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僕たち横浜万博警備隊 ― 1989年、青春と事件の半年間 ―  作者: 岩田 ヒロ


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2/10

万博開幕 ― 24時間ゲート警備と田村の失踪

誤字脱字を修正しました。


1989年、横浜。

昭和が終わり、平成が始まった年。

大学生だった僕は、横浜万博の“24時間ゲート警備”という

奇妙で刺激的なバイトに飛び込んだ。


そこで出会ったのは——

暴走族上がりのイケメン、

英語も暗算も最強の謎の男、

競馬と風俗に人生を捧げる元自衛官、

そして板前修行中の寡黙な兄貴肌。


事件、恋、喧嘩、火事、ダフ屋、二股、友情。

半年間のすべてが、僕の価値観をひっくり返した。


これは、実在の横浜万博を舞台にした

“青春ノンフィクション小説”です。

 何度か田村さんとペアを組んだ。ゲートで外国人に道を尋ねられると、僕も含めて警備員は適当な英語、日本語、ジェスチャーで対応していたが、田村さんは流暢な英語でスラスラと答える。みんな尊敬のまなざしで見ていた。


 また、僕たちは昼間に酒屋で酒とつまみを買い出しして、夜の休憩時に軽い宴会をした。田村さんはお酒やつまみをまとめて支払い、後で暗算で素早く計算してテキパキと集金する。頭の回転が速い人だった。


 しかし、この24時間ゲート勤務チームで最初の事件は、田村さんがバイトに来なかったことから始まった。


 ***


 ある日、田村さんが昼の12時を過ぎても現れず、一時間、二時間待っても来ない。会社の事務所から電話してもらったが連絡は取れず、仕方なくその日は3人で回した。


 次の勤務日、田村さんは何事もなかったように登場した。


「ちょっと用事があって、ごめん、ごめん」


 それだけ言って終わり。周りから「ちゃんと連絡してくださいよ」と言われても、「了解、了解」と軽い返事。


 ところが、その次の勤務でも無断欠勤。結城さんが会社に文句の電話をすると、バイトのマネージャーが急遽代打でシフトに入った。


 さらにその次の勤務日、また何事もなかったように田村さんが現れた。すると結城さんが椅子を蹴飛ばし、怒鳴った。


「いい加減にしろよ!」


 さすが暴走族のリーダーをやっていただけあって、迫力があった。田村さんも今回はふざけた態度を見せず、無言でゲートへ向かった。僕は後を追いかけたが、その日、田村さんとは一言も会話しなかった。


