2の4 科学実験
原田左馬助殿が監督して、ライフル製作は順調に進んだ。
まず初めにライフルの銃身が出来て、火蓋やカラクリを調整し、肩当て付きの銃床に据え付けた。
二種類のガラスレンズも焼けて、今は磨いている。ガラスに鉄分が微量溶けたため、ガラスはわずかに黒くて固かった。
一方、遠藤隼人の反省として、食酢を利用した電池はやはり弱かった。
前々から感じていたが、食塩水から水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を作る電気分解で、時間が掛かり過ぎなのだ。
電池をいくら直列にしても、現代世界の電気を知る隼人には不満だった。
「発電所を作ろう」
小川の水車小屋に、銅線コイルを用いた発電機を設置して、酸アルカリ工場とする。
発生する危険な塩素ガスは大気拡散するが、今の屋敷地より山村の方が良いだろう。
「初めに磁石を作って、銅線も大量に必要になるぞ」
これは時間と予算が掛かるな。
七月十八日、米沢城に皆が帰って来た。伊達家では、田植えと稲刈りの間しか戦わない。
三ヶ月前と変わらぬ鎧姿で、お殿様(伊達輝宗公)や若様(政宗)、そして宿老の父(遠藤基信)も行進して来た。
戦の褒美など評定を終え、若様と伊達藤五郎殿や片倉小十郎殿が、居室に帰って来た。
「結局父上の戦は、数をそろえて押したり引いたりで、茶番だ」
若様は腰を下ろすなり、吐き捨てた。
「お帰りなさいませ」
隼人と左馬助殿が、低頭して迎える。今日から二人は、近習に復帰だ。
「ご苦労。それでライフルは如何なったか?」
若様が訊ねた。
「報告します。ライフル銃は無事に出来ました。スコープ(望遠鏡)もやっと組みました。完成品がこちらです」
左馬助殿が説明し、銃を包んだ布を取った。
「おお、よくやった、二人とも」
それまで不機嫌だった若殿が、満面の笑顔となった。
「あとは試し打ちして、狙いの調整が必要です」
隼人も説明を加えた。
手に取って品を定め、感触を確かめる若様。
「左馬助に、このライフルを用いた新部隊を任せる。調整もしておけ」
「ははっ」
「隼人にはこれをやろう。義景の大脇差だ」
若様から隼人は、二尺くらいの脇差を頂戴した。
「かたじけのうござります」
「特別な褒美だ。これは南北朝の太刀を摺上げた(短く切った)もので、無名だが備前長船の義景作と伝わっている。俺にはライフルの方が価値あるからな。はっはっは」
上機嫌になった若様は、さらに言葉をつないだ。
「明日の朝、ライフルの試射をしよう。皆で準備しておけ」
翌朝、河原に一町(六〇間=109m)先に古い鎧、二町(218m)先に畳を準備した。立てた畳の中心に木製の四角い的を吊り下げる。
「始めよ」
若様と近習、小姓たちがそろう中、左馬助殿がライフル銃を撃った。
一射目は、一町も離れた鎧に命中。
火薬と弾を込めての二射目は、二町先の的を狙ったが当たらず、畳に小さい穴を開けた。
「ちょい左に流れた。風に注意せよ」
予備の望遠鏡で、若様が指示する。
「分かりました」
左馬助殿は火薬と弾を込め、狙いを微調整して三発目を撃った。
「もう少し上を狙え」
「はい」
四発目。今度は的に当った。板が割れる音が隼人にも聞こえた。
検分によると鎧も畳も、尖頭弾は貫通していた。凄い威力だ。
これを鉄砲名人が持てば、鬼に金棒だろう。
隼人は若様たちと城に戻る。
見渡す田んぼには、黄金色の稲穂が垂れ、お百姓さんたちが、稲刈りをしている。赤とんぼが飛んでいた。
前世の隼人は、物作りが好きで大学の助教になった。
今日の隼人十一歳は、ライフル銃が完成したのが誇らしく、笑っていたと思う。




