第127話 離れた土地の同じ病
朝食を終えて部屋へ戻ろうとすると、宿の女将に呼び止められた。
「二人に、お手紙が来てるよ。お使いの人が、お返事を待ってるから」
差し出された封書には、エルナとルークの名があった。
礼を言って受け取り、二人で食堂の端へ寄る。封を開くと、末尾にエドガーの名が見えた。
他国から、作物の傷みについて注意を促す知らせが届いたという。
ヴィオラから伝わった道中の畑について、実際に見た二人にも聞きたいことがある。都合がよければ、今日の午後、農地の調査を扱う役所へ来てもらえないかと書かれていた。
訪ね先と時刻も添えられている。
「あの豆の畑ですね」
「うん。ヴィオラさんに話したところだな」
ルークも書付へ目を落とした。
エルナは、女の人が持ち上げてくれた葉を思い出した。裏にも、小さな斑があった。
「私も、お話を聞いてみたいです」
「俺も。行けるって、伝えようか」
「はい」
中には、もう一枚、短い書付があった。
こちらはイネスからだった。
『今日は朝から、各地の救援についてのお話を伺います。午後、お会いできれば嬉しいです。
昨夜のお話は、明朝に時間を取れそうです。場所のことも確かめておきますので、今日、ご都合を伺えればと思っています』
小さなカップの中で、水が増えていたところが頭に浮かんだ。
イネスが魔法をやめたあとも、水面は上がっていた。
「明日の朝、だって?」
隣から尋ねられ、エルナは顔を上げた。
「はい。場所も、確かめてくださるそうです」
「そっか。俺は、大丈夫だよ」
「私もです」
昨夜、イネスは何度もカップへ目を戻していた。
雨でもできるだろうかと尋ねた時の声を、エルナは覚えていた。
書付を重ね、折り目に沿って畳む。
ルークと一緒に、返事を待っている人のところへ向かった。
*
午後、教わった役所へ着くと、入口のそばには荷車が止まっていた。
男が一人、抱えた書付を確かめてから、中へ入っていく。
エルナたちも受付で手紙を見せ、奥の部屋へ案内された。
イネスとヴィオラは、既に来ていた。
窓に近い卓には何枚も紙が広げられ、別の男が、それを順に重ね直している。
「来てくれて、ありがとう。急なお話になってしまったわね」
ヴィオラが立ち上がった。
エルナはフードの端を少し上げ、顔を向ける。
「いいえ。私たちも、気になっていたので」
「届いた知らせの概要を聞いて、あなたたちが話してくれた畑を思い出したの。それで、こちらの方にもお伝えしたのよ」
卓のそばにいた男が、二人へ一礼した。
農地の調査を担当していると名乗り、椅子を勧めてくれる。
エルナはルークと並んで腰を下ろし、鞄を膝へ置いた。
「イネスさんは、朝からこちらに?」
「はい。井戸や池に、今どれくらい水が残っているのか、各地から届いたお話を伺っていました。前に行った時と、違っているところもあって」
イネスは、傍らの書付を揃えた。
エルナがその束へ目を向けた時、戸が開いた。
「お待たせいたしました」
入ってきた男は細身で、落ち着いた色の上着をきちんと着ていた。
短く整えた髪は灰褐色で、窓からの光を受けると、少し柔らかな色に見える。
書付を卓へ置き、こちらへ向き直った。
「王太子ユリウス殿下の侍従を務めております、エドガーと申します」
「……お手紙をくださった方ですね」
エルナは椅子から立った。
ルークも隣で立ち上がる。
「エルナです。先日は、お取り次ぎいただいて、ありがとうございました」
「ルークです。おかげで、お二人にお会いできました」
エドガーの榛色の目が、二人へ順に向いた。
「無事にお会いになれたと伺っております。どうぞ、お掛けください」
勧められて、もう一度座る。
手紙の最後で見ていた名前に、初めて顔と声が結びついた。
「マリエラ殿下からのお手紙は、ユリウス殿下にもご覧いただいております。隣国へ御出立になる前に、お二人の面会を進めるよう、私へお話がありました」
