8の4 小次郎謀反
秋になり、黄金の稲穂が垂れて来た。
中将様(伊達政宗公二十二歳)は機動隊の隊長に、支倉六右衛門(長経十八歳)を抜てきした。
支倉殿は、中将様の馬廻衆(護衛)で、馬術が上手だった。
「支倉に隊長を命じる。機動隊を再編成せよ」
「はっ」
支倉殿は機動隊を六〇〇名と決め、槍騎馬隊を廃止した。
接近戦には拳銃を、長距離狙撃にはライフル銃を使う。
拳銃騎馬隊、二〇〇騎。
後装ライフル銃隊、二〇〇丁で移動は騎馬。
弓騎馬隊、二〇〇騎。
七月十日のお盆の直前に、叔父の石川大和守殿(昭光三十九歳)が、小田原城に到着した。
「中将様、遅くなりました」
「構わない。今度の関東巡察に付き合ってほしい。おぬしには小次郎と交代して、江戸城代を任せたい」
「承知しました」
「今日は休め。明日から関東巡察だ」
「かたじけのう、ござります。しかし、小田原城も堅固になりましたな」
「三重の総構えだ。城門には馬出と枡形虎口を採用している」
中将様は自慢げに答えた。
「江戸城にも総構えを設けますか?」
「作るが、今じゃない。俺が京都まで取ったら、江戸に幕府を開く。築城拡大するのは、その時だ」
「判りました。その時まで江戸城をお預かりいたします」
「頼む」
お盆と正月は、民も休日となるが、中将様は働き続ける。
七月十一日早朝から、中将様は陣頭に立った。
「敵は秀吉の草、忍者狩りだ。油断するなよ」
隼人は疑問に思う。
「どうやって見分けますか?」
「敵は小次郎を旗頭にして、伊達家を乗っ取ろうとしている。だから俺たちは小次郎を捕縛する。刃物や弓鉄砲を向ける者は全て敵だ」
自らを囮にする作戦であった。
東に向かって機動隊六〇〇名が出発した。
続く中将様と馬廻りの三〇〇名。
後方から石川大和守の三〇〇名が追う。
夕刻には、相模国一之宮である寒川神社を参拝する。
十二日には、鎌倉の鶴岡八幡宮を参拝する。
十三日には、三浦半島の横須賀、浦賀、城ヶ島を見る。
十四日は北上して、神奈川宿に泊まる。
十五日には、川崎大師を参拝した。
十六日早朝に多摩川を渡って北上、江戸城手前にある小高い愛宕山(標高25m)に陣を張った。
中将様は、小次郎殿へ文を書く。
「江戸城代を石川大和守に代える。伊達小次郎は米沢で僧になれ」
使者を江戸城に送った。
江戸城で小次郎殿は、使者に怒鳴ったようだ。
「僧になれとは何事だ。人質になった俺の苦労を思い知れ。ただ兄というだけで父に可愛がられ、家督を継いだだけではないか。槍も弓矢も俺の方が強いはずだ。俺こそが奥羽の王にふさわしいのだ」
使者は命からがら、愛宕山の本陣まで帰って来た。
夕刻、遠藤隼人は中将様と報告を聞いて思った。
(中将様は天下を睨み、小次郎殿は奥羽の王を望む。秀吉の付け入る隙が、嫉妬の多い小次郎殿には在ったのだ)
「皆の者、小次郎と戦になる。油断なく掛かれ」
中将様が命じた。
「かがり火を絶やすな」
隊長の支倉殿が、機動隊の皆に伝えた。
夕飯を取って、野宿と決める。鎧は脱がない。
馬にも青草や煮豆などを食べさせた。
昇る月は満月だった。
「敵襲、敵襲」
「同士討ちに気を付けろ」
「忍びだ。忍びの大軍だ」
中将様の近くで声が上がる。
隼人は、脇差の「義景」に手を掛けて、周囲を警戒した。
地面の月影が動いたと思ったら、忍びが斬り掛かって来た。
刹那、きらめく刃が交差した。
一瞬速く抜刀した中将様が、敵を斬り倒した。
「鎖帷子だ。油断するな」
中将様は足元の忍びに、ずぶりと止めを刺した。
「おおう」と返事する馬廻り衆。
「敵を討て。江戸城の小次郎を討ち果たせ」
江戸城へ向かって進む機動隊、馬廻り衆は円陣を組む。
斬り込んで来る忍びと、戦う拳銃の射撃音。飛び交う弓矢。
足元には忍者の死体が累々と転がる。
「今にも飛び掛かって来そうですね」
胸の鼓動が速くなった隼人は、用心しながら中将様と進む。
「本来、鉄砲は晴れた昼間に使うものです。夜間戦闘は考えていませんでした」
「おぬしの拳銃は、とても役に立っているぞ」
「ありがとうございます」
江戸城まで来ると、城内から火の手が上がった。
「小次郎め、城に火を掛けやがった」
中将様は、城門で立ち尽くした。
御殿と米蔵が城内にはあったが、燃えている。
秋の収穫前だが、数万石の米が灰になった。
七月十七日の朝、焼け落ちた江戸城から、伊達家弟の小次郎の亡き骸が発見された。
小次郎は、一〇万石もの兵糧を、道連れとして焼失させた。
一〇万人が一年間食べて行ける量だ。
怒りの中将様は、黒く焼けた小次郎をさらし首にした。




