みしめ、体を起こした。

「シァッ!」

 全身に氷を纏い、鎧を形成。両手だけでなく両足にも鋭い爪が生み出される。白き尾にも氷を纏わせた。

 鎧を纏った獣の完成だ。

 スペーディアが駆け昇る。

 氷の鎧が重いのか、ダメージが大きいのか、その動きはそれほど速くはない。

常闇(ダーク)火炎魔法(エルマ)

 アンジュは黒く煌めく炎を放った。

 スペーディアは気にすることなく突っ込んだが、氷の膜は現れない。

「シィッ!」

 それでも、スペーディアは無傷で炎を突破した。おそらくは、氷の鎧が膜と同じ役目を担っているのだろう。

 動きが悪くなっても、打たれ強さは上がっている。

 アンジュは下に潜り込んで拳を振り上げるが、スペーディアはビクともしなかった。空中で立ち止まり、四方の爪を突き立てる。

 アンジュは胴体を蹴る勢いで、離れた。

 スペーディアが下を向き、息を吸い込む。

「シァッ!」

相殺(アルマ)火魔法(エル)

 アンジュの魔法は、氷のブレスを少し溶かすだけだった。それを見て、アンジュは安堵の笑みを浮かべる。

 アンジュはブレスの死角に入り、スペーディアの視界から外れた。

 標的を見失って、スペーディアは辺りを見回す。

 アンジュはその後ろ姿をしっかりと捉えていた。

陥没魔法(シレネ)

 スペーディアではなく、その周囲に魔法を展開。瓦礫の地面は高さを失い、スペーディアは地下へと落ちた。

 いまのスペーディアなら自力で上がってくるだろう。だが、時間は稼げる。


「さて、そろそろか」


 アンジュにとってはそれで十分だった。

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