3の3 相馬狙撃戦
落城した相馬中村城に伊達軍の本隊が到着した。
たった五〇〇の手勢で相馬氏に勝利した若様(政宗十七歳)の名声は、伊達の家臣のみならず、周辺の大名たちにも響くことだろう。
「若様、大手柄ですな」
黄色い陣羽織の後藤肥前守(信康二十八歳)が笑顔を向けた。戦場では黄母衣を付けるので「黄後藤」と呼ばれる猛将だ。
「今回は鉄砲が主で、槍働きの機会を奪ってしまったな」
若様も屈託なく笑った。
転生した隼人(十二歳)は「伊達政宗の近習」として、これからも面白い世界が見られるような気がした。
五月二十日、城中の広間でお殿様(輝宗公四十歳)は、居並ぶ諸将に告げた。
「今日をもって、嫡男の政宗に家督を譲る。ワシは米沢の山中で静かに暮らそう」
隼人は驚いた。他の人たちも驚いていた。
「政宗、今日からお主が伊達家十七代当主だ。あとは任せたぞ」
そう言い残して、お殿様(輝宗公)は出て行ってしまった。
広間に残った新しいお殿様(政宗公)と譜代の家臣たち。
お殿様が口を開いた。
「急なことで俺も驚いた。俺は、伊達家を大きくして天下を取る。そして乱れたこの世に、美しい秩序を組む。皆の衆よ、力を貸してくれ」
お殿様が天下取りを宣言した。
「ははっ」
諸将は平伏した。
「あと七年後に、秀吉の大軍勢が攻めてくる。その前に奥羽を統一するぞ」
お殿様は胸を張った。
「まず貫高制をやめて、石高制にする。今年の秋に検地を行って、年貢を米で納める世の中にする。五公五民だ」
諸将は戸惑った。今までは農民から銭を取って、生活していたからだ。
「新しき世には、新しい政が必要にござる。兵糧米を武家の給料としても同じことだろう」
片倉小十郎殿(二十七歳)が説明した。
「小十郎には、この城(相馬中村城)と周囲一万石を安堵する。さらに相馬三郡(宇多、行方、標葉)を預ける。ただし、統治に失敗したら取り上げるからな」
そう言ってお殿様は笑った。
「俺は信夫郡の大森城を本拠とする。伊達藤五郎の城だが、しばらくは間借りするぞ。その間に信夫山へ『福島屋形』を建てる」
「承知」
藤五郎殿(十六歳)が頭を下げた。
「父上(輝宗公)には、隠居料三〇〇〇石で米沢城代をお願いする。遠藤山城守(基信五十二歳)には、五〇〇石を加増して二〇〇〇石、米沢城の家老を命じる」
隼人の父が返答する。
「この命に代えまして、ご先代様と米沢城をお守りいたします」
お殿様はうなずく。
「俺の宿老は、片倉小十郎、伊達藤五郎、湯目又次郎、原田左馬助、遠藤隼人の五人とする」
「はっ」
新しいお殿様からのご指名に、隼人はびっくり仰天した。
「小十郎は、岩城氏と佐竹氏、東海道の諸将を調略せよ。
藤五郎は、仙道および中山道の真田氏ら諸将を調略せよ。
又次郎は、蘆名氏と上杉氏、北陸道の諸将を調略せよ。
左馬助は、最上氏ら北奥羽の諸将を調略せよ。
隼人は、京都から西を調略せよ。朝廷に使者を送って、俺に『左京大夫』を下賜するように取り計らえ。手土産として銭一〇〇貫文(500万円)と肌用石けんを用いてよい」
「承知しました」
隼人を含めて五人の宿老は、一斉に頭を下げた。
「まずは伊達家当主に挨拶に来させろ。それで敵味方が分かる」
急な評定を終えて、諸将は大森城へと移動する。
お殿様(政宗公)の近習でもある隼人は、馬上のお殿様のすぐ横を歩いた。
「朝廷への使者は誰が良いでしょうか?」
十二歳の隼人は、まだ多くの人を知らない。
「小成田志摩守(重長三十一歳)が良いだろう。聡明で剣の腕も立つ」
お殿様はよく人を見ていた。
「お役目の調整は致しますが、お殿様から命じられると士気が上がります」
「そうか。誰か、小成田志摩を呼べ!」
大音声に反応して、伝令が走って行った。
まもなく小成田殿が走って来た。
「小成田志摩守参上つかまつった。お呼びでしょうか、殿」
お殿様は馬の速度を緩める。
「馬上より失礼する。小成田志摩に朝廷への使者を頼みたい。俺は伊達家累代が賜って来た『左京大夫』が欲しい。手土産はこの遠藤隼人が用意する。二人で話し合って実行してくれ」
「使者の大役つつしんでお受け致します。遠藤殿もよろしく」
確かに聡明利発で、爽やかな武将だった。
大森城への道中、隼人は石けんの使い方を説明した。




