その後のこと ― 僕たちの半年間と、夜の東口ゲート
誤字脱字を修正しました。
1989年、横浜。
昭和が終わり、平成が始まった年。
大学生だった僕は、横浜万博の“24時間ゲート警備”という
奇妙で刺激的なバイトに飛び込んだ。
そこで出会ったのは——
暴走族上がりのイケメン、
英語も暗算も最強の謎の男、
競馬と風俗に人生を捧げる元自衛官、
そして板前修行中の寡黙な兄貴肌。
事件、恋、喧嘩、火事、ダフ屋、二股、友情。
半年間のすべてが、僕の価値観をひっくり返した。
これは、実在の横浜万博を舞台にした
“青春ノンフィクション小説”です。
万博が終わってから、僕はしばらく“燃え尽き症候群”のようになっていた。
半年間、あれほど濃い日々を過ごしたのだから当然かもしれない。
大学に戻っても、授業は退屈で、友達との会話もどこか上の空だった。
あのゲートでの夜の会話、台風の中の警備、火事、ナンパ、恋、嫉妬、喧嘩、笑い——
あれらはすべて、大学生活では絶対に得られない経験だった。
***
結城さんは床屋を継ぎ、圭子ちゃんと本当に付き合い始めた。
あの結城さんが「彼女一筋」になるとは思わなかった。
住吉さんは板前の修行を続け、妹の就職を待ちながら、いつか自分の店を持つ夢を語っていた。
藤井さんは警備会社の正社員になり、競馬とソープと居酒屋を人生の楽しみにすると言っていた。
それを誰も否定しなかった。
あの4人の中では、どんな生き方も“それでいい”と思えた。
僕は大学に戻り、久美とは惰性のように付き合い続けていた。
直子さんとは、あの日以来一度も会っていない。
婚約が本当だったのか、嘘だったのか。
もうどうでもよかった。
***
11月のある夜、僕は一人で横浜駅の東口に向かった。
あのゲートの場所を見たくなったのだ。
高島埠頭へ続く道を歩くと、万博の跡地はすでに解体が進み、
あれほど賑わっていた場所が、嘘のように静まり返っていた。
ゲートがあった場所に立つと、潮風が吹き抜けた。
そこにはもう、僕たちの詰め所も、誘導灯も、コンパニオンたちの声もない。
ただ、広い空と、港の匂いだけが残っていた。
半年間、僕はここで生きていた。
ここで笑い、怒り、恋をして、傷ついて、また笑った。
あの頃の僕は、何も知らず、何も分かっていなかった。
でも確かに、ここで“何か”を手に入れた気がした。
それが何なのかは、まだ言葉にできない。
***
東口の歩道橋の上で立ち止まり、港を見下ろした。
半年間の思い出が、潮風に混じって胸の奥に沈んでいく。
あの横浜万博で大勢の人たちが笑い、働き、恋をしていたことが、
今では うたかたの夢 のようだ。
そして、僕一人だけがその記憶から取り残されているような気がした。
耳を澄ますと、結城さんの笑い声や、直子さんの「電話ちょうだい」という声が、
どこか遠くで聞こえた気がした。
——幻だと分かっていても。
ふと思う。
僕はどこへ行こうとしているのだろう。
なぜ、ここに来て、一人で立っているのだろう。
横浜の夜空には、新島で見たようなたくさんの星は輝いていなかった。
けれど、その暗さが今の僕にはちょうどよかった。
万博は終わった。
でも、あの半年間は、これからもずっと僕の中で生き続ける。
読んでいただき、ありがとうございます。
横浜万博での半年間は、僕の人生を大きく変えた時間でした。
当時の空気、匂い、人間関係をできるだけそのまま描きました。
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