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10の3 大決戦

 四月十三日の昼頃、伊達と豊臣の両軍がぶつかった。

 遠藤隼人(十八歳)の指揮する狙撃隊二〇〇名が、敵将の加藤清正を撃ち抜き、後退させた。


 陣形のほつれを補おうと、横から福島正則が突っ込んで来た。

 同じく後方から、豊臣秀勝らしき部隊が攻め寄せて来る。

 秀吉も山を下りて、本隊六万が前進を始めた。


 先陣の伊達藤五郎殿(二十二歳)は、後方を第二陣の片倉小十郎殿(三十三歳)に任せて前進した。

 藤五郎殿の鉄砲一五〇〇丁と小十郎殿の鉄砲二〇〇〇丁が、福島正則を十字射撃する。


 猪突猛進の福島正則は、騎馬で先頭を駆けていたが、何発も撃たれて落馬、間違いなく絶命した。

 陣形がさらに崩れたので、豊臣秀長(秀吉の実弟)の兵二万が空隙を埋めた。


 ここで支倉長経殿(十九歳)の機動隊四〇〇名が、敵陣を突破して秀吉の後方まで一気に駆けた。

 機動隊とは、騎馬鉄砲隊のことである。

 奥州産の馬は体格もよく、馬力があった。

 さらに金属薬莢を用いた拳銃と後装ライフルを装備していた。


 秀吉の本隊から馬廻りの精鋭、黄母衣衆六〇〇騎が飛び出して来た。

 支倉殿はライフル二〇〇丁で、この一群を遠撃ちした。

 薬莢を代えて、第二斉射、第三斉射。

 黄母衣衆は、半数以上が撃たれて落馬した。

 そして距離を詰めた機動隊は、拳銃で黄母衣衆を撃って全滅させた。


 遠藤隼人たちの狙撃隊二〇〇名は、藤五郎殿の先陣に混じって、ひたすら秀吉に向かって行った。

 藤五郎殿の兜に付く「毛虫の前立て」は、絶対に後退しないという強い意思の表れである。


 敵陣の秀勝は、竹束盾と槍ぶすまで防御を固めるようだ。

 隼人は思った。伊達軍が鉄砲強者だと見抜いたのは、黒田官兵衛であろうか?


「隼人よ、あの山に登れ!」

 藤五郎殿の大音声が響いた。

「承知しました!」

 前一色山(標高55m)は、東西700m、南北100mの細長い小山だ。


 一気に駆け昇ると、山頂からの眺めは良い。

「敵の偉そうな奴を、すべて狙撃せよ。各自、撃ち方始め!」

 ここで隼人は、戦況を観察した。

 敵も要地であるこの山に向かって来るが、味方が排除してくれている。


 第三陣の白石殿も、第四陣の亘理殿も、前進を続けている。

 中将様の本隊四万も、西に押し出して来ているようだ。

 秀勝の一万、秀長の二万、秀吉の六万が北の一帯に固まり、南の黒田長政七五〇〇、宇喜多秀家一万、島津忠長一万と分断している。

 宇喜多と島津は、お互いを牽制して動かない。


 支倉殿が指揮する機動隊四〇〇名は、秀吉の後方を脅かしていた。

 わずか四〇〇名と侮るなかれ。

 敵が何度も追手を出すが、騎馬の移動速度とライフル射撃の正確さで、打ち負かしていた。


「当たった。二万の方の大将だ」

 隼人の近くで、鉄砲名人が冷静に呟いた。

 隼人は望遠鏡を覗くと、本当に二万の軍勢が崩れて行くのが分かった。

「たぶん豊臣秀長だろう。よくやった!」


「よし、当たった。一万の方の若いの」

 今度は豊臣秀勝に当てたらしい。

「見事!」

 撃ち下ろしとはいえ、距離800mもある。

 最大射程距離で、見事に命中させてしまったようだ。

 隼人が作ったスコープ付ライフルだ。活躍は少し嬉しい。


 秀吉は、弟秀長と甥秀勝の負傷に動揺した。

「まだ、負けていないぞ。皆の衆、踏ん張れ」

 取りあえず円陣を組ませる。


 軍師の黒田官兵衛が、忠告を入れる。

「余力のあるうちに一たん退いて、陣形を整えましょう」

「嫌だ。伊達の小僧相手に逃げるなんて」

 秀吉は、関白の誇りから迷走した。


「押せ、押せ、目指すは大将首ただ一つ」

 馬上で槍を振る藤五郎殿の勢いは、豊臣の軍勢を怯ませ、恐怖で兵隊が割れた。

 大木を倒す斧のように、斬り込んで行く藤五郎殿。


 いつの間にか、中将様の本隊も突入して行く。

 左右を固めるのは、本多平八郎殿の五〇〇〇と、真田安房守殿の五〇〇〇。

 黄母衣で槍を振る後藤肥前殿の姿も見える。


「もう持ちこたえられぬ。官兵衛、大坂まで逃げるぞ」

 秀吉は、やっと逃げると決めた。

「もう遅い。それがしは足が不自由です。先に行って下され」

 勘の良い官兵衛は、逃げきれないと分かっていた。

「さらばじゃ」

 秀吉は、馬に飛び乗って去った。


 機動隊は、秀吉の本隊の背後にいた。

 基本的に向かって来る敵は、すべて撃ち倒している。

 そこに小勢が向かって来た。

 旗指物はないが、いままでより立派な、鎧の集団であった。

 支倉長経は、射撃を命じた。


 夕刻、総崩れした豊臣軍に対し、伊達軍は秩序正しく隊列を組んで残っていた。

 長良川と揖斐川(いび)には橋が無い。

 敗走する豊臣兵は、多数が溺れ死んだ。

 島津の将兵は隊列を組んで行進し、度胸よく伊勢方面に逃げて行った。遠のく「丸に十字」の旗。


 秀吉の亡き骸は、城下の平原に突っ伏していた。

 鉄砲玉にやられたらしい。

「勝鬨(かちどき)を上げよ!」

 中将様(伊達政宗公)は、拳を掲げた。


「えい、えい、おう!」

「えい、えい、おう!」

 眩い夕日が、黄金色に空を染めていた。


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