夕焼けの飛行船 7
「先輩あの人のこと、好きでしょ?」
星の家からの帰り道、東海林がそんなことを言った。
「え? 工藤さんはそんなんじゃないって。父親の生徒だったんだ」
「ふ~ん、ほんとにそれだけ?」
東海林が珍しく真面目な顔で尋ねた。
「うん。ひょっとしてヤキモチ?」
「違うよ、ちょっと気になっただけ」
東海林は少しも動揺せずにしっかりした口調でそう答えた。
「私はやっぱり屋上のほうが好きだな」
「え? あんなに月の石に食いついてたのに?」
「月の石は別だよ」
そう言った後、東海林はなぜか笑い出した。
「あれレプリカなんだって知ってるのにさ、動けなかったんだよ? 私」
その笑顔は清々しく、見ているだけで心が明るくなるようだった。
「天体望遠鏡は?」
「あれはさ~、なんか拍子抜けしたのと圧倒されたのと……よくわかんない。
私には屋上から眺める小さい空の方がちょうど良いんだよ。きっと」
電車が駅について、僕らはゆっくり腰を上げた。
「あのさ、明日屋上に来る?」
「うん、行くよ。私それぐらしかすることないし」
「そっか」
僕たちは学校の自転車置き場に向かった。
東海林の自転車を取りに行くためだ。
大した会話のない、静かな帰り道。
学校前の外灯が見えてきた。
「先輩、ついてきてくれてありがとうございました」
「ああ、こちらこそ」
カチャン。
東海林の自転車のカギが開く音。
今だけはなんだか残酷な音だ。
「気を付けて帰ってね。また明日屋上で!」
東海林はふわっと自転車に飛び乗ると、僕に軽く手を振って
車輪の音を軽快に響かせながら消えていった。
その場に残った僕も一息ついた後、歩き出す。
さっきまで綺麗だった星はもう出ていない。
灰色だ、明日は雨かもしれない。
湿った臭いと鳩の鳴き声が僕の周りで渦を巻いた。




