第十一話
ファビオは商人の家の息子として生まれ変わった。ラウルという名を授かり、両親に姉二人と兄の四人兄弟の末っ子として可愛がられていたが、何か遠くを見る目をしていた。
幼い頃に前世の記憶を思い出していたラウルは、リジーを求めて止まなかった。
南の方に微かに感じるリジーの気配。
父が仕入れで南の国へ出かける時は必ず着いていった。
この国ではない。
もっと南か。
いや今度は東か。
両親は家の仕事を手伝う次男坊に頼り甲斐を感じていた。
ラウルは仕事を覚え、リジーを迎えに行く為に、ただ力をつけていただけなのだが。
本来、前世を持つものが、前世の伴侶を探すことはない。外見はまるで別だし、どこに住んでいるかも分からない。もちろん名前だって違う。
自分だって何もかも違うのだ。多少前世を思い出し浸ることや、知識として役立つこともある。
その上、前世の伴侶の存在を感じることなど、聞いたこともない。
けれどラウルには分かったのだ。思い込みか……。いや違う。確実にリジーの存在を感じていた。
家族はラウルが幼い頃から何かを探していたことに気づいていた。
ファビオは孤児だったが、ラウルには仲の良い家族がいた。愛情たっぷりに育てられたラウルは、臆することなく人と接することができていた。
父親の経営する商会では、
「おっ、ラウ坊!今日も手伝いしてんのか。偉いなぁ」
「うん!おじさん、たっぷり買ってってね!」
「ははは!商売上手だな!おう!たっぷり買わせてもらうよ」
客からも可愛がられたラウルが、日々商会の手伝いをし、小遣いを貯めていた。
ぶっきら棒で脳筋だったファビオではなく、末っ子らしい愛想の良さを持つラウルは、父と兄に商品を見極める目と交渉のやり方を、母と姉には数字と客の応対を教えられた。
「いつかあの子は旅立つわ。それまでに生きる術を教えてあげましょう」
「寂しいけどな。あいつが目的を達成して無事帰ってこれるようにしてあげよう」
そう育てられたラウルは、十八になるとリジーを探しに家を出た。家族は温かく送り出し、必ず帰ってくるよう言い聞かせた。
「ありがとう。父さん、母さん。それに姉さん、兄さんも」
「ああ。手紙は必ず書けよ」
「愛してるわ。ラウル」
「愛してるよ。我が息子よ」
「愛してるわ。大切な弟」
「うん。僕も皆を愛してる。じゃあ行ってくるね」
ラウルは乗合馬車に乗り、家族のいる街を離れた。
ふと自分が泣いていることに気づいた。
愛するリジーの元へ向かうのだとしても、家族と別れることは辛かった。
愛されて育ったのだ。
ああ…リジーが両親とジャックを亡くした時の辛さがわかる……。
いや、分かっていない。自分は生きてさえいれば、まだ必ず会えるのだ。
もっと辛く寂しい思いを一人でさせてしまった。
理解していたつもりが、本当に「つもり」だったことに、ラウルは辟易した。
もっともっと寄り添えば良かったと後悔が募る。
そして今、自分勝手に家を離れ、家族を寂しい思いをさせている。
笑って送り出してくれたが、母や姉達は泣いているだろう。
「ごめん。皆ごめん」
申し訳無いと思うが、リジーに会いたい気持ちが無くなることはなかった。
ラウルは涙を拭った。
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