第126話 食卓で見つけたもの
夕食の部屋へ案内されると、イネスが窓のそばで本を読んでいた。
こちらに気づいて本を閉じ、椅子から立ち上がる。
「今日は、ご一緒できて嬉しいです」
「私もです」
ヴィオラに席を勧められ、エルナはルークと並んで腰を下ろした。
卓にはパンと、焼いた肉を薄く切った皿がある。蓋付きの深い鉢が運ばれてくると、野菜の甘い匂いが広がった。
茶のポットと水差しも揃い、ヴィオラが食事を運んできた人へ礼を言った。
「あとは、こちらで取り分けるわ」
一礼して出ていく姿を見送る。
廊下には護衛が控えていたが、部屋の中には四人だけが残った。
「誰か来る時は、戸を叩いてもらうから。楽にしていて」
「ありがとうございます」
エルナはフードを下ろし、髪を包んでいた布をほどいた。腕輪も外して、鞄へ収める。
ヴィオラが鉢の蓋を取り、スープを分けてくれた。
「二人とも、これが気になったそうなの」
「スープですか?」
イネスに尋ねられ、エルナは頷いた。
「今日、お薬を届けた方が、食べたいとおっしゃって。温め直すのをお手伝いしていたら、私も気になってしまって」
「俺も、パンを浸して食べるって聞いて、食べたくなりました」
「それくらい、楽になられたんですね」
「ええ。少しずつ食べられそうだったわ」
ヴィオラが答え、パンの籠を寄せた。
エルナも一切れ取り、まずはスープを口へ運ぶ。柔らかく煮えた野菜に、肉の旨みが染みていた。
「おいしいです」
隣では、ルークがもうパンを浸している。
エルナも同じようにして食べてみた。スープを吸ったところが柔らかく、つい、もう一口食べたくなる。
「エルナも、山ではこういうものを作るの?」
ヴィオラに聞かれ、エルナは頷いた。
「はい。塩と香草で味をつけることが多いです。前に、ルークに教えてもらって、油を足したこともあります」
「二人で作るのね」
「あの時は、エルナが作って、俺は口を出していただけですよ」
「もう少しって言われて、香草も足したんです。いつもと違う味になって、おいしかったんですけど」
「けど?」
「最初に、変なものは入れないか聞いたら、たぶんって」
ヴィオラが笑った。
ルークも、パンを持つ手を止めてこちらを見る。
「ちゃんと、入れないって言い直しただろ」
「はい。でも、少し気になりました」
「それは、私も気になるわ」
向かいで、イネスも笑っていた。
エルナはもう一口スープを飲んだ。あの時には真面目に聞いたのに、人に話すと少しおかしい。
食べる時に前へ落ちてきた髪を、肩の後ろへ寄せる。
ヴィオラが、その白銀の髪へ目を留めた。
「髪飾りのお店、気に入ったものはあった?」
「綺麗なものが沢山あって、見ているだけでも楽しかったです。また、覗いてみたくて」
「今度、一緒に行きましょう。私も見たいわ」
「はい。……服のお店も、見ていらっしゃるんですか」
「ええ。そちらも好きよ」
エルナは、ヴィオラのドレスへ目を向けた。
黒い布が肩から腰へ沿い、浅く開いた襟元から、鎖骨が少し見えている。
「その襟元も、綺麗ですね」
「私も、ここが気に入っているの」
ヴィオラは襟の縁へ指を添えた。
「少し開いている方が、首が綺麗に見えるでしょう。髪を上げた時の形も好きなのよ」
「仕事の時にも、似合っていました」
「そう? 嬉しいわ」
ヴィオラの顔がほころんだ。
「服を見に行く日は、本のお店にも寄りませんか」
イネスが言った。
ヴィオラは、椅子のそばに置かれた本を見る。
「次を探すの? それは、もう読み終わりそう?」
「まだ少しあります。妹の居場所が分かりそうなところなんですが……」
「そこで閉じられたのね」
「続きを読んだら、夕食のことを忘れてしまいそうで」
少し困ったようなイネスの答えに、エルナも笑った。
