第十七話
「……いなくなった?」
帰宅したラウルに告げられたのは想像のつかなかった言葉だった。
「早馬を出したのだけれど、すれ違ったのね……」
「どうして!?」
これを、と渡された紙には、
『私がここにいる意味がありません』
とマリアの字で書かれていた。
家族は、ラウルに頼まれた通り、食事を共にし、マリアの体調を気遣い、穏やかに過ごせるようにしていた。出ていった理由に心当たりはない。
しかも出ていったのは夜で、皆が眠りについた後のようだと。
ラウルは目を瞑り、マリアの気配を探す。出会う前のように。けれど何かに邪魔されるように感じ取れない。
「何故……」
最悪の事態が浮かぶ。
いや、何かに邪魔をされているのが分かる。ということは生きていることは確かだ。
ラウルはそのまま家を飛び出した。
マリアは西の国に居た。マリアの存在を感じ取れるラウルに見つけられるのは想像の範囲内だ。
だからラウルの出張先とは真逆の国を目指した。
少しの間だけでも一人になりたかった。至れり尽くせりの場所を捨てるなんて、端から見れば我儘なのは分かっている。
ラウルの側に居るだけの存在。
ただ何もせずに……。
息が詰まりそうだった。自分を人形のように感じた。駄目だった。だから家を飛び出した。
マリアにとって必然だったのだ。
マリアは修道院に居た。自分で考え、自分で行動した。それは久しぶりで嬉しさを感じた。
幸い修道院はマリアを快く受け入れてくれた。人手が足りないからと喜んでくれたのはマリアを気遣ってくれてのことだろう。
マリアはポコポコと感じる胎動が自分を応援してくれているように思えた。
朝起きて、箒を持ちゆっくりと掃除を始める。跪いて床を拭くには腹が邪魔するため、モップを固く絞り磨いていく。一通り終えたら祈りの時間だ。
国は違えど、修道院に併設した孤児院で育ったマリアにとって、ここの暮らしは勝手知ったるもので、慣れるのに苦労はしなかった。
この修道院は、裏庭でハーブを育てていて、バザーでハーブ茶や、ハーブを混ぜたクッキーを売っていた。マリアは乾燥したハーブを麻袋に入れ、可愛くラッピングしてサシェを作ったらどうかと提案した。
魔除けや空気の浄化、リラックス効果のあるサシェは修道院の目玉商品になり、建物の修繕費の役に立った。
マリアは体調管理をしながら、修道院の手伝いをしていた。動かず、余計なことをしない日々を送っていたマリアにとって、久々に訪れた働く休日だった。
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