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雪の魔女は二度恋をする  作者: 冬灯
第7章 それぞれの魔女
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第126話 食卓で見つけたもの


 夕食の部屋へ案内されると、イネスが窓のそばで本を読んでいた。

 こちらに気づいて本を閉じ、椅子から立ち上がる。


「今日は、ご一緒できて嬉しいです」


「私もです」


 ヴィオラに席を勧められ、エルナはルークと並んで腰を下ろした。

 卓にはパンと、焼いた肉を薄く切った皿がある。蓋付きの深い鉢が運ばれてくると、野菜の甘い匂いが広がった。

 茶のポットと水差しも揃い、ヴィオラが食事を運んできた人へ礼を言った。


「あとは、こちらで取り分けるわ」


 一礼して出ていく姿を見送る。

 廊下には護衛が控えていたが、部屋の中には四人だけが残った。


「誰か来る時は、戸を叩いてもらうから。楽にしていて」


「ありがとうございます」


 エルナはフードを下ろし、髪を包んでいた布をほどいた。腕輪も外して、鞄へ収める。

 ヴィオラが鉢の蓋を取り、スープを分けてくれた。


「二人とも、これが気になったそうなの」


「スープですか?」


 イネスに尋ねられ、エルナは頷いた。


「今日、お薬を届けた方が、食べたいとおっしゃって。温め直すのをお手伝いしていたら、私も気になってしまって」


「俺も、パンを浸して食べるって聞いて、食べたくなりました」


「それくらい、楽になられたんですね」


「ええ。少しずつ食べられそうだったわ」


 ヴィオラが答え、パンの籠を寄せた。

 エルナも一切れ取り、まずはスープを口へ運ぶ。柔らかく煮えた野菜に、肉の旨みが染みていた。


「おいしいです」


 隣では、ルークがもうパンを浸している。

 エルナも同じようにして食べてみた。スープを吸ったところが柔らかく、つい、もう一口食べたくなる。


「エルナも、山ではこういうものを作るの?」


 ヴィオラに聞かれ、エルナは頷いた。


「はい。塩と香草で味をつけることが多いです。前に、ルークに教えてもらって、油を足したこともあります」


「二人で作るのね」


「あの時は、エルナが作って、俺は口を出していただけですよ」


「もう少しって言われて、香草も足したんです。いつもと違う味になって、おいしかったんですけど」


「けど?」


「最初に、変なものは入れないか聞いたら、たぶんって」


 ヴィオラが笑った。

 ルークも、パンを持つ手を止めてこちらを見る。


「ちゃんと、入れないって言い直しただろ」


「はい。でも、少し気になりました」


「それは、私も気になるわ」


 向かいで、イネスも笑っていた。

 エルナはもう一口スープを飲んだ。あの時には真面目に聞いたのに、人に話すと少しおかしい。


 食べる時に前へ落ちてきた髪を、肩の後ろへ寄せる。

 ヴィオラが、その白銀の髪へ目を留めた。


「髪飾りのお店、気に入ったものはあった?」


「綺麗なものが沢山あって、見ているだけでも楽しかったです。また、覗いてみたくて」


「今度、一緒に行きましょう。私も見たいわ」


「はい。……服のお店も、見ていらっしゃるんですか」


「ええ。そちらも好きよ」


 エルナは、ヴィオラのドレスへ目を向けた。

 黒い布が肩から腰へ沿い、浅く開いた襟元から、鎖骨が少し見えている。


「その襟元も、綺麗ですね」


「私も、ここが気に入っているの」


 ヴィオラは襟の縁へ指を添えた。


「少し開いている方が、首が綺麗に見えるでしょう。髪を上げた時の形も好きなのよ」


「仕事の時にも、似合っていました」


「そう? 嬉しいわ」


 ヴィオラの顔がほころんだ。


「服を見に行く日は、本のお店にも寄りませんか」


 イネスが言った。

 ヴィオラは、椅子のそばに置かれた本を見る。


「次を探すの? それは、もう読み終わりそう?」