「どんなお話なんですか」
「離ればなれになった家族を探すお話です。やっと妹を知っている人に会えたんですが、その人が……」
「あの、そこから先は、まだ聞かないでおきたいです。私も読んでみたくなったので」
イネスは口を閉じ、それから微笑んだ。
「では、読み終わったらお貸ししますね」
「ありがとうございます。楽しみです」
イネスは椅子のそばから本を取り、表紙を見せてくれた。
エルナはそこに書かれた題を読み、最初の頁だけ開かせてもらう。イネスが挟んだ紙の端が、少し先に見えた。
「人の名前が増えたところに、挟んであるんです。戻って読む時に、探さなくていいように」
「お借りする時は、そのままにしてもらってもいいですか」
「ええ。もちろんです」
エルナは本を返した。
イネスは傍らへ置き直し、カップを取る。一口飲んで、少し中を見下ろした。
「話していたら、冷ましてしまいました」
「本を読んでいる時も、そうなんですか?」
ルークに尋ねられ、イネスが頷いた。
「気づいたら、ということが多いですね。飲むつもりで、そばへ置くんですが」
エルナも、自分の茶を一口飲んだ。
もう湯気は立っていなかった。温かいまま残せたことを思い出し、カップを戻す。
「イネスさんにも、ご相談したいことがあるんです。一昨日、ヴィオラさんに見ていただいた力のことで」
「力、ですか」
「はい。私の魔法は熱を動かすものなんですが、それとは別の手応えで、湯の温かさや水の冷たさを残せたことがあって。靴の底が、地面から離れなくなったこともあるんです」
エルナは、錬金術師の友人ニーナと、定着と呼んでみようと話したことを伝えた。
「その時の状態を保っているのかもしれないと。でも、熱を動かす時のように、魔力を使っていく感じがないんです」
「……魔力を、使わずに?」
「はい。前に確かめた時には、命紋の線も増えていませんでした」
イネスが、カップを置いた。
ヴィオラも、こちらを見る。
「私は、カップの中にお茶が留まるところを見せてもらったわ。器を傾けても、こぼれなかったの」
「中身が、器と一緒についてくるんです。エルナが手を離して、俺が傾けても」
ルークが話すと、イネスはしばらく考えるように黙っていた。
「私が水を生む時には、使っていくのが分かります。それが、ないんですね」
「私も、あの時には感じなかったわ。命を使わずに魔法を扱ったという記録も、これまで見つけたことがないの。だから、別の力なのかもしれないと話したのよ」
ヴィオラの言葉に、イネスが頷いた。
「見せてもらっても、いいですか」
「はい。私も、まだ分からないことを、もう少し確かめてみたくて。その前に、今の命紋も見ておきたいんです」
イネスが、隣の小部屋を使ってよいと教えてくれた。
エルナは一人で入り、戸を閉める。襟元を緩め、左胸の線を目で辿った。
細い線の先を覚え、服を戻してから食卓へ帰った。
*
エルナは、少し残っていた自分のスープを寄せた。
「お茶を器に留めた時は、中身が動かなくなりました。でも、流れているところを保とうとしたら、どうなるんでしょう」
匙を入れ、ゆっくり一方向へかき混ぜる。
細かな葉が、器の縁に沿って回り始めた。
この流れが、続くように。
そう意識すると、小さな手応えがあった。
エルナは匙を抜いた。
葉は、同じ向きへ回っていた。
エルナは匙を脇へ置き、しばらく見守った。いつもなら、かき混ぜるのをやめれば、流れも次第に弱まっていく。
けれど、器の縁を巡る葉の速さは変わらなかった。
一周しても、もう一周しても、同じところを同じ調子で通り過ぎていく。
「……遅くならないんです」
エルナの声に、ヴィオラが身を寄せた。
イネスも器の中を覗き込む。三人で見ている間も、流れは緩まなかった。
「かき混ぜている時と、同じね」
