第五話
リジーの街のダンジョンが攻略された。
冒険者は次々とこの街を去って行く。
結婚後、食堂の側のアパートに二人は居を構え暮らしていたが、ダンジョンが攻略されたことで、食堂の売上は落ち、ファビオも例外でなく、細々と薬草採取や護衛などで稼いでいたものの、暮らしは困窮してきた。
「三つ向こうの街にダンジョンがある。そこに行こうと思うんだ」
このままでは暮らしていけないからとファビオは言った。
「でも、私は……」
リジーは妊娠していた。新しい街まで行くことも、初めての場所で暮らすことも身体に負担がかかる。
「うん。だから俺一人で行くよ」
「ファビオ!」
離れたくない。離れたくないけど、このままじゃいられない。分かっている。けれど二人で過ごした時間が少ない。
二人はお互いを強く抱きしめた。
「手紙書くから」
「……うん」
「ちゃんと仕送りもする」
「うん」
「時間ができたら帰ってくるよ」
「うん」
「この子にも会いたいし」
ファビオはリジーの腹を擦る。
「……っ、うん」
リジーの涙は止まらない。
「絶対に帰ってくるから」
「絶対よ!」
「ああ、絶対だ!」
一週間後、アパートを引き払って食堂の両親のもとに戻り、リジーはファビオを送り出した。
ファビオはリジーの両親に「二人をよろしくお願いします」と頭を下げ旅立った。
初めての手紙はファビオがこの街を去って一ヶ月後だった。
無事ダンジョンのある街に着いたこと。
住む所が決まったこと。
順調に稼げていること。
お腹の中の子とリジーを心配していること。
愛していること。
二人に会いたいと。
リジーは手紙を抱きしめて眠った。
次の手紙には、お腹の子の名前を考えたと書いてあった。
男の子ならジャック。女の子ならリアナと。
産み月には帰れそうだと。
リジーはまた手紙を抱きしめて眠りにつく。
そして生まれたのは男の子。ジャックだ。
ファビオはリジーの手を握りしめ、
「ありがとう」と大泣きしている。
ファビオは約束通り、予定日前にリジーの元へ帰ってきてくれた。大きくなったお腹に驚き、いつでも生まれてきていいよと話しかけていた。
ファビオは後ろ髪を引かれるようにダンジョンのある街へ戻って行った。
ジャックが生まれて一週間後だった。その間小まめにジャックの世話をし、リジーに気遣い、「戻りたくないなぁ」と言いながら。
それからの手紙には、ジャックの事ばかりで、リジーは、意外と子煩悩なのね、と笑いながら読んだ。
隣ではジャックがすやすやと寝ている。あと一時間もしたら、乳が欲しくて泣くだろう。子育てのつかの間に読む手紙はリジーの宝物だった。
ジャックが二歳を過ぎた頃、手紙が届く間が広がった。ソロで活動していたファビオがパーティーに入ったそうだ。その方が難しいダンジョンへ行けるし、金も稼げると。
今のままで十分だと手紙を送ったが、ファビオが旅立った後だったらしい。宛先不明で戻ってきた。
冒険者ギルドを通して送金はされている。ファビオの言う通り、金額も増えていた。だが、移動をしているらしく、今どこにいるかは把握できないらしい。
「冒険者なんてそんなものよ。私も五年も会っていないわ。手紙も一年に一度くらい。送金はありがたいけれどね」
と同じくギルドに来ていたリジーより十程歳上の女性が苦笑いした。
リジーはそういうものだと理解した。理解はしたが寂しくてたまらない。
ずっと家族と暮らしてきたリジーにとって、愛する夫と別々に暮らすことなど想像すらしていなかった。
手に手を取ってジャックを育て、ジャックの弟妹ができ、仲良く歳を取っていくものだと思っていた。
『冒険者なんてそんなものよ』
ギルドで知り合った女性の言葉が頭の中で繰り返される。
何度も……。
何度も……。
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