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2の3 科学実験

「出陣じゃ」

 お殿様(伊達輝宗公)の一声で米沢城は慌ただしくなった。

 初夏になってから、東の敵、相馬氏の勢いが凄いらしい。

 もともと伊達氏と相馬氏は血族である。


 昔、若様(政宗)の曽祖父稙宗と祖父晴宗が争いとなり、負けた稙宗は伊具郡丸森城で隠居した。

 その稙宗をお世話したのが相馬氏に嫁いだ娘の屋形御前で、死後に丸森城を継承したのが相馬氏だった。


 現当主の相馬義胤(三十五歳)は版図を広げていた。

 本領の宇多、行方、標葉しねはの三郡と、伊具郡、亘理郡南部を支配し、近年では伊達家本領の伊達郡や信夫郡にも攻め込むことがあった。


 今回は伊達全軍が、お殿様(輝宗公)に従って出撃する。

 遠藤隼人は若様(政宗)から「左馬助と残れ」と命じられた。

 ライフル作りを優先する。

「あとを頼んだぞ。行って来る」

 若様は、伊達藤五郎殿と片倉小十郎殿をお供に、急いで出陣して行った。

 その後ろ姿は、鉄砲を最優先にしないお殿様に不満そうだった。


 さて、米沢に残った隼人は、左馬助殿と共にライフル銃の計画を練る。まずは優先順位だ。


 第一段階は【前装火縄ライフル銃・スコープ付】

 椎の実弾(尖頭鉛弾)と黒色火薬を使用。

 口径は四分(12・12ミリ)で、銃身は三尺(91センチ)で右転八条、全長四尺二寸(127センチ肩当て含む)と決める。そしてこれにスコープ(望遠鏡)を付ける。

 弱点は、火縄方式が雨天では使えず、弾込めにも時間が掛かること。火縄の煙や匂いも狙撃手には不利だろう。


 第二段階は【後装ライフル銃】で、ボルトアクション方式。この段階では無理せずに単発銃で、金属薬莢を使う。スコープ付きと無しの両タイプを量産する。

 ちなみに着火薬合成に必要な「水銀」は、父(遠藤基信)を経由して西国商人に注文した。

 しかし、いつ届くかは分からない。


 最終段階では【連発小銃】を作る。


「左馬助殿、早速モノ作りを始めましょう」

「承知。で、何から始めるのだ?」

 隼人は淀みなく答えた。

「ライフルの芯棒です。全長は五尺(151センチ)で、先端から三尺二寸は八角形で先に向かって右回転するように、片側の持ち手は丁字形で助手が回しながら鍛冶出来るように」

 とにかく打ち出す弾に回転を掛ければよい。

 可能なら精密な方が良いが、手製で量産を考えると、シンプルな方が良い。


 鍛冶の親方と相方、見習い三人を呼んで、ライフル銃の仕組みと芯棒について説明した。

「伊達家若様の願いから、急いでライフルを一丁仕上げて欲しい。この仕様書と図面のように頼みます。成功報酬は銭五貫文(25万円)をお支払いします」

 鍛冶師たちは、成功報酬に張り切った。


 次に木工師と金物師を呼んで、ライフル銃の説明を行い、図面を渡して、肩当て付きの台座と火縄着火のカラクリを依頼した。

「およそ一ヶ月でライフルの銃身が出来るので、組み立てて下され。あともう一つ、望遠鏡の筒も作って下さい。成功報酬は二貫文(10万円)をお支払いします」


 さらに鋳物師、焼物師、砥ぎ師を呼んで、凸レンズと凹レンズを説明し、協力してガラスレンズを完成させて欲しいと、伝えた。

 鋳物師には、先にレンズ用の鉄金型を凹凸の二種類作り、出来たらガラスを焼いて欲しい。


 焼物師には、貝殻(CaCO3)、炭酸ナトリウム、珪砂(SiO2)をそれぞれ粉にして、重さで六対四七対四七に調合して欲しい。

 この配分は、CaO:Na2O:SiO2=5:35:60で、融点が低いガラスとなる。

 アルカリガラスだと湿気でベタベタになるが、カルシウムが入ると融点は高くなっても、ガラスが安定して透明になる。

 珪砂とは水晶の細かい粒で、透明または薄灰色の砂であり、山や川、海の砂浜から得られる。


 なお、炭酸ナトリウムの前駆体水酸化ナトリウム製造では、毒ガスの塩素が発生するので、隼人が立ち会うとした。

 お酢に亜鉛電極と銅電極、そして銅線で電池を作る。発生した電気で食塩水を電気分解する。電力が弱いので時間が掛かるだろう。

(最初はコイル式の発電機を作るつもりだった)

 そして二酸化炭素を吹き込むと、炭酸ナトリウムが得られる。


 砥ぎ師には、出来たガラスを均一に磨いて欲しい。

 成功報酬は三人で三貫文(15万円)。


 ここまでの人件費は50万円である。材料は伊達家の蔵から借りる。高価な水銀の支払い分は残しておく。

「さあ、始まりました。左馬助殿、監督をお頼みします」

「まかせろ」

 隼人は左馬助殿と、がっちり手を握った。


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