ヴィオラは脇に置かれた匙へ目をやり、もう一度、回る葉を見た。
イネスが、エルナへ顔を向ける。
「今も、こうして流れるようにと思っているんですか」
「いいえ。使った時だけです。もう、何もしていません」
エルナはイネスへ顔を向けた。熱を動かしている時のように、自分の中から力が減っていく感覚はなかった。
イネスがその説明を聞いている間にも、葉は回っていた。
「流れを残そうとしたから、今度はこうなったのかしら」
「一昨日は、カップの中の同じところに留まるように、と思いました」
「残しておきたいものを、選べるのね」
ヴィオラは、匙の置かれたところと器を見比べた。
ルークも、回る葉を目で追っていたが、やがてエルナへ顔を向けた。
「靴を留めた時は、身体の方は動いたよな」
「はい。靴の底だけ、地面から離れなくなりました」
「身体の方を留めたら、どうなるんだろう。もっと大きいものでも、同じようにできるのかな」
エルナはルークを見た。
熊の前脚が、地面から上がらなくなった時のことを思い出す。
「熊の前脚には、使えました。でも、人の身体全体には、使ったことがなくて」
「座っている俺なら、試せるかな。椅子がなくても、このまま座っていられるか」
ルークは、自分の腰掛けている椅子を見下ろした。
エルナもその下を見た。椅子がなくなれば、普通なら床へ落ちてしまう。
「全部抜く前に、少しずつ引いてみよう。足も、床につけておくから」
「……少しずつ、ですからね」
「うん」
器の中の葉が、先ほどよりゆっくり回っていた。
エルナはその動きを見届けた。やがて流れが収まり、葉が縁の近くで動かなくなる。
「こちらは、解けたみたいです」
匙を器へ戻してから、ルークへ向き直った。
彼は両足を床につけ、椅子へ楽に腰を下ろし直している。
エルナは、床と彼の身体の位置を見た。
楽に座っている、その姿が保たれるように。
小さな手応えを感じてから、声を掛けた。
「使いました」
ヴィオラが椅子の背へ手を掛け、少し引いた。
「どうかしら」
「椅子が動いたのは、わかります。でも、座っている感じは変わらないです」
「脚で支えていますか」
エルナが尋ねると、ルークは首を横に振った。
「いや。力を入れなくても平気」
ヴィオラが、もう少し椅子を引く。
座面が腰の下から外れても、ルークの身体は下がらなかった。
エルナは横へ回った。
腰の下にも、背中にも、支えるものがない。それなのに、ルークは椅子へ座っていた時と同じ姿勢でいる。
「……本当に、椅子がありませんね」
「うん。見たら、俺も変な感じがしてきた」
ルークは自分の腰の下を見て、それからエルナへ顔を向けた。
「苦しくはないですか」
「全然。普通に座ってる時と、同じなんだけど」
少し困ったように笑われ、エルナも笑ってしまった。
これだけ大きな身体でも、使った時の小さな手応えがあっただけだった。
「椅子は、戻してもらっていいですか。座面がある方が、落ち着きます」
「ええ」
ヴィオラが椅子を戻す。
ルークは立とうとしたが、腰が上がらないと分かると、力を抜いた。
「まだ、ここは留まってるな」
卓へ伸ばした手は、普通に動いていた。
ルークは残っていたパンを取り、エルナを見る。
「手は動くし、こうして食べられるのに」
「座っている姿を、残したいと思ったんです。全部が動かなくなるようには、考えていなくて」
エルナも隣の椅子へ戻った。
イネスが、ルークの足元からエルナへ目を移す。
「大きさが違っても、使う時の感覚は同じなんですね」
「はい。今のところは、同じです」
「流れも、座っている姿も……」
ヴィオラは、スープの器へ目を向けた。
「かき混ぜるのをやめても流れ続けて、椅子を抜いても座っていられる。魔法で何かが起きている時にも、同じようにできるのかしら」