「まだ少しあります。妹の居場所が分かりそうなところなんですが……」


「そこで閉じられたのね」


「続きを読んだら、夕食のことを忘れてしまいそうで」


 少し困ったようなイネスの答えに、エルナも笑った。


「どんなお話なんですか」


「離ればなれになった家族を探すお話です。やっと妹を知っている人に会えたんですが、その人が……」


「あの、そこから先は、まだ聞かないでおきたいです。私も読んでみたくなったので」


 イネスは口を閉じ、それから微笑んだ。


「では、読み終わったらお貸ししますね」


「ありがとうございます。楽しみです」


 イネスは椅子のそばから本を取り、表紙を見せてくれた。

 エルナはそこに書かれた題を読み、最初の頁だけ開かせてもらう。イネスが挟んだ紙の端が、少し先に見えた。


「人の名前が増えたところに、挟んであるんです。戻って読む時に、探さなくていいように」


「お借りする時は、そのままにしてもらってもいいですか」


「ええ。もちろんです」


 エルナは本を返した。

 イネスは傍らへ置き直し、カップを取る。一口飲んで、少し中を見下ろした。


「話していたら、冷ましてしまいました」


「本を読んでいる時も、そうなんですか?」


 ルークに尋ねられ、イネスが頷いた。


「気づいたら、ということが多いですね。飲むつもりで、そばへ置くんですが」


 エルナも、自分の茶を一口飲んだ。

 もう湯気は立っていなかった。温かいまま残せたことを思い出し、カップを戻す。


「イネスさんにも、ご相談したいことがあるんです。一昨日、ヴィオラさんに見ていただいた力のことで」


「力、ですか」


「はい。私の魔法は熱を動かすものなんですが、それとは別の手応えで、湯の温かさや水の冷たさを残せたことがあって。靴の底が、地面から離れなくなったこともあるんです」


 エルナは、錬金術師の友人ニーナと、定着と呼んでみようと話したことを伝えた。


「その時の状態を保っているのかもしれないと。でも、熱を動かす時のように、魔力を使っていく感じがないんです」


「……魔力を、使わずに?」


「はい。前に確かめた時には、命紋の線も増えていませんでした」


 イネスが、カップを置いた。

 ヴィオラも、こちらを見る。


「私は、カップの中にお茶が留まるところを見せてもらったわ。器を傾けても、こぼれなかったの」


「中身が、器と一緒についてくるんです。エルナが手を離して、俺が傾けても」


 ルークが話すと、イネスはしばらく考えるように黙っていた。


「私が水を生む時には、使っていくのが分かります。それが、ないんですね」


「私も、あの時には感じなかったわ。命を使わずに魔法を扱ったという記録も、これまで見つけたことがないの。だから、別の力なのかもしれないと話したのよ」


 ヴィオラの言葉に、イネスが頷いた。


「見せてもらっても、いいですか」


「はい。私も、まだ分からないことを、もう少し確かめてみたくて。その前に、今の命紋も見ておきたいんです」


 イネスが、隣の小部屋を使ってよいと教えてくれた。

 エルナは一人で入り、戸を閉める。襟元を緩め、左胸の線を目で辿った。

 細い線の先を覚え、服を戻してから食卓へ帰った。


     *


 エルナは、少し残っていた自分のスープを寄せた。


「お茶を器に留めた時は、中身が動かなくなりました。でも、流れているところを保とうとしたら、どうなるんでしょう」


 匙を入れ、ゆっくり一方向へかき混ぜる。

 細かな葉が、器の縁に沿って回り始めた。


 この流れが、続くように。


 そう意識すると、小さな手応えがあった。

 エルナは匙を抜いた。


 葉は、同じ向きへ回っていた。

 エルナは匙を脇へ置き、しばらく見守った。いつもなら、かき混ぜるのをやめれば、流れも次第に弱まっていく。

 けれど、器の縁を巡る葉の速さは変わらなかった。

 一周しても、もう一周しても、同じところを同じ調子で通り過ぎていく。


「……遅くならないんです」


 エルナの声に、ヴィオラが身を寄せた。

