番外編・友達作ろう作戦01 お茶会へ行こう
番外編です。カール兄さんの結婚話のリクエスト、買い戻した宝石はどうなった?などにお応えしました。
どうぞ、お楽しみください!
アストリア王国で今、最も話題の人物。それは、王太子エドヴァルド殿下を魅了し、瞬く間にその婚約者となったミナ・ウィスタリア嬢である。その正体は、パルマでも一、二を争うド田舎の貧乏貴族で、アストリアに来る前は、平民のように働いていたらしい。誇り高いアストリアの令嬢にとっては、許し難い事実であった。
「内乱で高位貴族が半減した今こそ、下剋上のチャンスだったのに!!」
王太子妃の座を外国の貧乏人に奪われてしまったのだ。野望に燃える過激派達は、切歯扼腕、ハンカチを噛み千切る程悔しがった。
「ミナ・ウィスタリアを引き摺り下ろす!」
こうして、仁義なき女の戦いが始まったのである。
◇
ミナは王妃教育というのを受けている。何と、エド様の母君と一緒に。前王妃様が出家したので、側妃様が新しい王妃様になったのだ。柔らかな茶色の巻毛に、エド様と同じ深い青い瞳の、素晴らしい美人だ。ぽっと出のミナにも優しく接してくれる、慈愛に満ちたお方だが、少し気が弱い。
「明日から謁見に同席するのよ。ああ緊張する。大勢の人に見られるなんて。きっと前の王妃様と比べられて、『やっぱり威厳が足りないな』とか思われちゃう。そもそも、私の実家は貧乏伯爵家だもの。生まれながらの王族には敵わないわ。でも陛下が『お前なら大丈夫だ』って仰るから、『まあ、エドヴァルドが即位するまでなら』って軽くお受けしちゃったの。他にも側妃が居たんだけど、ノルディ家もペデス家も消えてしまったでしょ?気がついたら私一人しか残ってなくて。それに『今更名家の娘を娶る訳にもいくまい』って仰るし。それはそうよね。50歳の花婿に10代の花嫁とか、可哀想じゃない?」
そして、とてもお喋りな方だった。授業の休み時間、茶を飲みながら、ミナは王妃様の苦労話を聞かされていた。
「でも陛下、イケオジですし。年上好きなら、有りかも知れませんよ」
「イケオジ…素敵なのは認めましょう。私もお顔に騙された口だもの。でもね、お勧めできないわ。夫や父である前に王様なのよ。エドヴァルドを修道院に入れた時も、何の相談も無しに、いきなりよ。軟禁中だって、仮病を使って死ぬフリをしたら、やっと来てくれて。酷いでしょ?いつも前の王妃様に気をつかってて、本当に嫌だったわ」
「そういう話、ご夫婦でしないんですか?」
「できないわよ。後宮での会話は、全て前の王妃様に筒抜けだったんだから。私、そこだけは改善するわ。プライバシーは守らなきゃ。ミナちゃんとエドヴァルドが、今日、何回口付けたとか、コソコソ伝えにくる侍女は、みんなクビにしたから。安心してね」
ミナは顔が熱くなった。日々、エド様とイチャイチャしてるらしいが、全然記憶にないのだ。なのに、『王太子殿下を誑かす悪女』などと言われて、辛い。
どんよりする嫁に、姑は助言した。
「私も後宮に入ったばかりの頃は、散々虐められたわ。でも、陛下はちっとも守ってくれなかった。お飾りの王妃になっても同じでしょうね。自分の身は自分で守らないと。ああ、でも大丈夫よ。私がミナちゃんの後ろ盾だから。お互いに助け合っていきましょう。この先、陛下やエドヴァルドがどんな女を囲っても、私たちの絆があれば、乗り越えていけるわ…何?下を向いちゃって。どうしたの?…キャーっ!!」
「面白い話をしているな」
王様が、王妃様の肩を後ろから掴んでいる。『静かに』と言うジェスチャーで近づいていらしたので、ミナは黙っていたのだ。
「誰が、何を囲うと?」
「あ、あははははー。お越しですか。陛下。お茶でも…あら残念!次の授業が始まりますわ」
ご機嫌よう、と席を立とうとする妻の肩を押さえ込み、陛下は怖い笑顔で言った。
「政治学の授業だったな。どれ、王妃には余が直々に教えてやろう。ミナ、良いか?」
ミナは慌てて席を立った。
「承知いたしました。先生にはそうお伝えします」
『助けてー!』と目で訴える王妃様を置いて、離脱する。なんだかんだ言ってお二人は仲が良い。しがらみの減った分、夫婦の距離が縮んだみたいだ。
でも、何か引っかかる。
(アストリアって、男子だけが継承権を持つんだよね。もし女子しか生まれなかったら…取るだろうな。側妃)
悲しいかな。それが王家の定めだ。いや、待てよ。王様は元王妃様との間に2人も男児が生まれたのに、エド様の母君や、その他側妃に迎えている。何故だろう?
