第七話
リジーは勤め先の街外れの織り物工場近くの小さなアパートを借りた。
家は売り払った。閑散とした街の為、それほど金にはならなかったが。
一度は両親が大切にしていた店だ。料理の味も覚えている。少しずつやってみようと思った。
身体が動かなかった。
そこかしこに思い出がありすぎて立ち止まる。まるで声が聴こえるようだ。
両親が倒れ、愛息子が亡くなるまでたった一週間。
たった一週間だったのだ。あっという間だ。
『リジー、行ってらっしゃい』
『リジー、おかえり』
『ママー!』
毎日毎日泣き崩れる。涙が枯れることはない。
ここは辛い。ここにはいられない。
自分で命を絶つことはできない。魂はそこで終わって、転生できないと言われている。
『生まれ変わったらきっとどこかで会えるわ』
そうジャックに言ったのは自分だ。
生きるしかない。
でもここでは無理だ。生きることを拒否してしまう。
いつかまたここに戻れるまで、リジーは離れることにしたのだ。
リジーは働いた。働きまくった。泣く暇を作らないように。
この街を離れることはできなかった。思い出は辛くとも、両親とジャックが眠る街なのだ。
毎日神殿の裏の共同墓地に花を添える。それがリジーの習慣だった。
ファビオは……。
届くか届かない手紙を冒険者ギルドに渡した。
もちろん返事は届かない。
相変わらず送金はしてくれたが、リジーが手を付けることはなかった。
『冒険者なんてそんなものよ』
という言葉に、「その通りよ」と、今ならリジーはそう返すだろう。
ファビオは知らない。
どんな気持ちでリジーが待ち、どんな状況にいるのか。愛する息子がこの世にいないことも。
リジーは生きている。ただ淡々と。
笑うこともない。
魂はすでに旅立っているかのように。
身体だけがこの世にあるように。
そう過ごして十年以上。たった一人で……。
ある日、アパートに片足を失った男が訪ねてきた。
「……リジー」
「……ファビオ?」
するとその男は身体を支えていた杖を放り出し、膝をついて頭を下げた。
「すまない!すまない!すまない!」
泣きながら頭を床に叩きつける。
「ファビオなのね」
「……ああ」
「そうなのね、でもどうでもいいわ。謝られても今更ね」
ああ、そうそうと、リジーは部屋の引き出しから冒険者ギルドのカードを持ってきてファビオに渡した。
「お金に手を付けてはいないわ。あなたのものよ。私一人だもの、必要ないわ」
「すまない!すまない!知らなかったんだ!」
ファビオはまた床に頭を殴りつける。
リジーはふーっと嘆息し、
「いいわ、入って」と部屋の中に入るよう促した。
リジーはファビオを座らせお茶を入れた。
「どうしたの、その足」
「あ、ああ。ここに帰る途中、レベルの低いパーティーと即席で組んでダンジョンに潜ったんだ。そこで魔物にやられて……。三ヶ月ほど生死を彷徨って、気づいたら足がなかった。それで帰るのに時間がかかったんだ」
「十年以上も?」
「い、いや、それは……」
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