「王太子殿下が、ですか」
「はい。私は留守中の連絡や、王都での手配をお預かりしております。イネス様とヴィオラ様へもご都合を伺い、あの時刻でお返事を差し上げました」
ヴィオラが、頷いている。
エルナは、鞄にしまってある紹介状の返書を思った。
会える日が決まったと喜んだ時、その前に、誰がどんな話をしてくれたのかまでは知らなかった。
「王太子殿下にも、お礼をお伝えいただけますか」
「承りました」
「殿下から、何かお知らせは来ているの?」
ヴィオラが尋ねた。
エドガーは卓の上の書付を寄せてから答える。
「先方へ無事に着かれたとの知らせが届いています。御出立前のお話では、食糧と資材の取引や、それをこちらへ運ぶ道筋について、話し合われる御予定でした」
「お食事の時間は、取れそうですか」
イネスが、少し気遣うように言った。
「同行する者には、その時間も先に取っておくよう、頼んであります」
エドガーの口元が、わずかに緩んだ。
ヴィオラも小さく笑う。
「それなら、少し安心ね」
エルナは、二人とエドガーの顔を見た。
昨日、ヴィオラが話してくれた人は、隣の国で、どんな話をしているのだろう。
自分たちの面会のことも、出立する前に気に掛けてくれていたのだ。
農地の担当者が、重ねていた紙を卓の中央へ置いた。
エドガーもそちらへ身体を向ける。
「それでは、届いた記録を見ていただけますか」
農地の担当者が、綴じられた紙を開いた。
「リュメリアの研究機関から、作物の病害について知らせが来ています。向こうでは、植熱病と呼んで調べているものです」
エルナは、初めて聞く名を、心の中でもう一度繰り返した。
植熱病。
「こちらが、葉と実に現れた傷みを描いたものです。そのあとの変化も、続けて記されています」
卓の上に、葉の表と裏を描いた図が並んだ。
濃い点が、一枚の葉の上に散っている。
その隣には、縁や一部が変色し、縮れた葉があった。
エルナは身を寄せた。
「こちらを、もう少し近くで見てもいいですか」
「どうぞ」
紙を寄せてもらい、葉の裏を描いたところを見る。
その下には、細い莢があった。まだ十分に膨らんでいない先が、黒く窪んでいる。
「ルーク。これ……」
隣から、ルークも覗き込んだ。
エルナは莢の先へ指を寄せ、紙に触れる手前で止めた。
「あの畑でも、こんなふうになっていました。中の豆が育つ前に、ここが黒く傷んでいて」
「猪に入られた方じゃなくて、向こうの畝だよな」
「はい。葉の裏も、見せてもらったんです」
女の人の指が、葉の端を持ち上げる。
表に見えた点と似た斑が、裏にも広がっていた。
エルナは、図から担当者へ目を戻した。
「最初は表に小さな点が出て、それから裏にも広がったと聞きました。色が変わった葉から、枯れていくと」
男は別の紙を開き、書かれている行を指で辿った。
「その経過も、こちらの記録と合います。育ち方には、違いがありましたか」
「同じ頃に種をまいたのに、傷んでいる方は、なかなか育たないそうです。すぐ向こうには、大きくなっている株もありました」
エルナは、畝の奥に広がっていた、色の濃い葉を思い出した。
「水を回しても、傷みが止まらないものがあると、おっしゃっていました」
担当者が頷き、そばの紙へ書き留める。
ヴィオラも、記録を近くへ寄せて見ていた。
「そちらでも、水を与えてなお、傷みが進んだ例があるの?」
「はい。ここに記されています」
示されたところを、ヴィオラが読んだ。
エルナも、図の隣の文章へ目を移す。
葉が変わり、実が傷み、採れるはずだったものが採れなくなる。その移り変わりが、畑ごとに書かれていた。
「……あの畑も、この病気だったんでしょうか」
「お話の特徴と経過は、よく似ています。実際の畑も確かめる必要がありますが、同じ病害の疑いがあるものとして、場所を伺えればと思っています」
男が、図の綴じられた端を押さえた。