①側妃方が超魅力的だった。
②王様は超女好きだった。
③アストリア人は超子供好きである。
と言う推理を述べてみたら、政治学の先生に爆笑された。
◇
「どれも不正解!30年前の政治史は覚えてますか?」
お爺さん先生は涙を拭きながら訊いた。
「えー。ラビニア王国と国交回復、ノルディ将軍が軍部を掌握、地方領主が増税反対運動を起こす」
ミナの回答に頷いて、先生は、王権という屋根を何本かの細い柱が支える図を、黒板に描いた。
「これが陛下が即位した頃のアストリア王国です。今にも倒れそうでしょ?それぞれを補強するために、婚姻が行われました。敵対国だったラビニアからは王女を娶り、軍部を抑えるため、地方領主を纏めるために、大貴族から側室を迎えたのです」
「なるほど。では今は?」
先生は細い柱を消して、太い柱を2本描いた。
「一つはパルマ王国です。陛下の妹君が王妃になりました。もう一つはエドヴァルド殿下。還俗したものの、修道騎士団を掌握していますし、今回の内乱で勝利した大将軍ですから」
「なるほど」
「以上のことから、陛下が趣味嗜好で側室を迎えたのでは無い、と分かりますね?ちなみにアストリア人は普通に子供が好きです」
大体は理解できたが、ミナは残る疑問を尋ねた。
「新しい王妃様は貧…それ程大きくない家のご出身だと伺いましたが」
「うーん。後宮内の政治だと思いますよ。他の家を牽制する目的で、適度に弱い家から側妃を入れたのかもしれません。さて、ウィスタリア嬢。柱はこれで十分でしょうか?」
先生は抜打ちテストが好きだ。でもミナが答えられなかったので、それは宿題となった。
◇
恐らく、先生はミナに『エド様を支える柱になれ』と言いたかったのだ。その為には、政治的な力を持たねばならない。王太子宮に与えられた部屋に戻ると、ミナは課題を書き出した。
①実家が太くない→兄に出世してもらう(最低でも将軍以上)
②悪女と噂されている→友達を沢山作って誤解を解く(目指せ最大派閥)
③男子を産めるか分からない→側妃を迎える(セクシー系、愛嬌系、癒し系等)
…正直、③は考えたくもないが、必要なら仕方がない。とりあえず、今できるのは『友達を沢山作る』だろう。
ミナは専属侍女のシリを呼んだ。
「何か招待状は来てる?」
「はい。トキオ伯爵家のお茶会と、ラージャ伯爵家の舞踏会が来ています。どちらも投資で財を成した大金持ちです」
「じゃあ、両方行ってみるわ。そう返事をして」
「かしこまりました」
それから数日、招待してくれた家の歴史や家族構成を頭に叩き込み、ドレスや手土産の準備を整えた。そして『友達を作ろう作戦』・第一弾を開始した。
◇
最初はお茶会だ。トキオ伯爵家は実に立派なお屋敷だった。総資産額は王家に次ぐという大金持ちらしい。今日はそのご令嬢からの招待だった。
ミナが着いた時、豪華なサロンには、既に大勢の若い令嬢達が集っていた。
「初めまして。ジュリアナです。ようこそお越しくださいました」
同い年くらいの、赤みがかった金髪の女性が出迎えてくれる。ピッタリとしたマーメイドラインのドレス、羽根のついた扇。早速、セクシー系側妃候補を見つけてしまった。
「初めまして。本日はお招きありがとうございます。これ、お土産です。召し上がってください」
「ご丁寧にどうも。さあ、こちらへ」
手土産のマカロンを渡し、それぞれの出席者と自己紹介をした後、和やかに茶会が始まった。しかし、出されたお茶を一口飲んで、驚いた。
(渋い。不味い)
「お口に合いませんか?今日の為に用意した最高級の新茶ですよ」
と言うジュリアナ嬢は笑顔である。もしや、味覚がおかしいのでは?これでは側妃失格だ…そう思ったミナは、そっとティーカップを置いて彼女と向き合った。
「ジュリアナ様。よろしければ、手本をお見せします」
「はい?」
席を立ち、後ろに控える侍女の所へ行く。そして茶器が載ったワゴンをテーブルの側に寄せて、ジュリアナ嬢によく見えるようにした。