 イネスも器の中を覗き込む。三人で見ている間も、流れは緩まなかった。


「かき混ぜている時と、同じね」


 ヴィオラは脇に置かれた匙へ目をやり、もう一度、回る葉を見た。

 イネスが、エルナへ顔を向ける。


「今も、こうして流れるようにと思っているんですか」


「いいえ。使った時だけです。もう、何もしていません」


 エルナはイネスへ顔を向けた。熱を動かしている時のように、自分の中から力が減っていく感覚はなかった。

 イネスがその説明を聞いている間にも、葉は回っていた。


「流れを残そうとしたから、今度はこうなったのかしら」


「一昨日は、カップの中の同じところに留まるように、と思いました」


「残しておきたいものを、選べるのね」


 ヴィオラは、匙の置かれたところと器を見比べた。

 ルークも、回る葉を目で追っていたが、やがてエルナへ顔を向けた。


「靴を留めた時は、身体の方は動いたよな」


「はい。靴の底だけ、地面から離れなくなりました」


「身体の方を留めたら、どうなるんだろう。もっと大きいものでも、同じようにできるのかな」


 エルナはルークを見た。

 熊の前脚が、地面から上がらなくなった時のことを思い出す。


「熊の前脚には、使えました。でも、人の身体全体には、使ったことがなくて」


「座っている俺なら、試せるかな。椅子がなくても、このまま座っていられるか」


 ルークは、自分の腰掛けている椅子を見下ろした。

 エルナもその下を見た。椅子がなくなれば、普通なら床へ落ちてしまう。


「全部抜く前に、少しずつ引いてみよう。足も、床につけておくから」


「……少しずつ、ですからね」


「うん」


 器の中の葉が、先ほどよりゆっくり回っていた。

 エルナはその動きを見届けた。やがて流れが収まり、葉が縁の近くで動かなくなる。


「こちらは、解けたみたいです」


 匙を器へ戻してから、ルークへ向き直った。

 彼は両足を床につけ、椅子へ楽に腰を下ろし直している。


 エルナは、床と彼の身体の位置を見た。

 楽に座っている、その姿が保たれるように。


 小さな手応えを感じてから、声を掛けた。


「使いました」


 ヴィオラが椅子の背へ手を掛け、少し引いた。


「どうかしら」


「椅子が動いたのは、わかります。でも、座っている感じは変わらないです」


「脚で支えていますか」


 エルナが尋ねると、ルークは首を横に振った。


「いや。力を入れなくても平気」


 ヴィオラが、もう少し椅子を引く。

 座面が腰の下から外れても、ルークの身体は下がらなかった。


 エルナは横へ回った。

 腰の下にも、背中にも、支えるものがない。それなのに、ルークは椅子へ座っていた時と同じ姿勢でいる。


「……本当に、椅子がありませんね」


「うん。見たら、俺も変な感じがしてきた」


 ルークは自分の腰の下を見て、それからエルナへ顔を向けた。


「苦しくはないですか」


「全然。普通に座ってる時と、同じなんだけど」


 少し困ったように笑われ、エルナも笑ってしまった。

 これだけ大きな身体でも、使った時の小さな手応えがあっただけだった。


「椅子は、戻してもらっていいですか。座面がある方が、落ち着きます」


「ええ」


 ヴィオラが椅子を戻す。

 ルークは立とうとしたが、腰が上がらないと分かると、力を抜いた。


「まだ、ここは留まってるな」


 卓へ伸ばした手は、普通に動いていた。

 ルークは残っていたパンを取り、エルナを見る。


「手は動くし、こうして食べられるのに」


「座っている姿を、残したいと思ったんです。全部が動かなくなるようには、考えていなくて」


 エルナも隣の椅子へ戻った。

 イネスが、ルークの足元からエルナへ目を移す。


「大きさが違っても、使う時の感覚は同じなんですね」


「はい。今のところは、同じです」


「流れも、座っている姿も……」


 ヴィオラは、スープの器へ目を向けた。


「かき混ぜるのをやめても流れ続けて、椅子を抜いても座っていられる。魔法で何かが起きている時にも、同じようにできるのかしら」


