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第26話: 沈黙の中で狩られる

南の森…いつもよりも深く感じる。


空はほとんど見えない。


太陽の光はわずかに差し込むだけで、重なり合う木々の葉によって細かく砕かれている。


足音がゆっくりと響く。


規則的な。


だが、全身が緊張感に包まれている。


不知火明原しらぬい あきはらが先頭を歩く。


手には何も持っていない。


だが、体はいつでも動けるように構えられている。


その後ろを


ライオラ・ライゼンが続く。


彼女の視線は絶えず動いている。


左。


右。


後ろ。


「…まだ、いる」


ライオラが囁く。


明原は振り返らない。


「ああ」


短い。


だが、確かな声。


日の村を出てから、この感覚は消えることがなかった。


まるで形のない影のようなもの。


ついて来る。


攻撃はしてこない。


だが…


決して、去ろうとはしない。


さらに数歩進んだ時、


突然


風が止んだ。


木々の葉も、ぴたりと動きを止める。


音が消える。


鳥の声も。


虫の音も。


すべてが…失われた。


ライオラが即座に足を止めた。


「…明原」


明原はそれより先に、既に動きを止めていた。


彼の瞳が細まる。


「…来たな」


そして一瞬のうちに


ガシャンッ!


二人の目の前の地面が砕けた。


一体のオークが姿を現す。


続いて


二体。


三体。


四体。


声もなく。


気配もなく。


ただ、殺意だけが存在している。


「…またか」


ライオラが息を吸い込む。


だが今回は


驚きはしていない様子だった。


明原が一歩、前に出る。


「…片付けるぞ」


最初のオークが襲いかかる。


大きな斧が頭上から振り下ろされる。


明原はわずかに身をかわし、


間合いに入り込む。


顎めがけて一撃を打ち込む。


ゴウンッ!


よろめきはしない。


だが、隙は生まれた。


稲妻が走る。


バリッ!


ライオラの攻撃がオークの肩に直撃する。


動きが鈍る。


明原が即座に追撃する。


手のひらに炎が宿る。


先ほどよりも、はるかに大きく。


そして、叩きつける。


ボウッ!


オークの体は内側から燃え上がり、


骨が軋み、


やがて黒い灰へと崩れ落ちた。


だが


他のオークは止まらない。


二体が左右から挟み込むように迫る。


ライオラが素早く動く。


体が風のように舞い、


稲妻がそれを追う。


バリッ!


一体はその場で痙攣し、絶命する。


だがもう一体は


既にライオラの背後に回っていた。


斧が振り下ろされる。


「…っ!」


その時、明原が現れた。


素手で斧の軌道を受け止める。


バキッ!


腕に強大な衝撃が走る。


だが、一歩も引かない。


瞳の色が変わる。


腕から炎が爆発する。


ドンッ!


オークの体が弾き飛ばされる。


「前に集中!」明原が叫ぶ。


ライオラが即座に体勢を立て直す。


二人の動きは…


次第に噛み合っていく。


意識せずとも。


言葉がなくとも。


完璧なタイミングで。


一体、また一体と


オークたちは倒れ、


灰となって消えていく。


魔力の痕跡さえ残さずに。


そして最後の一体が倒れようとした瞬間、


突然


静寂が訪れた。


そのオークは動きを止めた。


振り上げた斧は宙に浮いたまま。


ピクリとも動かない。


「…まだ、いる…」


ライオラが再び囁く。


明原は構えを解かない。


むしろ、本能の警鐘は最大音量で鳴り響いていた。


「…奴が、ここにいる」


言葉通り


暗い木々の間から


一対の瞳が現れた。


黄金色の瞳。


徐々に近づき、


輪郭がはっきりと見えてくる。


もはや隠れてはいない。


迷いもない。


ただ真っ直ぐに、二人を見つめている。


時間が止まる。


誰も動かない。


音もない。


だがその場に漂う圧力は


凄まじく重たい。


オークなどとは、比べ物にならない存在だ。


ライオラがゆっくりと手を上げる。


指先に雷光が集まり始める。


しかし


黄金の瞳は逸らされない。


怯えもしない。


まるでこう言っているかのように――


かかってこい。


明原が一歩、前に踏み出す。


たった一歩。


瞳は…


そのまま、そこにある。


退かない。


攻撃もしてこない。


ただ…


見つめているだけだ。


「…貴様は…」


明原が低く声を出す。


「…何者だ」


答えはない。


だがその瞬間


残っていたオークたちが


全て、塵となって消えた。


黄金の瞳もまた


ゆっくりと闇に溶けていく。


まるで最初から何もなかったかのように。


森の静寂が戻る。


風も再び吹き始める。


だが、空気だけは


元には戻らなかった。


ライオラがゆっくりと手を下ろす。


「…これは、ただの偵察じゃない」


明原は瞳が消えた方向を見つめたまま、


「ああ」


「…我々を、試しているんだ」


沈黙。


その言葉が重く、空気に漂う。


ライオラが明原を見る。


「…だったら…引き返すか?」


明原はすぐには答えなかった。


一度、目を閉じ、


深く息を吸い込んでから、


再び開く。


「…引き返したところで…」


少しだけ顔を横に向ける。


「…奴は、ついて来る」


ライオラは黙った。


それが真実だと、彼女もわかっていた。


もはや、安全な場所などどこにもないのだ。


「…なら、どうする?」


明原が体を向け直す。


再び、歩き出す。


「…進む」


手のひらに、小さな炎が灯る。


「そして、見たいのなら…」


彼の瞳が鋭さを増す。


研ぎ澄まされ、


深く、強く。


「…最後まで、見せてやるだけだ」


ライオラが、かすかに笑う。


「…それでこそ、明原だね」


二人は再び歩き始めた。


森のさらなる奥地へ。


南へと向かって。


そして、遥か後方。


視界の届かぬ闇の彼方で


何かが…


確かにそこに在った。


一つの意思。


冷たく、


静かに、


ただ見つめ続けている。


「…まだ、足りぬか…」


その声は


音にはならない。


だが確かに


そこに、在った。

「次回更新: 4月 29日 20:20」

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