万博開幕
昭和から平成へと時代が変わった年、大学生の僕は横浜万博の警備のバイトに応募する。この経験が自分の人生に大きな影響を与えるとは知らずに。第ニ話、万博開幕
何度か田村さんとペアを組んだ。ゲートで外人が来て道を訪ねられると僕も含めて警備員が適当な英語、日本語、ジェスチャで対応していると田村さんが英語で流暢に対応するのだ。みな尊敬のまなざしでみていた。また、僕たちは昼間に酒屋で酒とつまみを買い出しして、夜の休憩時に軽い宴会をした。田村さんはお酒やおつまみをまとめて支払って、後ほど暗算で計算し、テキパキと集金した。しかし、この24時間ゲート勤務チームで最初の事件は田村さんがバイトに来なかったことから始まった。
ある日、田村さんが昼の12時過ぎても、顔を出さず、一時間、ニ時間待っても来ず、会社の事務所から電話連絡してもらったが、連絡とれず、仕方なくその日は三人で回した。次の勤務日には何事も無かった顔で登場した田村さん。
「あ、ちょっと用事があって、ごめん、ごめん」とだけ言い訳して終えてしまった。ちゃんと連絡くださいよと周りから言われ、了解、了解と答えていた。
ところがその次の勤務でも無断欠席し、結城さんが会社に文句の電話をしたら、バイトのマネージャが急遽代打で、僕たちのシフトに参加した。その次の勤務日に何も無かった顔して田村さんが登場し、結城さんが椅子蹴飛ばして、怒鳴りつけた。
「いい加減にしろよ!」
さすが暴走族のリーダをやっていただけあって、こちらも結構ビビった。さすがの田村さんも今回はふざけたことは言わず、一言もしゃべらずゲートに向かったので僕は後を追いかけた。その日僕は田村さんと一言も会話せず、ゲートの警備に立った。
結局、その日を最後に田村さんは二度と現れなかった。そして、僕たちA班にはB班から住吉さんって方が参加することになった。それにしても、無責任な行動だし、何事も無かったように次のローテーションに登場するなんて神経が太いというか鈍感というか、僕には理解できなかった。田村さんの頭の中はもっと大事なこと、きっと、メインのお茶の輸入取引のことで頭がいっぱいで警備のバイトは遊び半分だったのだろうか?それでも他人に迷惑をかけたのだから、謝罪をするべきと思う。僕ならする。嫌われたくないし、場の空気を悪くしたくないからだ。
そう、僕は他人の目を気にして生きてきた。嫌われたくない、空気を悪くしたくない。それは自分の大事なことと天秤に掛けてでも他人の目を気にすることを優先する。他人によく思われたい、頑張っているねとか、いい人だねって言われたいのだ。
今、思うと田村さんはそういったところは全くなかったように思う。飲みの精算だって自分が損しないために率先して計算しただけだし、外人の対応についても、英語が分らない人たちが対応しているのを見て、時間の無駄、イライラする気持ちを抑えたくないから率先して介入していただけ。決して外人を助けたいとかそういう思いは無かったように思う。
もしかして、田村さんは他人の目を気にして生きるということは何の意味も無く、ただ、時間の浪費を生むと考えているのかもしれない。田村さんの行動はそんなことを僕に見せてくれた気がする。こんな幕切れで田村さんとは二度と会わないこととなってしまったが、実はもっと教われることがあったのかもしれない。他人の目を気にして生きることの虚しさみたいなことについてとか。
次のもめ事は僕たち24時間ゲート警備とパビリオン警備の間で起きた。
「なんだよ、あいつら片付けもしないで帰りやがって!」
結城さんが21時過ぎの崎陽軒詰所でどなった。確かに昼間のパビリオン警備が帰った後の詰所はたばこの吸い殻は片付いておらず、ジュースの缶も置きっぱなしだった。藤井さんがいるといつもきれいに掃除してくれたが、結城さん、住吉さんはバイトのマネージャにクレームした。
ところが2日後の次のシフトの時にマネージャが言った。
「パビリオン警備のみなさんに帰宅時は詰所を整理整頓して帰るように伝えました。しかし、ある人がA班が勤務した次の日の朝は詰所が酒臭いって言う人がいました。これは本当ですか?」
「誰っすか?そんなこと言うやつ?」と結城さんが聞いた。
「誰が言ったかは問題ではなくて、夜、詰所でお酒飲みましたか?」
「田村さんいた時、田村さん飲んでました」と結城さんはうまい言い訳をした。
「そうですか、田村さんはもう辞めてしまったので注意しようがありませんが、みなさん勤務中にお酒飲まないでくださいね」
とこの件はここで終わった。
確かにB班はまじめなメンバで夜宴会をやってはいないことは分っていた。
「誰だよ、チクったやつ。それに、なんだよあのマネージャーむかつくな。機械みたいに真面目なことばっか言って」と結城さんが言うと、
「か、彼も、む、昔、じ、自衛官」と藤井さんが答えた。
「おめぇ、知ってるのか?」と住吉さんが聞くと、藤井さんが頷いた。マネージャーも藤井さんは二人とも真面目で、時間やルールには厳しそうで、なるほどなと思った。
「これから宴会は寝室でこっそりとやるようにしようぜ」結城さんが言う。結局、誰かがクレームすると相手方がこちらの揚げ足を取り、揉め事が起こるような場面を見た気がした。しかし、辞めた田村さんを悪者にした言い訳は見事なものだと思った。その後詰所はパビリオン警備の人たちは帰り際きれいに片付けて帰るようにはなった。
その後ちょっとして結城さんが、
「チクったのきっと沼田だぜ。アイツ、なんか文句ありそうな顔してた」と言い出した。詰所で休憩したり、昼飯を食べる時、パビリオンの警備員と我々ゲートの警備員はよく会話する。どこのコンパニオンが可愛いかが一番の話題だ。けれど全く会話に参加してこない人がたまにいる。沼田さんはその1人だ。
「50人以上、野郎がいるんだからわかんねえよ。ちょっと目立たないようにしとこうぜ」と住吉さんがなだめた。結城さん、沼田さんは揉めそうな気配だ。先が思いやられる。
4月になり、学校が始まると僕は週一回しか24時間勤務のバイトが出来なくなった。そこでA班には僕の代わりになんと沼田さんが入ることになった。これはきっと結城さんと揉めるだろうと僕と住吉さんは予想した。ところが一週間が過ぎて、バイトに顔を出すと沼田さんと結城さんが仲良くゲートに立ち会話をしているのだった。住吉さん聞くと沼田さんは24時間勤務を希望したが、なぜか却下されたので、僕たちを羨ましく思ってたらしく、それで僕たちを無視していたらしいことが分かったと言う。そして、2人は中学の先輩後輩だと分かり(結城さんが一年上の先輩だったらしい)、なぜか意気投合してしまったらしい。些細なすれ違いで人は揉めたりするし、思いもよらない偶然で仲良くなったりする。
読んでいただき、ありがとうございます。毎週火曜日に続編を投稿する予定です。
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