「魔法を使っているところを、保つんですか」


「ええ。生まれたものだけでなく、生んでいる働きにも使えるのかと思って。イネスが、水を少しずつ増やしているところなら、見て分かるでしょう」


 イネスは卓の上のカップを見た。


「このくらいの器でも、水は増やせます。魔法をやめたらどうなるか、私も見てみたいです」


「私も、やってみたいです」


 エルナが答えた時、ルークが身体を起こした。

 今度は、腰が座面から離れる。


「あ、立てる」


 ルークは立ち上がってから、椅子を寄せ直した。


「水を受けるものも、あった方がいいですね」


 空になった取り分け鉢を寄せると、イネスが飲み終えたカップを差し出した。

 ルークはそれを鉢の中へ置き、自分の席へ戻った。

 イネスはカップの底を見つめた。

 やがて、そこに薄く水が溜まり始めた。


 彼女の魔力が使われている。

 昨日、雨が降っている間にも感じていた動きだった。


「少しずつ、生んでいます。合図をもらったら、魔法をやめますね」


「はい」


 エルナはカップの中を見た。

 今、ここで水が生まれている。

 この働きが、続くように。


 小さな手応えがあった。


「使いました」


 イネスが頷く。

 彼女から魔力が使われる動きが、収まった。


 けれど、水面は上がっていた。


 エルナはカップを見つめた。

 底の方にあった水が、内側を少しずつ満たしていく。


「今は、もう魔力を使っていません」


 イネスの声を聞いても、誰もすぐには答えなかった。

 ルークが、カップの内側へ指を向ける。


「さっきは、このあたりでした」


 指された高さより、水面は上にあった。

 エルナも、自分の中の感覚を確かめた。いつもの魔法のように、力が減っていく感じはない。


「エルナ。あなたは、どう?」


「私も、魔力を使っていく感じはありません」


「あなたからも、魔法を使う時のような動きは感じませんね」


 イネスが静かに言った。

 ヴィオラは、水面から目を離さなかった。


「イネスが生んだ水を残しているだけなら、これ以上は増えないはずよね」


「はい」


「水が生まれる、その働きの方が続いているのね。魔法を使っている本人が、やめたあとにも」


 エルナは、スープが回り続けていたところを思い出した。

 今度は、魔法で水が生まれている。

 イネスの力が使われなくなったあとも、この小さな器の中で。


「雨でも、できるでしょうか」


 イネスがエルナを見た。


「畑へ降らせている間も、同じように保っておけるなら……」


 そこで言葉を切り、もう一度、水を見た。


「ずっと、命を使い続けなくても済むかもしれないんですね」


 昨日の畑が、エルナの頭に浮かんだ。

 雨が上がったあと、イネスは腰を下ろして水を飲んでいた。そのあと、少し休んでから、土を見たいと立ち上がった。

 あの雨を、イネスが力を使い続けずに降らせておけたら。


「……私も、確かめてみたいです」


「はい。できるなら、嬉しいです」


 イネスはそう答え、しばらくカップを見ていた。

 エルナも、そのそばで見ていた。


 水は半分ほどまで増えたところで、それ以上は高くならなくなった。

 イネスが、もう少し待ってからカップを持ち上げる。

 水面が揺れた。生まれた水は、そのまま中に残っていた。


「止まったようですね」


「ええ」


 ヴィオラはカップを受け取り、中を見た。


「温かさを保つだけでも不思議だったけれど、他の人の魔法が働いているところまで、残せるなんて」


 エルナは、カップからヴィオラへ目を戻した。


「私も、こんなふうに使えるとは、思っていませんでした」


「さっきは、水の何を保ちたいと思ったの?」


「イネスさんが水を生んでいる、その働きです。それが続くように、と」


 ヴィオラは頷き、もう一度カップへ目を落とした。

 エルナも、残った水を見た。


「ほかにも、試してみたくなりました」


「私もよ。でも、先に、あなた自身のことを確かめましょうか」