 結局、その日を最後に田村さんは二度と現れなかった。


 そして、僕たちA班にはB班から住吉さんという人が参加することになった。


 ***


 それにしても、無責任な行動だし、何事もなかったように次のローテーションに登場するなんて、神経が太いというか鈍感というか、僕には理解できなかった。


 田村さんの頭の中は、もっと大事なこと——きっと本業のお茶の輸入取引のことでいっぱいで、警備のバイトは遊び半分だったのだろうか。

 それでも他人に迷惑をかけたのだから、謝罪すべきだと思う。僕ならする。嫌われたくないし、場の空気を悪くしたくないからだ。


 そう、僕は他人の目を気にして生きてきた。嫌われたくない、空気を悪くしたくない。

 それは、自分の大事なことと天秤にかけても、他人の目を気にすることを優先してしまう。

「頑張ってるね」「いい人だね」と言われたいのだ。


 今思うと、田村さんにはそういうところが全くなかった。

 飲みの精算だって、自分が損しないために率先して計算しただけ。

 外国人対応も、英語が分からない人たちが対応しているのを見て、時間の無駄だと思い、イライラを抑えたくないから介入しただけ。

 決して「助けたい」という気持ちではなかったように思う。


 もしかすると田村さんは、

「他人の目を気にして生きることは無意味で、ただ時間の浪費だ」

 と考えていたのかもしれない。


 田村さんの行動は、そんな価値観を僕に見せてくれた気がする。

 こんな幕切れで田村さんとは二度と会わなかったが、実はもっと教わることがあったのかもしれない。

 ——他人の目を気にして生きることの虚しさについて。


 ***


 次の揉め事は、僕たち24時間ゲート警備とパビリオン警備の間で起きた。


「なんだよ、あいつら片付けもしないで帰りやがって!」


 21時過ぎの崎陽軒詰所で、結城さんが怒鳴った。

 確かに、昼間のパビリオン警備が帰った後の詰所は、たばこの吸い殻やジュースの缶が散乱していた。


 藤井さんがいるといつもきれいに掃除してくれたが、結城さんと住吉さんはバイトのマネージャーにクレームした。


 ところが2日後のシフトで、マネージャーがこう言った。


「パビリオン警備のみなさんには、帰宅時に詰所を整理整頓するよう伝えました。

 しかし、ある人が『A班が勤務した次の日の朝は詰所が酒臭い』と言っていました。これは本当ですか?」


「誰っすか?そんなこと言うやつ?」と結城さん。


「誰が言ったかは問題ではなくて、夜、詰所でお酒飲みましたか?」


「田村さんいた時、田村さん飲んでました」


 結城さんはうまく田村さんに責任を押しつけた。


「そうですか。田村さんはもう辞めてしまったので注意しようがありませんが、みなさん勤務中にお酒は飲まないでくださいね」


 この件はそれで終わった。


 確かにB班は真面目なメンバーで、夜に宴会などしていないことは分かっていた。


「誰だよ、チクったやつ。あのマネージャーもむかつくな。機械みたいに真面目なことばっか言って」と結城さん。


「か、彼も、む、昔、じ、自衛官」と藤井さん。


「おめぇ、知ってるのか?」と住吉さん。


 藤井さんが頷いた。

 マネージャーも藤井さんも、真面目で時間やルールに厳しいタイプ。なるほどと思った。


「これから宴会は寝室でこっそりやるようにしようぜ」と結城さん。


 結局、誰かがクレームすると、相手がこちらの揚げ足を取り、揉め事が起こる。

 そんな構図を見た気がした。

 しかし、辞めた田村さんを“悪者”にした結城さんの言い訳は見事だった。


 ***


 その後しばらくして、結城さんが言った。


「チクったの、きっと沼田だぜ。アイツ、なんか文句ありそうな顔してた」


 詰所で休憩したり昼飯を食べたりする時、パビリオン警備員とゲート警備員はよく会話する。

 どこのコンパニオンが可愛いかが一番の話題だ。

 けれど、全く会話に参加しない人もいる。沼田さんはその一人だった。


「50人以上野郎がいるんだから、わかんねえよ。ちょっと目立たないようにしとこうぜ」と住吉さん。


 結城さんと沼田さんは揉めそうな気配だった。


 ***


 4月になり、学校が始まると僕は週1回しか24時間勤務のバイトができなくなった。

 そこでA班には、僕の代わりに沼田さんが入ることになった。


 これは揉めるだろうと僕と住吉さんは予想した。


 ところが一週間後、バイトに顔を出すと、沼田さんと結城さんが仲良くゲートに立っていた。


 住吉さんに聞くと、沼田さんは24時間勤務を希望したが却下され、僕たちを羨ましく思っていたらしい。

 それで僕たちを無視していたのだと分かった。


 さらに、二人は中学の先輩後輩だと判明(結城さんが一年上)。

 その偶然で意気投合したらしい。


 些細なすれ違いで人は揉めるし、思いもよらない偶然で仲良くなる。

 そんなことを実感した出来事だった。



読んでいただき、ありがとうございます。

横浜万博での半年間は、僕の人生を大きく変えた時間でした。

当時の空気、匂い、人間関係をできるだけそのまま描きました。


もし楽しんでいただけたら、

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