第三話
エルルの卒業後は聖女として神殿に入ることが決まっている。
十三歳の時、聖魔法が発現した。それも癒しの魔法、浄化魔法共に強い。
ならば何故、すぐ神殿に入るのではなく、こんなにカリキュラムの厳しい学園に入学したのか。
エルルは、前世で子を亡くしたことがあった。高熱の子を抱え、神殿に向かったが、間に合わなかった。
あの時、何故もっと早く気づかなかったのか、後悔は尽きない。
そしてもっと自分に知識があればと。
だが平民は慈善事業の学習塾で読み書きを習うことぐらいしかできなかった。
今世はせっかく貴族に生まれたのだ。貪欲に学ぼうと決めていた。
馬に乗れるようになれば、馬車の通れない道の先にある、小さな田舎街にも助けに行ける。
薬学を学べば、聖女が到着するまでの対処の仕方を教えられるかもしれない。
剣術や魔法を学べば、魔獣との戦地へ行き、後方支援でなく、自分の身を守りながら、最前線で力になれるかもしれない。
もちろんただ学園生活をしてみたかったのもあるが……。
とにかく馬術だ。
エネアのアドバイスで、飼い葉を与えることから始めた。
「ビクビクするな!淑女教育を思い出せ!」って訳の分からないことをエネアは言う。
淑女教育?……えーっと微笑み?
とりあえず、馬に向かって微笑んでみる。すると先程までフンフンしていた鼻息が落ち着き始める。
手の震えは収まらないが、顔に出さず、ゆっくり一歩ずつ近づく。餌場に飼い葉を置き、静々と後ろに下がる。
「で、出来た」
エルルは厩舎を出て胸を押さえる。震えはまだ止まらない。
「な、出来ただろ」
「そ、そうね。でもドキドキはまだ止まらないわ」
「馬は敏感なんだ。今みたいにニコニコしていれば、馬はコイツは安全だと思うんだよ。怖がられていると返って何するか分からないからな」
「何となくコツは掴んだ気がするわ。ありがとう」
「うん」
それからもエネアはエルルに付き合って、厩舎で馬に餌を与えていた。
エルルが何してもエネアは側にいる。当たり前のように……。いや、エネアにとってエルルの側にいることは当たり前のことなのだ。
エルルの周りもエルルとエネアを一緒くたにしている。
どうしてエルルに拘るのか。もうリジーでもないし、マリアでもないのに。
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