「はい。命紋も、見てきます」


 エルナは席を立った。

 続けて使ったが、身体が重くなることも、力が減った感じもなかった。

 先ほどの小部屋を借り、襟元を緩める。

 覚えておいた線を、端まで目で追った。


 増えていない。

 試す前と同じところで、細い線は終わっていた。


 服を直して戻ると、ルークが顔を上げた。


「どうだった?」


「変わっていませんでした。疲れた感じも、ありません」


「そっか」


 ルークの声を聞き、エルナもほっとした。

 イネスが小さく息をつき、ヴィオラはカップを鉢へ戻す。


「薬にも、使い道があるのかもしれないわね」


「お薬にも、ですか」


「効き目を保っておけるのか、薬で痛みが治まった、その楽な状態を保てるのか。そこも、聞いてみたくなったの」


 エルナは、一昨日作った手の傷の薬を思い出した。

 痛みで眠れない人が、夜を休めるようにと、ヴィオラが作っていた薬だった。


「私も、知りたいです。そこまでは、まだ試したことがないんですけど」


「ええ。また、相談させてね」


 イネスは、雨でも試せる場所を考えてみますと言った。

 エルナも、ぜひご一緒したいと答えた。


 帰る支度を始めると、イネスが本を取り上げた。

 エルナはその表紙を見て、食事の時の話を思い出す。


「このあと、続きを読まれるんですか」


「少しだけ。妹に会えるところまでは、読みたいですね」


 イネスが答え、ヴィオラが口元を緩めた。

 エルナも笑い、鞄から髪布を取り出す。


「お借りできる時を、楽しみにしています」


「ええ。読み終わったら、お知らせしますね」


「お店を見に行く時も、声を掛けてね。今日は、あの髪飾りのお店が気になってしまったわ」


 ヴィオラの言葉に、エルナは顔を上げた。


「はい。ご一緒したいです」


 夕食の礼を言ってから、髪を布で包み直した。

 腕輪を戻し、フードをかぶって、ルークと部屋を出る。


     *


 宿へ戻り、部屋の戸を閉めると、エルナはフードと髪布を外した。

 腕輪をしまい、鞄を下ろす。

 ルークは上着を自分の寝台の端へ置き、宿で汲ませてもらった水を卓へ運んだ。


「飲む?」


「はい。ありがとうございます」


 注いでもらった水を一口飲む。

 少し冷たくて、喉が気持ちよかった。

 エルナは水差しの中を見た。

 この冷たさを、残しておく。


 小さな手応えがあった。

 顔を上げると、ルークがこちらを見ている。


「今、使った?」


「はい。冷たいまま、飲めたらと思って」


「あの荷馬車の時も、冷たかったよな」


「はい。あとで飲んでも、おいしかったです」


 エルナは杯を持ち、自分の寝台の端へ腰を下ろした。

 ルークも水を注いで、その隣へ座る。


「今日は、随分いろいろ試したな」


「はい。椅子を抜いた時は、私まで不思議な感じがしました」


「見てる方は、どんな感じだった?」


「座っている姿は、いつもと同じでした。でも、自分の下を覗いていたでしょう」


「うん。何もないんだなと思って」


「その時の顔が、少しおかしくて」


「それで笑ってたのか」


 エルナは頷いた。思い出すと、また口元が緩んでしまう。

 ルークも笑い、足を楽に伸ばした。

 エルナは肩の力を抜いて、水を飲む。


「また、四人で食事をしたいです」


「うん。俺も、楽しかった」


「本のお店も、どんなところへ行かれるんでしょうね」


「見て回ると、長くなりそうだな」


「はい。どちらのお店も、見てみたいです」


 どんな服を見つけると、ヴィオラは足を止めるのだろう。

 イネスは、どんな題の本に手を伸ばすのだろう。

 並んで店を覗いているところを思い浮かべると、エルナも出かけたくなった。


 杯が空になり、卓へ戻ってもう一度注ぐ。

 ルークの杯にも足してから、また隣へ座った。

 飲み直した水は、さっきと同じ冷たさだった。




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