「こうした傷みが、複数の土地で調べられています。暑さで葉の端が乾くことや、水が切れてしおれることだけでは、説明できないものです」
「何が原因なんでしょうか」
エルナが尋ねると、男は開いていた記録へ目を落とした。
「原因は、まだ調査が続いています」
エルナも、図へ目を戻した。
斑の増えた葉の下に、まだ小さな莢が描かれている。
「傷んでいる株を、治すことはできるんでしょうか」
「傷みを止める確かな方法は、今のところ、こちらへ届いた知らせにはありません」
エルナは頷き、しばらく、その黒い莢を見ていた。
女の人は、猪に壊された柵へ手を当てていた。
猪なら、柵を直せるんだけどね、と言っていた。
「その村にも、このことは伝わっているんでしょうか」
担当者が顔を上げる。
「病気として調べられていることや、ほかの畑でも起きていることを、あの方も知っていらっしゃるのかと思って……」
「その村まで知らせが届いているかは、こちらでは、まだ確かめられていません」
男はそう答え、エドガーへ顔を向けた。
エドガーが、傍らに置かれていた街道図を広げる。
「どちらの村か、教えていただけますか。向こうの担当へ、今のお話と一緒に確認を回します」
エルナは、図の中からラーデンの名を探した。
その先に、セレドがある。
「この二つの街の間です。村の名前までは、確かには覚えていなくて」
「この道沿いでした」
ルークが、二つの街を結ぶ道を指した。
「馬の水を汲ませてもらった井戸の、すぐそばに畑がありました。井戸の縄も、前の長さでは水に届かなくなって、継ぎ足したと聞きました」
エドガーは道を目で追い、書付へ記した。
「まずは、この道沿いの報告に合うものがないか、問い合わせてみます。村の名が確かめられましたら、あとからでもお知らせください」
「はい。ありがとうございます」
自分たちが話す間にも、紙の上に文字が増えていく。
エルナは、ペン先が止まるのを見てから、図へ目を戻した。
ここで聞いた名前を、あの女の人にも伝えたかった。
「山で採っていらした薬草にも、同じ傷みはありましたか」
担当者に尋ねられ、エルナは首を振った。
「私が見たものには、こういう斑はありませんでした。前より小さい株が増えたり、採れる量が減ったりはしていたんですが」
男が、それも別に書き留めた。
エルナは自分の前の図を、隣のイネスにも見えるよう、少し中央へ戻した。
「この国でも、同じ傷みが報告されています」
担当者は、別の束から紙を出した。
「今届いている報告を比べる限りでは、他国ほどの被害には至っていません。ただ、国内にも、実りが減ったという訴えはあります」
エルナは、紙の上に並ぶ地名を見た。
知っている名は少なかった。
先ほどまで見ていたリュメリアの記録には、収穫できるものが大きく減った村のことも書かれていた。
イネスが、地名の一つへ目を留めた。
「こちらには、まだ伺ったことがありません。畑の水は、足りているのでしょうか」
担当者が、その紙を近くへ寄せた。
「井戸から水を運んでいるそうです。ただ、水を入れても葉の斑が増えていると、こちらには記されています」
イネスは、示された行を読んだ。
「水の不足もあるのか、確かめていただけますか。近くの村の様子も分かりましたら、伺いたいです」
「承知しました。確認の返事が届きましたら、お知らせします」
イネスは礼を言い、村の名を自分の書付にも控えた。
その隣には、別の土地から届いた知らせがあった。エルナの視線を追い、イネスがその紙を少し寄せてくれる。
「こちらは、前に雨を降らせた村からの知らせです。池の水を畑へ回せるようになって、作物も持ち直しているそうです」
書付の端を押さえるイネスの口元が、少し緩んだ。
エルナは、一昨日の水路を思い出した。
曲がった先へ水が流れ、乾いていた畝へ入っていった。
葉は垂れたままでも、男の人は、これなら持ち直すと言った。