「新茶は熱湯で淹れてはいけません。このように、少しだけ冷ました湯を使います。蒸らし時間も短めに。さあ、どうぞ。エド様…エドヴァルド殿下のお好みは、渋みの無いスッキリとした味です。覚えてください」
ジュリアナ嬢はポカンと口を開けていたが、
「…ありがとうございます。ところで、元第一王子妃が女児を産んだのはご存知ですか?」
全然違う話題を振ってきた。すると、黙っていた他の令嬢達が急に囀り始める。
「まあ!なんて図々しい!」
「産む前に自決すべきでしたわ!」
「陛下もお優しいこと。追放程度で済ますなんて」
スカーレットさんは、相当嫌われていたらしい。第三王子から第一王子に乗り換えたから?確かに腹黒い部分はあった。しかし、そこまで言われるほどの悪女ではなかった。
すかさず、茶会の主人であるジュリアナ嬢が、批判ムードを変えようとする。
「でも皆さん、覚えていらっしゃる?スカーレット様とエドヴァルド殿下が、お揃いの青い衣装でお出ましになった夜会を。確か殿下のお誕生祝いでしたね?ダイヤを散りばめた、あのドレスは素晴らしかったわ」
「ブルーダイヤのネックレスも、殿下の贈り物でしたね」
「婚約前なのに、ずーっとお二人で踊ったりして。それがまた、絵になって」
「宮廷画家が描いて、話題になりましたよね」
「その絵はどこで見られるんですか?」
ミナが会話に入った途端、サロンは静まり返った。ジュリアナ嬢は引き攣った笑顔で、他の令嬢達は固まっている。数秒後、その中の一人がおずおずと口を開いた。
「王宮の保管庫にあるはずです…ミナ様。ご覧になりたいのですか?」
「え?いや、エドヴァルド殿下の目に入らないよう、封印しなきゃと思いまして」
「封印?」
「スカーレットさんの名前を聞くと、とてもお辛そうですから」
そこでジュリアナ嬢が笑い声を上げた。
「オホホホ!まだお気持ちがあるのでしょう。お気の毒ですね!」
「全くです。溢れる殺意を堪えていて、本当にお気の毒なんです。だから殿下の前では、『スカンク』とか『スカーフ』とか、『スカ』のつく単語も避けています。ジュリアナ様もお気をつけください。うっかり言ってしまうと、締め殺されるかも知れません」
「…」
再び沈黙が広がる。その後は大して盛り上がらず、世間話をしたぐらいでお開きとなった。
ミナは帰りの馬車で反省した。
(脅しすぎちゃった。あれじゃエド様が鬼だわ。気をつけようっと)
でも、親しくなれそうな人(保管庫を教えてくれた令嬢)は見つかった。それで良しとしよう。『友達を作ろう作戦』は始まったばかりだから。
♣︎
「何あの人?!アホなの?」
ジュリアナは羽扇を真っ二つに折った。他の招待客が帰った後、サロンには2人の令嬢とジュリアナだけが残っている。
「わざと渋いお茶を淹れたの!なのに、『エドヴァルド殿下のお好みは〜』ですって?!惚気るんじゃないわよ!貧乏人が!」
地団駄を踏んでいると、マハ・ラージャ伯爵令嬢が笑い出した。
「ホホホホ!スカーレット様の話も失敗だったわね。余程、愛されてる自信があるんでしょう。人目も憚らず、いちゃついてるそうだから。知らなかったの?」
「知ってるわよ!でも、殿下から贈り物をされたって聞かないでしょう。それをネタに揺さぶるつもりだったの!」
「身一つで外国の宮廷に乗り込む女よぉ?強かに決まってるわぁ」
と舌足らずな喋り方は、ベル・ファーレ子爵令嬢だ。3人は王太子妃(元第一王子・カレルヴォ)の座を競い合う仲だったが、今は邪魔者を消す為に共同戦線を張っている。
マハが腰を上げた。
「じゃあ、次は私の番ね。期待して良いわよ」
ジュリアナとベルは『何をする気?』と言う目で彼女を見る。マハの愛らしい口から、ぞっとするような言葉が吐き出された。
「ミナ・ウィスタリアを派手に潰す。大勢の目の前でね」