「魔法を使っているところを、保つんですか」
「ええ。生まれたものだけでなく、生んでいる働きにも使えるのかと思って。イネスが、水を少しずつ増やしているところなら、見て分かるでしょう」
イネスは卓の上のカップを見た。
「このくらいの器でも、水は増やせます。魔法をやめたらどうなるか、私も見てみたいです」
「私も、やってみたいです」
エルナが答えた時、ルークが身体を起こした。
今度は、腰が座面から離れる。
「あ、立てる」
ルークは立ち上がってから、椅子を寄せ直した。
「水を受けるものも、あった方がいいですね」
空になった取り分け鉢を寄せると、イネスが飲み終えたカップを差し出した。
ルークはそれを鉢の中へ置き、自分の席へ戻った。
イネスはカップの底を見つめた。
やがて、そこに薄く水が溜まり始めた。
彼女の魔力が使われている。
昨日、雨が降っている間にも感じていた動きだった。
「少しずつ、生んでいます。合図をもらったら、魔法をやめますね」
「はい」
エルナはカップの中を見た。
今、ここで水が生まれている。
この働きが、続くように。
小さな手応えがあった。
「使いました」
イネスが頷く。
彼女から魔力が使われる動きが、収まった。
けれど、水面は上がっていた。
エルナはカップを見つめた。
底の方にあった水が、内側を少しずつ満たしていく。
「今は、もう魔力を使っていません」
イネスの声を聞いても、誰もすぐには答えなかった。
ルークが、カップの内側へ指を向ける。
「さっきは、このあたりでした」
指された高さより、水面は上にあった。
エルナも、自分の中の感覚を確かめた。いつもの魔法のように、力が減っていく感じはない。
「エルナ。あなたは、どう?」
「私も、魔力を使っていく感じはありません」
「あなたからも、魔法を使う時のような動きは感じませんね」
イネスが静かに言った。
ヴィオラは、水面から目を離さなかった。
「イネスが生んだ水を残しているだけなら、これ以上は増えないはずよね」
「はい」
「水が生まれる、その働きの方が続いているのね。魔法を使っている本人が、やめたあとにも」
エルナは、スープが回り続けていたところを思い出した。
今度は、魔法で水が生まれている。
イネスの力が使われなくなったあとも、この小さな器の中で。
「雨でも、できるでしょうか」
イネスがエルナを見た。
「畑へ降らせている間も、同じように保っておけるなら……」
そこで言葉を切り、もう一度、水を見た。
「ずっと、命を使い続けなくても済むかもしれないんですね」
昨日の畑が、エルナの頭に浮かんだ。
雨が上がったあと、イネスは腰を下ろして水を飲んでいた。そのあと、少し休んでから、土を見たいと立ち上がった。
あの雨を、イネスが力を使い続けずに降らせておけたら。
「……私も、確かめてみたいです」
「はい。できるなら、嬉しいです」
イネスはそう答え、しばらくカップを見ていた。
エルナも、そのそばで見ていた。
水は半分ほどまで増えたところで、それ以上は高くならなくなった。
イネスが、もう少し待ってからカップを持ち上げる。
水面が揺れた。生まれた水は、そのまま中に残っていた。
「止まったようですね」
「ええ」
ヴィオラはカップを受け取り、中を見た。
「温かさを保つだけでも不思議だったけれど、他の人の魔法が働いているところまで、残せるなんて」
エルナは、カップからヴィオラへ目を戻した。
「私も、こんなふうに使えるとは、思っていませんでした」
「さっきは、水の何を保ちたいと思ったの?」
「イネスさんが水を生んでいる、その働きです。それが続くように、と」
ヴィオラは頷き、もう一度カップへ目を落とした。
エルナも、残った水を見た。
「ほかにも、試してみたくなりました」