こっちも残せる。
そう聞いた女の人が、足を止めていた。
「一昨日伺った村でも、奥の豆まで水が入って、持ち直すだろうと伺いました」
イネスが言った。
「池にも水が残りましたから。しばらくは、そこから使っていただけると思います」
エルナは頷いた。
あの水があれば、毎朝、遠くまで桶を運ばずに済む。苗だけを先にしていた人が、奥の畑へも水を回せる。
エルナは、イネスが見せてくれた書付をもう一度読んだ。
旅先で葉を見せてくれた女性にも、こんなふうに、畑が持ち直したと言える日が来てほしかった。
担当者は書き留めた内容を読み直し、紙を重ね直した。
ルークが、卓の上に残っていた図へ目を向ける。
「帰る途中にも、同じような畑を見るかもしれません。そういう時は、ギルドへ知らせれば、こちらにも届きますか」
「国内でしたら、最寄りのギルドから、その土地の役所へ取り次いでもらえます」
担当者が答えた。
「国を越えた先なら、まず、そちらのギルドでお話しください。今回のリュメリアへの確認は、私どもから、知らせを送ってきた窓口へ回します」
「分かりました。場所も、ちゃんと確かめておきます」
ルークは、街道図をもう一度見た。
エドガーが書付の端を揃え、担当者の前へ置く。
「こちらを、殿下へお送りする報告にも添えます。お二人とも、ご協力いただき、ありがとうございました」
「いえ。あの畑のことが、少し分かってよかったです」
エルナは、もう一度図を見てから、椅子を引いた。
ヴィオラも立ち上がり、薄い外套を腕へ掛ける。
「イネス様には、もう一件、ご相談があります」
エドガーが、別にしてあった封書を取った。
「こちらの土地から、雨についてのお願いが届いております。詳しい水の残り具合は、改めて確かめることになっていますが」
イネスは差し出された書付を受け取り、記された名を見た。
「以前、伺ったところですね」
「はい。まずは、ご相談をと思いまして」
「今の水の様子と、いつ頃を希望なさっているか、分かりましたら教えていただけますか」
「承知いたしました」
イネスはもう少し読んでから、書付を畳んだ。
その手元を見て、エルナは、昨夜のカップを思い出した。
次に雨を降らせる時にも、イネスは、降り続く間ずっと力を使う。
昨日のように、水が生まれる働きを残せたら。
イネスが外套を取り、こちらへ顔を向けた。
エルナも席を離れ、二人に続いて部屋を出た。
廊下には、待っていた護衛の姿があった。
エドガーは担当者と話が残っているようで、部屋の戸口で別れた。
「朝、お手紙に書いた件ですが」
玄関へ向かいながら、イネスが言った。
「明日の朝食のあと、いつもの受付へ来ていただけますか。場所の手配は、これから確かめておきます。変更があれば、お宿へお知らせしますね」
「はい。私たちは、その時間で大丈夫です」
エルナが答え、ルークも頷いた。
「俺も、お願いします」
「私も、空けておくわ」
ヴィオラが言った。
イネスの顔が、少しほころんだ。
「では、明朝に。よろしくお願いします」
「私も、楽しみにしています」
エルナがそう答えると、イネスは、もう一度頷いた。
詳しいことは、明日、四人で話せる場所へ着いてから尋ねたかった。
*
役所の前で二人の馬車を見送り、エルナはルークと通りへ出た。
荷を積んだ車が通っていく。道の端へ寄ると、車輪が石の継ぎ目を踏む音が、しばらく続いた。
「このあと、ギルドへ寄ろうか」
ルークが言った。
「帰りの便も、そろそろ見ておきたい」
「はい。どの道を通るかも、分かるといいですね」
「うん。出る日を決めるにも、どんな便があるか、聞いておこう」
エルナは、朝の手紙をしまった鞄へ目を落とした。
明朝には、また四人で会える。
そのあとの帰り道も、考えておきたかった。どこで馬車に乗れそうか、どれくらい旅費を残しておけばいいか。
「家の水場も、どうなっているでしょうね」
