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第50話: 虚空への炎

以下は指定された物語の全文を日本語に訳したものです。




エルフの国の空に、再び稲妻が走る。


青く強い光が、廃墟の上に垂れ込めた闇を切り裂いた。


ズドオオオオンッ!!


爆発が大地を叩きつけ、


岩々は砕け散り、


エルフの木々は根元から倒れる。


だが、爆発の中心にいるその影は……


まだ立っていた。


アケディア。


体から立ち上った煙がゆっくりと消えていく。


表情は依然として無表情だったが、


この時ばかりは、


わずかに苛立ちが浮かんでいた。


「……うるさい」


リオラ・ライゼンは不快そうに舌打ちする。


「……その台詞をもう一度言ってみろ。今度は稲妻で黙らせるぞ」


彼女の周囲に再び稲妻が生まれる。


先ほどよりも荒々しく、


そしてさらに素早く。


一方その頃、


ケイリス・ヴェイラは状況を注視し続けていた。


瞳は鋭く、


だがその奥にはある感情が隠れていた。


驚き――


なぜなら、彼は今まさに、


七大罪の一人と真正面から戦っているからだ。


そしてこの化け物は……


何かが違っていた。


昔の魔王のような、圧倒的な威圧感もなければ、


激しい怒りもなく、


血に飢えた様子もない。


だが、それこそが――


彼を最も恐ろしくしている理由だった。


アケディアには、戦いに勝とうという意思がまるで感じられない。


それなのに、彼の周囲の世界はただ壊れていく。


「……動いた」


ケイリスは即座に杖を掲げる。


風が四方八方へと炸裂する。


だが、嵐が届くよりも早く、


アケディアの姿が消えていた。


瞬間移動ではない。


魔法の痕跡もなく、


光の残像もない。


ただ、動きがあまりにも完璧的で無駄がなかった。


一歩踏み出しただけで、


彼はすでに別の廃墟の側へと移動していた。


ケイリスは目を見開く。


「……速い!?」


「体だけを見るな!」


リオラが叫ぶ。


「……空っぽになる領域を見ろ!」


ケイリスははっとする。


そうだ。


最初に動いているのはアケディアの体ではなく、


彼の周囲の空間そのものだ。


マナが消え失せる――彼が移動する前に。


それが唯一の予兆だった。


ドオオオンッ!!


ケイリスが立っていた地面が、0.5秒後にまったくの無に帰す。


彼は即座に後方へ飛び退き、


冷や汗が頬を伝う。


「……危なかった……」


その時、炎が放たれた。


ボウッ!!


不知火アキハラが迷いなく前へ進み出る。


鮮やかな紅い炎が、広がりつつあった空白の軌道を焼き払い、


その瞬間だけ、


あの絶対的な虚無の侵食が止まった。


アケディアがわずかに顔を向け、


その視線はアキハラの炎に留まる。


いつもよりも長い時間。


「……またか……」


低い声が漏れる。


アキハラは答えず、


手の中に炎の剣を生み出すと、


そのまま一気に斬りかかる。


ドオオオンッ!!


炎の爆発が大地を揺るがす。


アケディアは寸前で回避するが、


この時ばかりは、


アキハラの攻撃が止まらなかった。


二撃目。


三撃目。


炎が絶え間なく放たれ、アケディアの周囲の空間が「存在」し続けるように強制する。


リオラがすかさず側面から飛び込み、


空から稲妻が降り注ぐ。


ズドオオオオンッ!!


