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百合恋心乱れ斬り!  作者: 藤田大腸


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剣豪現る

 卒業式前日のことであった。昼休みに風紀委員に対して緊急招集がかかったが、委員だけでなく警備員が何人か会議室に集まっていた。星花女子と契約している警備会社から派遣された警備員たちである。その中に赤羽さんと、西園寺さんの姿もあった。


 それだけならまだしも、警察官までおったからウチはビビってしもうた。いったい何事やねんといった感じである。


 物々しい雰囲気の中で、委員長の須賀野さんが「今からブリーフィングを開始するっ!」と怒鳴ったが、実際に話を始めたのは傍らにいた恰幅の良い体型の、いかにもお偉いさんっぽい感じのおっちゃんであった。


「空の宮警察署の川西です。こちらをご覧ください」


 ホワイトボードに貼り付けられた写真。赤いドローンを捉えたもので、撮影場所は高等部桜花寮上空だという。撮影したのは赤羽さんだった。


「おととい辺りから学園周辺で不審なドローンが飛んでいるという目撃談が多数寄せられていまして。赤羽さんが撮影に成功したのですが、すぐにドローンは飛び去ってしまいました。数々の目撃談と赤羽さんの情報によると、ドローンは北側から飛来した可能性が高いです」


 そこまで川西さんが言うと、今度は須賀野さんがしゃべりだした。


「恐らくは卒業式を狙ったテロの予行演習であろう」


 は、テロ?


「い、いやテロかどうかはわかんないですけど……」


 川西さんが困惑しているが、須賀野さんは構わずに続けた。


「諸君の任務は神聖なる学園を破壊せんと企むテロリストを殲滅することにある。友軍と協力し、テロリストの基地を破壊するのだ」


 ああ、軍曹の病気が出てきよった、と思うた。実は須賀野さんには、感情が昂ぶると戦場にいる兵士みたいな言動を取るという悪癖があった。軍人の家系のせいかどうかは知らんけど、とにかく翻訳すると「警察や警備員と協力してドローンを飛ばしている犯人を探して突き止めてください」ということである。


 卒業式を狙って何かしでかそうとしている可能性は確かにあった。星花女子には芸能人が複数在籍しているため、今までに熱心なファンやアンチが不審者となって周辺に出没することが多々あったからである。もちろんそれなりの対策はしているので侵入されることはまずないが、空から襲ってくることは想定していなかった。


 川西さんが改めて説明すると、一度北側を捜索したもののこれといった手がかりは無かったので、放課後にもう一度捜索するとのことであった。それにウチら風紀委員も協力するのである。


 普通なら警察と警備員がおるから全部任せとけばええやんと思うが、須賀野さんは普通ではなかった。自分たちの学び舎は自分たちで守らなければならない、というのが軍曹の思想であったが、ウチは何も卒業式前日にこんなえらい仕事せんでも、とげんなりしていた。


 しかし放っとくと大ごとになりかねなかったのも事実である。卒業式には大勢のマスコミが来るやろうし、その前で事件が起きたらせっかく作り上げた学校の名声が地に落ちてまうかもしれへん。それだけは星花生としてイヤやった。


 捜索が始まった。結構な人数が動員されたが密になりすぎず疎らになりすぎず、電柱の裏からドブの中まで探し回った。


 学園の校舎が遠目に見渡せる程度の距離のところ、閑静な住宅街であったが、そこの一角にぽっかりと更地になっている空間があった。本当に何の変哲もない空き地だが、一角にビニールシートを被せられたビールケースがあった。


「まさかこんな野ざらしでドローンを置いたりせんやろうけど……」


 と、軽い気持ちでビニールシートをめくったら、真っ赤なドローンがあった。


 こんなに簡単に見つかってええもんなのか、ウチは一気に気分が昂ってしもうた。警察より先に見つけたのだ。卒業証書と一緒に感謝状まで貰えてしまう。


 震えながらスマホで連絡を入れようとしたときやった。


「お、お、おい。な、な、何やってんだ」


 ニット帽を被った不健康そうな男。ドローンの持ち主に違いなかったが、手に刃物を持っていた。しかも刃渡りがごっついアーミーナイフ。胸の高鳴りが、一気に不快なものに変わった。


 男の目は完全にイッてしまっていた。ウチは逃げ出そうとしたが、運の悪いことに石にけつまずいてしまったのである。そこに男がアーミーナイフを振り下ろそうとする。これは人生詰んだ、確実に明日の新聞やな……といやに冷静に考えている自分がいた。


「おい、待ちな」


 そのハスキーボイスは、西園寺さんだった。いつも背負っている竹刀は鞘から抜かれており、剣先が男に突きつけられている。しかし男はニタァと笑い、


「じゃ、じゃ、じゃま。お、お、お前もころす」


 切っ先の向きを西園寺さんに変えて、突っ込んでいった!


 西園寺さんは物音ひとつ立てずにスーッ、と流れるように男の側をすり抜けた。そのときにパパパン、と軽く乾いた音が三連発してアーミーナイフとニット帽が弾け飛んだ。


 少し遅れて、男の額から一筋の赤いものが垂れ、男は白目を剥いて泡を噴いて倒れてしまった。


「なっ……!?」


 手品を見せられたような気分であった。西園寺さんが男を竹刀で倒したのは間違いなかった。しかしどうやって打撃を加えたのか、全く目で追うことができなかったのである。全国大会で入賞したウチの目でも。


「ふう、またつまらぬものを斬ってしまった……なんてな」


 某アニメのセリフを口にして一人でくすっと笑うと、無線で状況を報告した。それから竹刀をくるりと回して、ノールックで鞘に納刀したのであった。


 その仕草はまさに剣豪そのものであった。


「か、かっこええ……!」


 そう声が漏れ出ていた。ウチが習ってきた剣の道とは全く違う性質の剣さばきに、しびれてしまっていた。


「ありがとうございます! 西園寺さんがこんなに強かったなんて知らんかった!」

「いやまあ、あんまり自慢することじゃないがな。お前さんが殺されかけてたから仕方なしに、だ。これから報告書やら警察とのやり取りをせにゃならん、本当なら今日は非番だったんだがな……」


 心底面倒くさそうな顔をしている。面倒ついでに、ウチは不躾なお願いをした。


「さっきのパパパンって竹刀さばき、どうやったらあんな動きできるんですか? 教えてください!」


 西園寺さんはへへっ、と笑って、人差し指を立てた。どういう意味やろうと思うたら、


「一千万」

「いっせんまん……?」

「授業料払うってんなら教えてやる」

「……一万円にまけてもらえません?」

「はいダメぇー」


 人差し指でおでこを突っつかれた。笑い声を上げて、西園寺さんはそっぽを向いてしまった。


 やがて警察官たちが駆けつけてきた。ウチは被害者に当たるっていうんでみっちり事情を聞かれて、自分が犯人ちゃうかと錯覚するぐらいやった。解放されたときにはもう日は沈んでいた。


 中学生生活の最後の最後でどえらい目に遭ってしまったが、しかし同時にすごい剣士に出会えたのである。何としてでも、西園寺さんに剣を教わりたい。


 ウチの中で変人警備員の「コジロー」はすっかり消え去り、代わりに剣豪・西園寺美弥が心のなかに住み着くようになったのである。

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