口にすると、山の小屋のそばで聞いていた水の音が、頭に浮かんだ。
窓を開けた時に見える木々も、朝、鞄を持って歩いた道も。
「帰ったら、見に行こう」
「はい」
ルークと並んで、通りを進む。
店先に、野菜を入れた籠が並んでいた。女の人が葉のついたものを持ち上げ、店の人と話している。
エルナは、今日見せてもらった図を思い出した。
あの畑にいた人も、今頃、作物を見ているだろうか。
柵は、ルークが手を貸して直したところに収まっていた。その向こうで、まだ元気に育っていた列は、どうなっているのだろう。
「グレンさんたちなら、あの村の名前も覚えているでしょうか」
「手紙を書く時に、聞いてみようか」
「はい。この病気の名前も、伝えておきたいです」
顔を上げると、ルークも頷いた。
前を歩いていた人が脇の店へ入り、その向こうに、ギルドの看板が見えた。
ルークがそちらを指す。
「行こうか」
「はい」
明日は、雨でも確かめられる。
昨夜、小さなカップの中で続いていた働きが、畑へ降る水にも使えるのか。
役所で見た、新しい雨の依頼を思い出した。
あの仕事にも、その次の仕事にも、自分が一緒に行けば、イネスの使う命は少なくなるかもしれない。
エルナはルークと角を曲がり、開いているギルドの戸へ向かった。
*
ギルドでは、帰る日が決まったら、同行できる商隊を改めて確かめてもらうことになった。
宿へ戻り、部屋の戸に鍵を掛けた。
エルナはフードと髪布を外し、腕輪も鞄へしまった。
寝台の端へ腰を下ろすと、ルークが卓へ水差しを運んでくる。
「ルーク。少し、相談してもいいですか」
「うん」
ルークは杯を二つ並べ、こちらへ顔を向けた。
「明日、雨でもうまくできたら……そのあとも、イネスさんとご一緒した方がいいんですよね」
「魔法を使う間を短くできるなら、助かると思う」
「はい。私も、お手伝いしたいです」
エルナは、膝の鞄へ目を落とした。
帰る便を尋ねながら、イネスが受け取った書付を思い出していた。
「でも、私、家にも帰りたいんです。そのあとも、イネスさんが雨を降らせるたびに命を使っていると思うと……」
言葉が続かなかった。
ルークは杯へ水を注いでから、エルナへ渡した。
「俺も、帰りたいよ」
エルナは顔を上げた。
「ただ、帰るまでにできることがあるなら、俺も手伝いたい。イネスさんは、このあと、どこへ行くんだろうな」
「まだ、決まってはいないんですよね。どのくらい水が足りないかも、これから確かめると……」
「うん。手伝うにしても、まずは、それを聞かないと」
エルナは頷いた。
イネスが見せてくれた書付を思い出した。雨を降らせたあと、池から水を回せるようになり、畑が持ち直しているという知らせだった。
池にも水が残りましたから。
その言葉を思い返し、エルナは顔を上げた。
「雨でもできるなら、池に、いつもより多く水を残しておけないでしょうか」
「一昨日の村みたいに、そこから使ってもらうのか」
「はい。私が帰ったあとも使える分を、残しておけたら。雨をお願いする回数も、少なくできるかもしれません」
ルークは、少し考えてから頷いた。
「どこに水を残せそうか、それも聞いてみよう。イネスさんなら、知っている場所もあるだろうし」
「はい。お二人に、相談してみたいです」
水が残っていれば、雨が降らない日にも、畑へ運んで使える。
イネスが次に魔法を使うまでの間を、少し長くできるかもしれない。
「うまくできたら、帰る前に、何日かお手伝いしたいです。ルークは、どうですか」
「俺も。どこへ行くのか聞いて、日程を考えよう」
エルナは頷いた。
イネスが何を望み、どこへ水を届けたいと思っているのかも、聞いておきたかった。
「明日、試す前に、帰るまでのことも相談してみます」
「うん。俺も、一緒に聞きたい」
ルークは自分の杯にも水を注ぎ、隣へ腰を下ろした。
エルナは一口飲んでから、膝に載せていた鞄を床へ下ろした。




