夕焼けの飛行船 2
「まるで檻の中の動物みたいですね。気持ちはわかるけど……」
「あー……敬語いいから。多分私年下だし」
そういえば以前にもこんなやりとりがあった。
……工藤さんだ。この頃の僕はもうほとんど星の家へ訪ねていなかった。
「そうなの? 何年?」
「一年。いや~、私生意気だよね。礼儀がなってない」
驚いた。言われてみれば顔はまだ幼さが残っているものの、
立ち居振る舞いは三年生と言われても違和感がないほど大人びていた。
「先輩、名前は?」
女子生徒がフェンスに寄りかかりながら僕に聞いた。
「二年の田辺。そっちは?」
「東海林」
「しょうじ? 名前?」
「苗字に決まってるじゃん!」
東海林は僕の間の抜けた答えが面白かったらしく、
クスクス笑っていた。
「でも今日の占い当たったな」
東海林はそう言うと僕のことをじっと見つめた。
「あなたにとって極めて重大な出会いがあるでしょう……ってやつ」
「極めて? 極めてってなに?」
「私に聞かないでよ。良いじゃん、こんなに晴れた日なんだから細かいことは」
ガチャンと屋上の扉が開いて、十分すぎるほどに日焼けした
金髪の男子生徒が二人出てきた。
彼らは僕たちを一瞥すると、にやにや笑いながら屋上の隅でタバコに火をつけた。
「……極めて重大な出会いかもよ?」
僕が囁くと、東海林は軽く肩を小突いてきた。
「やめてよもう……帰ろう!」
それが東海林との初めての出会い。
僕らはその日から頻繁に屋上で出くわすようになった。
いや、僕自身が東海林に会いたくて屋上へ行っていたのかもしれない。
何に惹かれたのかはわからないが、
彼女を見ていると別の世界に居るような不思議な感覚があった。
その日は晴れて絶好の屋上日和だった。
早く放課後にならないかと、そんなことばかり考えていたが
さすがに返ってきた化学のテストが0点だったときは驚いた。
「うわ、0点なんて私でも取らないんですけど……」
放課後、そのことを話すと東海林はひどく驚いた様子だった。
「30点とかなら結構取るけどさ」
「言っておくけど0点なんて僕も初めてだよ? 普段は悪くて60点ぐらいだ」
東海林は目を細めながら疑うように僕を見つめた。
いつもよりも雲が速く流れる日だった。
「雲が速いね……」
感慨深げにそう呟き、目を瞑って風を感じている東海林はまるで妖精だった。
「ここから飛び降りたら死ぬよね?」
初めて東海林と出会ったときのビジョンが高速で脳裏に浮かぶ。
その一瞬、東海林の瞳はゾッとするほど悲しい色に染まっていた。
「当たり前だろ。何言ってんだよ……」
「何でもないよ。ちょっと言ってみただけ。あ~、私ずっとここに居たいな」
東海林はすぐにいつもの調子に戻り、楽しそうな笑顔を僕に見せた。




