第二話
エルルの通う学園は、爵位別のクラスで構成され、領地経営、魔法、薬学、剣術、馬術、ダンス等、オールマイティな授業が行われている。
男子であっても女子であっても必修科目で、難しい試験に合格すれば自由科目になるという、なかなか厳しいカリキュラムだ。
特に、下位貴族は、入学するまでの教育に差があるため、紳士淑女教育はものすごく厳しい。
エルルのいる子爵クラスも放課後を楽しむなんて余裕はない。
各科目の補習を受け、分からないところは教師に聞いたり、仲間同士教え合ったりして、何とか授業についていく状態だ。
そんな中で、仲良くなったのがエレノアで、彼女は異国の爵位の高い令嬢の転生者で、厳しく躾けられたことから、この国の歴史が前世とごちゃ混ぜになって、どうしても頭に入ってこないと苦労していた。
そこで声をかけたのがエルルとシェリーで、私たちも歴史は苦手だからと三人で机を囲むようになった。
新しい友人が増えていく中、エネアはニコニコとエルルの後ろに座っていた。
「ねえ、エネア。貴方も私にばかり構ってないで、友人達と勉強でも訓練でもしなさいよ」
「良いんだよ、エルル達の話を聞いていれば勉強になるし、エルルの側にいたいから」
ヒューヒューとクラスメイト達が囃し立てる。
もう……とエルルは嘆息する。
そんな半年が過ぎ、エルルの苦手な馬術の授業が始まった。
幼い頃、父に連れられ牧場へ行ったことがあった。そこは軍馬専用の有名な牧場で、エルルの見たことのある馬より一回りも二回りも大きかった。
近くまで行けば、さらに大きく感じ、小さなエルルは食べられちゃう!とギャン泣きした。そうなれば馬も落ち着かない。フンフンと鼻息を荒くしてドシドシと脚を踏み鳴らす。エルルはあまりの怖さに気を失ったのだった。
それ以来、他の動物は大丈夫だが、馬だけは駄目だった。馬車に乗る時も、従者の背に隠れながら乗るほどだ。
学園で飼っている馬は、エルルが幼い頃に見た軍馬より小さめだが、近づくだけで、エルルの顔色は青ざめていく。
クラスメイト達は鞍を着け、乗馬の用意をしていくが、エルルはなかなか近づけない。
教師には前もって馬が苦手なことを伝えてある為、今日はニンジンを食べさせるだけで良いことになっている。だが、掌にニンジンを置き、馬の口の前に差し出すだけがどうしてもできない。
馬場を一周してきたエネアが、
「エルル、大丈夫か?」と声をかけるが、
「だ、大丈夫よ!」と言う割に声が震えている。
エネアは手助けしたかったが、出来るからそこで見てて!とエルルが言うため、馬をつなぎ見守った。
意を決して腕を伸ばす。指はしっかり伸ばすように言われている。そしてゆっくりゆっくり一歩ずつ馬に近づく。
ベロン、パクッ。
「ヒッ!」
足元から全身に鳥肌が立ち、エルルは気を失った。
エネアは急いで駆け寄り、何とか抱きとめた。エルルの顔は青白く、とりあえず馬の見えない場所まで抱きかかえ移動し、木陰にゆっくりと腰を下ろした。
エネアの腕の中でエルルは青白い顔のままだ。
地面に倒れ込む寸前に抱きとめられたから、怪我はないはずだが、今世ではこんなにもか弱い令嬢なのかと、エネアはエルルを支えている腕に力が入る。
今世こそ幸せにするんだ……。
「……エネア?」
「エルル。良かった。目が覚めたんだね」
「私……」
「馬にニンジンをあげたところで倒れたんだよ」
エルルは思い出したのか、身体に力が入ったのが分かり、
「大丈夫。ここから馬は見えないよ」
と、エネアはエルルに回した腕で、ポンポンとエルルの肩を優しく叩いた。
エルルはホッと息をつく。暫くそのまま、二人で木陰で休んだ。優しく風が吹いていた。
「……ねえ?」
「何?」
「いつまでくっついてるの?」
「もう大丈夫?」
「とっくに大丈夫よ!」
そう言ってエルルは、エネアの腕の中から抜け出し立ち上がる。
「良かった」
「……ありがとう」
それからエルルは、厩舎での世話をかって出た。
エネアのアドバイスを受けて……。
エルルは負けず嫌いだ。馬を前に気絶したことが悔しくてたまらない。
とにかく馬に触れないことには次に進めない。クラスメイト達はもう高い障害物さえ飛べるようになっている。
「え〜そんなに怖い?」
「馬って可愛いじゃない」
シェリーとエレノアは言うが、エルルはブンブン首を振る。
「全然可愛いとは思えないわ。あの鼻息がどうしてもダメ」
すると、エネアが横から
「エルルは怖がりすぎなんだよ。それが馬に伝わっているんだ」
「そうなの?」
「うん、だから馬の世話から始めたらどうかな」
「馬の世話!?」
「俺も手伝うから」
そうまで言われたらやるしかない。馬術は比較的優しい方の必修科目だ。だからこそ、落とす訳にはいかない。もし落としたら卒業も危うい。
「やる!絶対に馬術を極める!」
そうする理由がエルルにはあった。
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