第十六話
ラウルはマリアを連れて、東の国、西の国、北の国を周り、商品を仕入れた。交渉の場にもマリアを同行した。ラウルはマリアの側を離れることはなかった。それは求婚の時の約束通りだった。
見るもの全てが珍しく、南の国の田舎で育ったマリアは興奮していたが、それも最初のうちだけで、徐々に元気をなくしていった。
一人の時間がまるでないことにストレスを感じ始めていた。ラウルと出会うまでお気楽なお一人様生活だったのだ。
ラウルの家に行くまでの道のりはまだ我慢できた。聞きたいことも山程あったからだ。ファビオではなく、ラウルを知るための時間だった。二年の間に十分に理解できた。
でも今は……。ただラウルの側にいるだけ。
マリアのやることは何もない。
そうしている間に子ができた。ラウルは一人仕入れに出ることになった。
「離れないと誓ったのに」
とラウルは言うが、マリアは内心嬉しくてたまらなかった。ようやく一人の時間ができるのだ。腹の子に感謝するくらいだった。
だが心配したラウルは、実家にマリアを預けることにした。大丈夫だからと言ったが、ラウルは聞く耳を持たない。
あっという間にマリアの荷物は運ばれ、ラウルの実家の一室で過ごすことになった。
朝昼晩、ラウルの両親、兄の家族と食卓を囲み、庭の散歩には使用人が付き添う。やることもないので、何か仕事をさせてほしいと言えば、腹の子を育てるのが仕事だと言われる。
確かにマリアはラウルの家が経営する商会について、それほど詳しくはない。でも読み書きはできるし、市場では客対応をしてきた。まったく違うもだと言われたらその通りだろう。
だが、まずは教えてほしい。教えてもらえば出来ることもある。
たまに里帰りする義姉には、「溺愛されてるわね」と羨ましがられる。「私は、病気じゃないのだから働きなさいと義両親に言われたのよ」と。
代わってほしい……。マリアの方が義姉を羨ましく思った。
ここに居ると何も考えることが無い。やることも無い。ただ時間が過ぎるのを待つだけ。
孤児で育ったマリアは、幼い頃から生きる術を教えられ、十四には働きに出た。自分だけの城を持ち、自分だけの時間があった。
いつの間にか、少しだけあった感情の起伏も無くしてしまい、マリアの表情は固まってしまった。
その頃ラウルは、東の国でマリアへの土産を選んでいた。マリアが元気をなくしていたのは、子ができて体調が悪かったのだと思っていた。
マリアは孤児で苦労してきた。だからこそ、今はゆっくりしてほしい。何も心配せず過ごしてほしい。
離れているのは今だけ。不安もあるだろうが、家族もマリアを支えてくれているだろう。
明日には帰国の途に就く。前世のように「おかえりなさい」と迎えてくれるに違いない。大きくなったお腹を抱えて……。
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