2の1 科学実験
登城初日、遠藤隼人正宗信(十一歳)は日の出とともに起きて、身支度と握り飯を食し、松吉ら中間衆五名を引き連れて、我が家から出発した。
ちなみに遠藤家には若党(侍の奉公人)はいない。
米沢城の正門まで、隼人一行は列を作って歩く。近いので直ぐ(10分位)に到着した。だいたい7時頃だろう。
「皆ありがとう。戻る時刻は分からないので、屋敷に帰っていてくれ」
「隼人様、行ってらっしゃいませ」
松吉たちに見送られて、隼人は城門へ向かった。
「遠藤隼人でござる。今日から若様の近習となった。よろしく」
門番に挨拶して、本丸の御殿の方へ歩いた。
何度か若様(伊達政宗公十六歳)の所在を訊ねて、やっとお部屋にたどり着いた。
若様は前庭で、側近たちと木刀を振っていた。
「藤次郎(政宗)様、遠藤隼人まかりこしました」
片膝を付いて挨拶する。
「よく来たな隼人。挨拶など堅苦しい。お前も木刀を取れ。鍛錬と朝の眠気を飛ばすのに丁度いいぞ。ははははっ」
そう言って若様は、自分の木刀を隼人に手渡した。
「恐縮です」
「周りなど気にせず、思いのままに振れ。そうだ、元気よく振れ」
「はい。えい、えい、えい」
そうやって五〇も振った頃、側近の伊達藤五郎殿と原田左馬助殿も隣に並んで木刀を振った。
「よし、あと一〇回」
「そうだ、あと一〇回」
何となく一〇〇回は振っただろう。隼人が止めると二人も停止した。
「いい汗をかいたな。我ら二人が若様の護衛を担当している」
藤五郎殿が教えてくれた。
左馬助殿も笑った。
「貴様とは、ライフルを作る仕事もある。よろしくな」
「はい、よろしくお願い申します」
隼人も会釈した。
「知将の小十郎と、いま京に向かっている湯目又次郎は、頭が切れる部類だ。政務担当だ」
若様が、汗を拭いながら笑った。
からっと晴れた主君ではないか。隼人はお仕えする甲斐があると、嬉しくなった。
「そうしたら部屋へ上がれ。隼人に訊ねたいのは、ライフル作りの人と物だ。小十郎には金を用意させている」
若様と藤五郎殿、左馬助殿、隼人が部屋に入った。
十代の小姓衆は隣室で控えている。
「実は、家で原案を考えて来ました。すみませんが、筆と墨をお貸し下され」
隼人がお願いすると、若様が手を挙げて命じた。
「隼人に机と筆、硯を用意せよ」
すると、小姓衆が無駄なく動いて、筆記の準備が整った。
「水に墨をすりながら、思考をまとめる」
若様は、別の報告書らしきものを読みながら、待ってくれていた。
アイデアを未来知識で補う。過去世は大学の教師だったのだから、普通に朝飯前の仕事だった。
「出来ました。仕事を六組に分けて、六〇名から始めます」
15分も若様を待たせてしまった。
怒られるかもと内心恐かったが、若様は文書の内容に興味があったようだ。黙って紙面を読む。
――――――――――――――――――――
●設計組 原田左馬助殿と遠藤隼人を中心に一〇名。
計画、手順書作成、資材発注、会計を行う。
●鉄砲組 鍛冶師を中心に一〇名。
砂鉄、木炭、手に入るなら三陸産の鉄鉱石と岩城産の石炭。
石灰石または貝殻、手に入るなら蛍石(CaF2)と珪石(SiO2)。
鉄の工具各種。
●弾丸組 鋳物師や金物師を中心に一〇名。
鉛、亜鉛、銅、黄銅(三割から四割が亜鉛)、木炭。
鉄の工具各種。
「のちに鉄砲カラクリや金銀、銭の製造にも従事」
●火薬組 工兵と農家を中心に一〇名。
木綿、【硝酸】、【硫酸】、水銀、焼酎。
硝石は床下土、蚕の糞、ウドやヨモギ、人尿を混ぜて作る。
木炭、硫黄。【ガラス器具】、木の道具。
●ガラス組 鋳物師や砥ぎ師を中心に一〇名。
珪砂(SiO2)、貝殻(CaCO3)、【炭酸ナトリウム】。
耐火粘土るつぼ、鉄の工具各種、木炭、木材、研ぎ石。
●酸アルカリ組 工兵と水車を中心に一〇名。
磁石、銅線コイル、炭素棒、食塩、水、油、硫黄または二硫化鉄。
【ガラス器具】、陶磁器、木の器具、金属の工具各種。
「のちに石けんの製造にも従事」
――――――――――――――――――――
「うーん」と若様はうなった。左馬助殿にも、文書を渡して答えた。
「俺は宝を見つけたぞ。わっはっは」
隼人は不思議だったが、若様の機嫌が良いようで安心した。