稲妻が再びアケディアの頭上を直撃し、


彼の体は数メートル弾き飛ばされる。


ケイリスがその隙を最大限に利用する。


「……北風よ!」


巨大な嵐が発生し、


無数の風の刃が渦巻きながら、アケディアのいる領域を完全に閉じ込める。


木々は微塵に切り裂かれ、


大地はさらに深くひび割れ、


そしてこの戦いで初めて、


アケディアが数歩だけ後退した。


一瞬の静寂。


リオラがわずかに笑みを浮かべる。


「……ついに効いたか」


だがアケディアの表情に怒りはない。


彼はゆっくりと立ち上がり、


肩元に手をあてて小さく呟く。


「……面倒だ……」


ケイリスは歯軋りする。


「……まだ本気を出していないのか……」


アキハラが真っ直ぐに敵を見据える。


「……余計な時間を与えるな」


再び動き出す三人。


今度は完全に連携が取れていた。


ケイリスが風を操り、アケディアの移動経路を制御する。


リオラが虚無の発生するタイミングを読み取る。


そしてアキハラが、絶対的な防壁となる。


空間が消え失せようとする度に、


アキハラの炎が即座にそこに生まれ、


世界が安定して存在し続けるように支えるのだ。


ケイリスはある事実に気づき始める。


「……あの炎は……」


彼はアキハラの周りで燃える紅い焔を見つめる。


「……攻撃しているのではない」


リオラは次の稲妻を放ちながら素早く答える。


「……この場所が完全に消滅するのを食い止めている、唯一のものだ!」


ケイリスはその意味を完全に理解した。


アキハラの炎は、単なる力ではない。


それはつまり……


「消去」への抵抗そのものだった。


ドオオオンッ!!


アケディアが突然、ケイリスの目の前に出現する。


速い――


あまりにも速すぎた。


ケイリスが反応するよりも早く、


彼の腕の側面に空白の領域が生まれる。


そして、


衣の一部と共に、腕の皮膚の一部が……


消えた。


傷ついたのでもなく、


裂けたのでもない。


まったくの無に――


ケイリスの体が凍りつく。


「……何が……」


背筋を氷のような冷たさが駆け上がる。


虚無がさらに広がる前に、


リオラが彼を強引に引き寄せる。


ズドオオオンッ!!


二人の間に稲妻が炸裂する。


「……いつまでもぼうっとするな!」


ケイリスは荒い息を吐きながら後退する。


「……一体どんな化け物なんだ……」


アキハラが再び二人の前に立ち塞がり、


炎がさらに大きく燃え上がる。


アケディアはその炎を無表情に見つめていたが、


やがて小さく呟く。


「……なぜ……」


この時初めて、


彼の声のトーンがわずかに変化した。


「……まだ存在している……」


アキハラの炎はさらに激しく燃え広がり、


滅びゆくエルフの国の廃墟を明るく照らし出す。


その頃、森の奥深く――


アエレル・アシア・シルファエルは、姉の手当てをしていた。


エリンドラ・シルファエルの呼吸は弱く、


黒い毒は今もなお体中へと広がり続けている。


アエレルは唇を噛みしめるが、


その思考は……


落ち着くことがなかった。


アケディアの気配。


あの空っぽの気配。


なぜかは分からないが……


どこか懐かしく、感じられた。


「……私は昔……」


彼女の瞳がわずかに見開かれる。


記憶の欠片が浮かび上がる。


遥か昔の戦争。


炎。


叫び声。


そして、黒い衣をまとった一人の人間。


小さな少女を連れた、その男。


魔王軍に捕らわれていた自分を、彼は助けてくれた。


彼の名は……


レイジ・レン。


そして彼の側にいた少女の名は……


ミジャルン。


「……レイジ……」


アエレルは頭を押さえる。


すると突然、


さらに別の真実が頭に浮かぶ。


昔の魔王のことだ。


彼は「アルギエル」と呼ばれていなかった。


「……違う……」


彼女の体が凍りつく。


「……あの人の名前は……」


瞳が震える。


「……アルギエル……?」


「……確かに、アルギエル……」


頭の奥が痛む。


まるで記憶そのものが、無理やり書き換えられているかのようだった。


アエレルは言葉を失い、ただ震えることしかできない。


その遥か彼方では、


戦いがまだ続いていた。


炎と稲妻が空を覆い、


嵐の風が虚無を切り裂き、


そしてエルフの国に来てから初めて、


アケディアが動きを止めた。


彼はアキハラをじっと見つめる。


長い時間、ただ見つめ続けた。


「……そういうことか……」


かすれた声が響く。


「……貴様はまだ、生きていたのか……」


静寂が辺りを包む。


リオラは驚いてアキハラを振り返り、


ケイリスもまた、わずかに体を硬直させる。


だがアキハラは、ただ真っ直ぐに敵を見据えたまま。


彼の周りの炎は消えることなく燃え続け、


無になることを拒み、


消滅することを拒否していた。


世界がゆっくりと消し去られていく中、


その炎だけが、最後まで抗い続ける唯一の光だった。

「次回更新: 5月 26日 21:00」

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