「私もよ。でも、先に、あなた自身のことを確かめましょうか」
「はい。命紋も、見てきます」
エルナは席を立った。
続けて使ったが、身体が重くなることも、力が減った感じもなかった。
先ほどの小部屋を借り、襟元を緩める。
覚えておいた線を、端まで目で追った。
増えていない。
試す前と同じところで、細い線は終わっていた。
服を直して戻ると、ルークが顔を上げた。
「どうだった?」
「変わっていませんでした。疲れた感じも、ありません」
「そっか」
ルークの声を聞き、エルナもほっとした。
イネスが小さく息をつき、ヴィオラはカップを鉢へ戻す。
「薬にも、使い道があるのかもしれないわね」
「お薬にも、ですか」
「効き目を保っておけるのか、薬で痛みが治まった、その楽な状態を保てるのか。そこも、聞いてみたくなったの」
エルナは、一昨日作った手の傷の薬を思い出した。
痛みで眠れない人が、夜を休めるようにと、ヴィオラが作っていた薬だった。
「私も、知りたいです。そこまでは、まだ試したことがないんですけど」
「ええ。また、相談させてね」
イネスは、雨でも試せる場所を考えてみますと言った。
エルナも、ぜひご一緒したいと答えた。
帰る支度を始めると、イネスが本を取り上げた。
エルナはその表紙を見て、食事の時の話を思い出す。
「このあと、続きを読まれるんですか」
「少しだけ。妹に会えるところまでは、読みたいですね」
イネスが答え、ヴィオラが口元を緩めた。
エルナも笑い、鞄から髪布を取り出す。
「お借りできる時を、楽しみにしています」
「ええ。読み終わったら、お知らせしますね」
「お店を見に行く時も、声を掛けてね。今日は、あの髪飾りのお店が気になってしまったわ」
ヴィオラの言葉に、エルナは顔を上げた。
「はい。ご一緒したいです」
夕食の礼を言ってから、髪を布で包み直した。
腕輪を戻し、フードをかぶって、ルークと部屋を出る。
*
宿へ戻り、部屋の戸を閉めると、エルナはフードと髪布を外した。
腕輪をしまい、鞄を下ろす。
ルークは上着を自分の寝台の端へ置き、宿で汲ませてもらった水を卓へ運んだ。
「飲む?」
「はい。ありがとうございます」
注いでもらった水を一口飲む。
少し冷たくて、喉が気持ちよかった。
エルナは水差しの中を見た。
この冷たさを、残しておく。
小さな手応えがあった。
顔を上げると、ルークがこちらを見ている。
「今、使った?」
「はい。冷たいまま、飲めたらと思って」
「あの荷馬車の時も、冷たかったよな」
「はい。あとで飲んでも、おいしかったです」
エルナは杯を持ち、自分の寝台の端へ腰を下ろした。
ルークも水を注いで、その隣へ座る。
「今日は、随分いろいろ試したな」
「はい。椅子を抜いた時は、私まで不思議な感じがしました」
「見てる方は、どんな感じだった?」
「座っている姿は、いつもと同じでした。でも、自分の下を覗いていたでしょう」
「うん。何もないんだなと思って」
「その時の顔が、少しおかしくて」
「それで笑ってたのか」
エルナは頷いた。思い出すと、また口元が緩んでしまう。
ルークも笑い、足を楽に伸ばした。
エルナは肩の力を抜いて、水を飲む。
「また、四人で食事をしたいです」
「うん。俺も、楽しかった」
「本のお店も、どんなところへ行かれるんでしょうね」
「見て回ると、長くなりそうだな」
「はい。どちらのお店も、見てみたいです」
どんな服を見つけると、ヴィオラは足を止めるのだろう。
イネスは、どんな題の本に手を伸ばすのだろう。
並んで店を覗いているところを思い浮かべると、エルナも出かけたくなった。
杯が空になり、卓へ戻ってもう一度注ぐ。
ルークの杯にも足してから、また隣へ座った。
飲み直した水は、さっきと同じ冷たさだった。




