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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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対面・天の神官

第九十一話。実は初対面

 狼刀(ろうと)が駆けつけた時、トレイス城は見るも無残な廃城となっていた。元々、廃城ではあったが、それはどちらかといえば古びた城だ。

 対して、今の姿は崩れた城だった。

「どうして……」

 狼刀は愕然としながらも歩みを止めない。ゆっくりとした足取りで、壊れた城門をくぐった。

 それ以上なにかを探すことは必要ない。

 探していた敵はすぐ目の前にいた。

「やあ、来たみたいだね」

 艶やかな金髪をなびかせる神官。狼刀はその神官の名前を知らない。だが、その姿には見覚えがあった。

 そして、その正体には心当たりがある。

「天の神官、アンジュ……」

 狼刀の呟きを聞いて、神官は不敵な笑みを浮かべた。

「正解。そして、あれがスペーディア・ジャンヌ・トレイス。君の求めてる人だよ」

 アンジュが指を指す。その指の先にいたのは、白い魔物だった。

 青き瞳の白い獅子。それが全身に氷の鎧を纏ったかようのな姿だった。狼刀の記憶を頼りにするなら、デュース城の地下で見た魔物が最も近いイメージだ。

「スペーディア……」

 狼刀の中で、目の前の魔物とスペーディアが一致した。

「シャッ!」

 そのタイミングを待っていたかのように、あるいは狼刀の呼びかけに応えるかのように、スペーディアが跳んだ。

 右手に巨大な氷の爪を形成し、振り下ろす。狼刀はトレイスの秘剣でその一撃を受け止めた。


「今の彼女は死神の格を暴走させている。一撃でも喰らえば死ぬということです」


 アンジュの声を聞き、狼刀は後ろに下がる。

「シッ!」

 スペーディアは体の周りに無数の氷柱を創り出し、狼刀に向けて放った。

 狼刀は防御ではなく、回避を選んだ。

 アンジュの言葉を素直に信じた訳では無い。ただ、その言葉を信じるだけの根拠があった。

 狼刀が躱した氷柱が地面へと突き刺さる。普通に考えれば砕けそうな勢いだが、氷柱は勢いを落とすことなく地面へとめり込んでいった。そして、少し遅れるようにして氷柱が空けた穴の周囲が腐り落ちる。

 最終的に、地面には氷柱の二倍ほどの直径の穴が残った。そんな痕が、床の至る所に空いている。

 それがアンジュの言葉を信じた理由だ。

「何をした!」

 狼刀はスペーディアの攻撃を(かわ)しながら、アンジュに詰め寄る。

「何も。彼女が勝手に暴走したんですよ」

「嘘つけ!」

「あら。これは信じてもらえませんか」

 アンジュは心外とばかりに笑う。

 狼刀はその態度が気に入らず、声を荒らげた。

「どうすれば元に戻る!」

「言ったところで信じますか?」

「くっ」

 感情的な狼刀に、アンジュは冷静に答える。

「まあ、重要アイテムはイベントが起きる前に入手してあるもの。とだけ」

 その台詞を聞いて、一瞬だけ元いた世界の記憶が蘇った。だが、今は関係ないと頭を切り替える。

「信じる信じないは君の好きにどうぞ」

 指を立て、アンジュは怪しげな笑みを浮かべた。

「くっ……」

 狼刀は考える。スペーディアの攻撃は止まることがないが、それくらいの余裕は残っていた。

 それでもいいアイディアは浮かばない。

「思いつかないかい?」

 アンジュは外野から茶々をいれる。

「うるさい。今考えてるんだ」

 自分はスペーディアの標的になってないからと、余裕の表情だ。

「いや、待てよ……」

 必死に考えを巡らせて、狼刀は『考える時間を稼ぐ方法』を思いついた。

 狼刀はスペーディアの攻撃を避けながら、一定の方向に動くように意識する。攻撃の苛烈さは変わらないが、それくらいのことは出来た。

「そこだ!」

 狼刀はスペーディアの攻撃を回避して、そのままアンジュの背後に回り込む。

「おっと」

 狼刀の狙い通りに、スペーディアはアンジュへと標的を切り替えた。

「無計画に逃げてた訳ではなかったんですね」

 スペーディアに狙われながらも、アンジュは狼刀へと声をかける。笑顔も絶やさず、まだまだ余裕がありそうだった。

 一方で狼刀には全く余裕が無い。

 スペーディアの攻撃は流れ弾に当たっただけでも即死級のダメージだ。隠れるような残骸もない――あったところで無意味だが――この場所では、狙いが逸れたからといって安心は出来ない。

 狼刀はスペーディアの背後に回り込むように立ち回った。

「完全に理性を失ってしまっては、魔物と変わりがないですね」

 アンジュはスペーディアの攻撃を(かわ)しながら、声をかけ続ける。スペーディアからの反応がないにも関わらずだ。

「いえ、今のは魔族に対しての侮辱ですね。理性を失っては魔物以下です」

 まるで狼刀のほうを向かないよう、スペーディアの気を引くかのように。

「今の姿を鏡で見たらどのように思うのでしょうか」

 アンジュは不敵に笑いかける。

「っ! そうか!」

 漠然と聞いていた狼刀だが、アンジュの言葉で一つの結論を導き出した。

「スペーディア!」

 ふくろから太陽の手鏡を取り出し、スペーディアのほうを向ける。かつて、魔物化していたスペーディアを元に戻した方法だ。

 結論が出れば、もっと早くに気づけることだったと思うだろう。ただ、切羽詰まっているときには意外と気づけないのである。

「スペーディア!」

 狼刀による二度目の呼びかけ。スペーディアはゆっくりと狼刀のほうを向いた。

 その姿が、太陽の手鏡に映し出される。


 それだけだった。


「シッ!」

 スペーディアが標的を狼刀へと切り替え、無数の氷柱を放つ。手鏡を構えていた狼刀は、咄嗟に動くことが出来なかった。

 けれど、氷柱は狼刀を貫かない。

「なぜ……」

 敵であるはずのアンジュが、狼刀を助け出したのだ。

「今、君に死なれると困るんですよ」

 アンジュは不敵な笑みを崩さずに、答える。

 狼刀にはその意図がわからない。だが、考えてる暇はなかった。

 スペーディアが大きく息を吸い込む。

「ブレスだ。逃げることを最優先にしないと死ぬよ」

 狙いがどちらかはわからないが、広範囲への攻撃であろうことは予想可能だ。そして、その威力は推して知るべし。

「シァッ!」

 スペーディアが氷のブレスを放った瞬間。狼刀とアンジュは弾き合うように左右に走った。

 距離があったことも幸いして、ブレスは二人の間を抜けていく。地面は大きく抉れ、延長線上にあった城壁は跡形もなく消え去った。

 まともに喰らえば、確実に死ぬ。

 狼刀は改めてそのことを認識した。

「シッ!」

 ブレスを外したスペーディアが、狼刀に狙いを定める。大きく跳躍してからの、氷の爪の振り下ろし。狼刀は後ろに下がって回避を試みる。

「クッ……」

 が、スペーディアは空中で体勢を崩し、落下した。

 考えるまでもない。

 アンジュが背後から攻撃を加えたのだろう。狼刀に魔法を知覚することは出来ないが、そうとしか思えなかった。

 それを裏付けるように、アンジュは腕を前に突き出している。

「シャッ!」

 スペーディアが狙いをアンジュへと切り替えた。狼刀はその間に、スペーディアを元に戻すための方法を考える。

 アンジュの考えはわからないが、狼刀にとっては、図らずも得られたチャンスだった。

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