10の2 大決戦
四月九日の朝、中将様(伊達政宗公二十三歳)は、各務原西部の川崎山に本陣を据えて陣形を整えた。
「隼人の狙撃隊は大物見に出よ。望遠鏡も持って行け」
「ははっ」
遠藤隼人(十八歳)は、配下の狙撃隊二〇〇名と前線哨戒に出た。
各務原は、北は岐阜の山地群、南は木曽川に挟まれた平原で、南北は約5キロ。東西に大きく開けた地形である。
本陣を置いた小高い川崎山(標高74m)から、西2・7キロに那加不動丘(標高44m)、さらに西1・9キロに石山(標高47m)、さらに西2・4キロに前一色山(標高55m)がある。
ここから北西方向の金華山(岐阜城)山頂まで3・2キロである。
岐阜城下から西に9キロで長良川が、さらに西に5キロで揖斐川が南北方向に流れている。
川幅は50mくらいだが、流量が多くて橋はない。
四月十日、一〇万以上の敵軍が関ケ原を通って、赤坂の岡山(標高53m)周辺に陣を張った。
隼人は地図を描いて中将様に報告した。
「狙撃隊が隠れる場所はありません。逆に敵も隠れる場所はないです」
「ご苦労、正確な地図で助かる」
中将様は続けた。
「岐阜城の加藤清正が厄介だ。俺たちが西に向かうと背後を突かれる。そこでだ、岐阜城を軽くつついて、秀吉を救援に来させよう」
伝令が走り、本陣に伊達藤五郎(二十二歳)が呼ばれた。
「藤五郎に命じる。岐阜城に対し、押したり引いたりして、秀吉をおびき寄せろ。秀吉が長良川を越えたら、その時こそ決戦である」
「承知した。岐阜城は焼いても良いのか?」
藤五郎殿は不敵に笑った。
「好きにせよ」
すぐに藤五郎殿の第一陣二万一〇〇〇名が動いた。
岐阜城は金華山(329m)と周囲の峰々に広がる山城である。
藤五郎殿は、西側に広がる城下町を焼き、山も焼いた。
今まさに天高く昇る白煙は、秀吉の目にも触れるだろう。
四月十日の午後、茶を飲んでいた秀吉の元へ、近習が走って来た。
「岐阜城が燃えています」
秀吉が立って東を伺うと、五里(20キロ)の彼方に白煙が上っていた。
「急ぎ、虎之助(加藤清正)を助けに参る」
一二万の軍勢が東へ動いた。
「大垣城の市松(福島正則)も(黒田)長政もワシに続け」
一四万を超える大軍だ。川を越えるのも大変である。
揖斐川の渡し船を掻き集めて、舟橋を作らせた。
夜間には、岐阜城の山肌を燃える炎が、秀吉の心を焦らせた。
四月十一日、石田三成の差配で、長良川にも舟橋が掛かった。
細川忠興の三七〇〇名が先鋒として舟橋を渡り、そのまま舟橋を守る役に就いた。
四月十二日、やっと秀吉は揖斐川を渡り、夕刻に長良川を渡った。
陣形を整えて、夜間進軍で岐阜城に向かった。
伊達の先兵は消えていた。
秀吉は岐阜城(金華山329m)の南西端にある瑞龍寺山(158m)に陣を張った。
四月十三日未明、虎之助(加藤清正)が秀吉の陣を訪れて、救援のお礼を述べた。
「今日か明日が決戦じゃ。虎も打って出よ」
「はい。腕が鳴ります」
西の岐阜城下に豊臣軍が、南北に長い陣形を敷いていた。
東の各務原には伊達軍が、東西向きで魚鱗の陣形を組んでいた。
本陣で中将様は、重臣たちに大声で語った。
「俺は天下を取る。そして乱れたこの世に、美しい秩序を組む。皆の衆よ、俺に力を貸してくれ!」
「おおう!」
「先陣の藤五郎に、機動隊四〇〇名と狙撃隊二〇〇名を付ける。隼人よ、戦に勝ってまた会おうぞ」
「はい、中将様もご武運を」
近習の遠藤隼人は、伊達藤五郎殿の先陣に加えられて、狙撃隊を指揮する。
東西両軍は、じりじりと距離を縮めて、昼頃に鉄砲の撃ち合いで戦いが始まった。
隼人は、支倉殿とともに伊達藤五郎殿の後ろに立っていた。
望遠鏡を覗くと、敵の先陣は蛇目の旗。
白地に黒の丸印は、加藤清正だった。
「隼人、敵の偉そうな奴から、撃ち殺せ。無駄玉は使うなよ」
「はい。遠藤隼人と狙撃隊は前線に出ます」
それから狙撃隊二〇〇名は、いま最前線で撃ち合っている鉄砲隊一五〇〇名の、すぐ後ろまで来た。
「加藤清正を狙え。馬上の大男で、朱槍と銀烏帽子のとんがり兜だ」
隼人は大声で配下に命じた。
「清正を撃つのだ」
スコープを付けた前装ライフル。これを鉄砲名人が撃つ。絶対に当たるし、勝てるに違いない。
「いた。集団中央の少し後ろに、黒光りの長い兜」
誰かが叫んだ。
皆が一斉に狙いを定める。
「よく狙って準備。一斉射撃するぞ。用意、うてーっ!」
バリバリと雷鳴のような音を立て、ライフル弾が飛んで行った。
「当たった」
とんがり兜の大男が、落馬した。生死は判らない。
西軍の一角が崩れた。
その隙を、槍の藤五郎殿が、鬼神のように斬り込んで敗走させた。
後に続く隼人たちは、援護射撃を加える。
次に福島正則の隊が左横から、豊臣秀勝(秀吉の甥)の部隊が奥から攻めて来た。
伊達軍でも、小十郎殿、白石殿、亘理殿の部隊が戦いに加わった。
そこに秀吉の本隊が、山を下りて来た。
「うわっ、あれはヤバイ」
隼人には、迫り来る六万の敵兵が、怒って飛ぶ蜂の大群に見えた。




