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百合恋心乱れ斬り!  作者: 藤田大腸


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西園寺さんの過去 その2

「あちこちで武者修行してたって聞きましたけど。どこに行っとったんですか?」

「まずは北海道でクマ狩りをやっていた」

「ははっ」


 冗談やと思うて受け流そうとしたが、西園寺さんは「ウソじゃない」と、ギロッと睨んできた。


「なけなしの金を持って北海道に逃げたんだ。北海道はだだっ広いからそうそう見つからないだろうという浅はかな考えでな。ただもうそこで資金が尽きちまって、追い詰められたあげく、泥棒することにした」

「ど、泥棒!?」

「そうしないと飢え死に必至だったからな。それで、とある小さな街にあった飲食店に目をつけて、閉店直後を見計らって入り込んだんだ。そしたら店主のオヤジがいた。うちは護身用の木刀を持ってたから、威嚇してやった。だけどオヤジも竹刀を持っててさ。こちとら剣道やってたんだし勝てるだろうと思ってたんだが、逆に一瞬で頭に一撃喰らわされて倒されちまったよ」


 何してんねん、この人。


「ほな、結局警察連れてかれたんやないですか……」

「いやそれがな、気づいたらオヤジの家にいたんだ。こんな女の子が一人で乗り込んでくるとは何か訳ありなんだろうってさ。うちは事情を素直に話した。そしたらしばらく俺の店の手伝いをしろ、そしたら許してやる、とさ」


 その店はジビエ料理を提供する居酒屋であった。夫婦で切り盛りをしていたが、材料の仕入れは店主のオヤジさんがやっていた。その仕入れ方法というのが仰天ものであった。


「自分で狩りに行くんだが、猟銃は使わなかった。真剣でバッサリとやるんだ。シカもウサギも、そしてクマもな」

「ウソ!? 直接斬るんですか? クマを……?」

「その方が血抜きもすぐできて便利だろうってな。最初はうちもそんなことできるかって思ってたよ。でも実際、『仕入れ』の現場を見せてもらった。オヤジよりでっかいヒグマが出てきたが、オヤジさんは一瞬で首を跳ね飛ばした。すごかったぞー、血が噴水みたいにどばーっと噴き出してさ」


 笑いながら話すので、ウチはだいぶ引いていた。こんなの作り話か、だいぶ話盛っとるに違いない。それでもウチは聞き入ってしまった。もしかしたらこの先に、西園寺さんの剣術の土台の話が聞けるかもしれへんという期待もあったからである。


 その期待した通りの展開が待っていた。


「オヤジさん、実は剣術の免許皆伝持ちだったんだ。でも剣に対する意識の違いで師匠と対立して、一門からさんざんいじめられたあげく破門されて。仕方なしに剣の腕を活かして狩りをやることにしたんだと。うちはもうオヤジさんの剣さばきに惚れちまってたから、うちにも教えてくれって頼んだらあっさりと認めてくれた。それから朝早くから狩りの手伝いして、肉をさばいて、店で接客して。合間に稽古をつけてもらう。うちの剣の土台ができあがったのはそんときだ」

「生き延びるための剣術というのを、そのオヤジさんから教わったんですか?」

「そう。オヤジさんの剣術の根本的な考えさ。狩りの場はまさに常在戦場だった。いつクマが出てくるかわからんし、出くわしたからには殺しにいかないとこっちが殺される。ひりついた環境はまさに剣術を磨くのにうってつけだった。最初はオヤジさんがバッサリとやってからうちがトドメをさす感じだったが、うちの剣術が上達するにつれてうち一人でクマ狩りを任されるようになった。冬眠を邪魔されてブチキレたヒグマ数頭に囲まれたこともあったけど、オヤジさんと協力してバッサバッサと撫で斬りにしたときはたまらなかったな」


 ふふふ、と西園寺さんは不気味に笑った。そらクマを何度も相手してたんだったら人間相手ごときなんか屁でもないわな、と。


「まあそんな生活が三年続いた後だったかな。うちが酷い目に遭わされた高校の剣道部のイジメ問題が表沙汰になってな。お前さんも知ってるだろう?」

「無期限活動停止処分になったんですよね」


 そう、西園寺さんが入学した高校の剣道部は、実は無期限活動停止処分を受けたことがあった。イジメの温床となった剣道部寮の廃止とOB以外の指導者を迎えるという条件で、今は活動を再開している。


「オヤジさんは剣道界隈ともちょっとした繋がりがあってな、そこから仕入れた情報によれば不祥事が発覚したせいで、警察はうちが起こした事件の背景も知って、捜査の矛先を学校に変えたんだと。ざまあみやがれと思ったが、同時にオヤジさんから暇を出されちまった。逃げ隠れる必要がなくなったのなら、家に帰りなさいとな。もっとオヤジさんから剣を学びたかったが、もう教えることはないからこれからは自分で自分を鍛錬しろ、と。で、餞別として竹刀をくれたんだ。うちがいつも肌身離さず身につけてるやつな」

「あれ、オヤジさんのものだったんですね」

「そう。こいつを片手に周り全てを敵と思い斬り捨てるイメージをしろ、と言われた。その教えを忠実に守ってるし、お前さんにも教えてやったんだよ」


 星花生の大半は、西園寺さんのことを竹刀を背負っている変な警備員さんとしか見ていない。しかし実は、師匠の教えに従って鍛錬を続けていたのだ。だるそうに校門に突っ立っているときも。スマホを眺めているときも。


「その後は日本中あちこち巡って、日銭を稼ぎながら剣術を磨いた。あと七年、故郷を捨ててから最低でも十年経つまでは武者修行を続けようと決めてな。クマ狩りももちろんやったし、無人島に渡ってまる一年過ごしたこともあったな。楽しかったぞ」


 そう言う西園寺さんは、本当に楽しそうにしていた。その境地に今のウチだと、絶対辿り着けそうにもない。


「で、ちょうど去年にじっちゃんとこに帰ってきて、まともな仕事しようと決めて警備会社に入り星花にやってきた……ってわけよ。修行は本当に楽しかった。お前さんも今から十年間クマと戦ってみるかい?」

「無理っす!」

「あはははは。正直者が」


 二人して笑った。


「さて、お前さんも何かエピソードはあるのかい?」


 西園寺さんがこっちの方に向いてきた。朋哉さんの「己の持っているものを教えること」という言葉を思い出す。ウチの持つエピソードはどれも西園寺さんに比べたら鼻くそにもならんが、西園寺さんが自分をさらしたのだから、こちらもさらさないといけない。


「去年の全中の話でいいですか?」

「ん、聞かせてくれ」

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