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雪の魔女は二度恋をする  作者: 冬灯
第7章 それぞれの魔女
116/128

第116話 いつもの道で


「今日は、ここまでにしようか」


 ルークが棒を下ろすと、ラルフは両足を揃えた。


「もう終わり?」


「山にも行くんだろ」


「あ、行く」


 ラルフは棒を壁際へ戻した。

 トビもそれに続き、二本を並べて置く。


 エルナは、最後の肉を通した串を横木へ載せた。

 隣でミラが板の上を片づけ、ピアが空いた串を集めている。


「こっちは、見てるから」


 ミラが火の方を指した。

 ルークは頷き、端の串を少し内側へ寄せる。


「今くらいの火で頼むよ。強くなったら、肉を端へずらして」


「こっちと替えればいい?」


「そう。それで大丈夫」


 ノアの座っている台のそばにも、薪を寄せた。

 彼は布を巻いた膝を前へ伸ばしたまま、足元の枝を見て頷いた。


 エルナは手を洗い、持っていく布を畳んだ。

 ルークが鞄から紐の束を取り出すと、ロイが顔を向ける。


「それ、罠に使うのか」


「使った分は、そのまま置いていくよ」


 ロイは紐を見てから、壁際の短い棒を手に取った。

 先の方だけが平たく削られている。


「遠くまでは行かないんだな」


「近いところを回るだけだ。暗くなる前には戻るよ」


 ルークが水袋を確かめた。

 ロイはミラたちの方を一度見てから、家の角へ歩き出す。


「こっち」


 ラルフが先へ駆け、ロイのそばへ並んだ。

 エルナも鞄を肩へ掛け、トビとルークに続いた。


     *


 家々の裏を抜けると、木の間へ細い道が延びていた。

 ラルフの赤い巻き毛が、枝の下で揺れる。


「あっちへ上がると、水があるんだ」


 分かれ道で、彼が指を伸ばした。


「ノアが教えてくれたところですね」


「うん。でも、今日はこっち。実があるから」


 少し進んだ先で、トビが道を外れた。

 低い枝を持ち上げ、残っていた実を幾つか摘む。


「少し先のは、まだ青かったよ」


 ラルフが言った。


「昨日、見た」


 ロイは頷き、トビが戻るのを待った。


 エルナは差し出された実を受け取り、布へ包んだ。

 家の近くでも、採っていたものだった。


「この先は、何が採れるんですか」


「根っこ。今日は、まだ見てない」


 ロイが道の曲がる先を示した。


 石を回り込もうとすると、前を歩いていたトビが振り返った。


「そこ、踏むと崩れる」


 指された土の端には、細い割れ目があった。

 エルナは足を引き、彼の通った石の上へ置き直した。


「ありがとうございます」


 トビは小さく頷き、明るい金髪の下から道の先を見た。


 子供たちの後を歩きながら、エルナも草の間へ目を向けた。

 葉ばかりが茂り、実のついていない枝がある。道の脇には、掘り返された跡も幾つか残っていた。


 木の根元を過ぎたところで、足を止めた。

 地面近くから、細長い葉が束になって伸びている。


「何かあった?」


 ラルフが戻ってきた。

 エルナが屈むと、彼も隣へしゃがむ。


「この草は、採らないんですか」


「それ? 食べられるの?」


 エルナは葉をそっと分けた。

 つけ根のところに、薄い赤みがある。


「根を確かめてみたいんです」


 ロイが短い棒を差し出した。


「掘るのか」


「はい。お借りしますね」


 棒の先を少し離れた土へ入れ、まわりを緩めた。

 株を持ち上げると、細い根の間に、指より少し太く膨らんだものがついていた。

 土を払うと、淡い黄色が見える。


「はい。私の知っているものです」


「これ、食えるのか」


 ロイが覗き込んだ。


「煮て食べられます。森の家でも、採っていました」


 ラルフが顔を上げた。


「エルナの家、森にあるの?」


「はい。家のまわりで、こういう根や実も採っていました」


「へえ。エルナも、こうやって探してたんだ」


 もう一度、エルナの持っている株を覗き込む。


「これ、ただの草だと思ってた」


 ラルフが葉の先へ触れた。


「知らないのは、食べないことにしてる」


 ロイが言った。

 エルナは根についた土を落としながら頷いた。


「それは、大事なことですね」


 エルナは棒を返し、掘った株をそばへ置いた。

 ラルフが隣の草を指した。


「じゃあ、これも?」


「葉の下のところを、見てみてください」


 彼は両手で葉を分けた。

 エルナの持っている株と、交互に見比べる。


「あ、赤い」


「はい。掘ったら、根も同じか確かめましょう」


 ラルフはロイから棒を受け取り、土へ先を入れた。

 その横で、トビも少し離れた株の前へ屈む。


「こっちのは?」


 エルナはそばへ寄り、葉のつけ根を確かめた。

 頷くと、トビはラルフの手が空くのを待って棒を受け取った。土を緩め、指を入れて株を持ち上げる。


 根を見せてもらい、エルナは最初に掘ったものと並べた。


「同じですね」


 トビは二つを見比べてから、布の上へ載せた。

 ロイも一株を掘り、土を払っている。


「まだ、あそこにもあるよ」


 ラルフが木の向こうを指した。

 エルナも見たが、そちらの葉は短く、株も小さかった。


「小さいものは、残しておきましょう。根も、まだ細いと思います」


「じゃあ、こっちだな」


 ラルフは同じ木の手前へ回った。

 何株か採ると、布の中に小さな束ができた。


「ここなら、あの石を曲がってすぐだ」


 ラルフは道を振り返った。


「帰ったら、ミラにも言っとく」


「家で、一緒に煮てみましょうか」


「うん」


 エルナは布の端を寄せ、根を潰さないように包んだ。


     *


 採ったものを持ち直して歩き始めると、トビが低い枝の向こうを指した。


「小さい獣、そっちから出てくることがある」


「この辺り?」


 ルークが足を止めた。

 トビが頷き、ロイも道の先へ顔を向ける。


「あっちにも抜ける。木の下を通ってくんだ」


 ルークは二人の指した方へ屈んだ。

 落ち葉を少しよけ、土の上へ目を近づける。


「……通ってるな」


 エルナもそばへ寄った。

 草の間に、細く土の見えているところがある。子供たちが歩いてきた道より、ずっと狭い。


 ルークは紐を出し、先に小さな輪を作った。

 結び目へ紐を通し、ゆっくり引いてみせる。輪が狭くなるのを見て、ラルフが身を乗り出した。


「それで、捕まえるの?」


「この辺を通る、小さい獣を狙うんだ」


 ルークは細い枝をしならせ、紐を掛けた。

 獣道へ輪を据え、小枝を組んで仕掛けを留める。


「少し、離れててな」


 子供たちが下がると、細い棒の先を輪の内側へ差し入れた。

 軽く押した途端、小枝が外れた。しなっていた枝が跳ね戻り、紐に引かれた輪が棒へ締まる。


 ラルフが目を丸くした。

 トビも、動いた枝を見上げている。


 ルークは輪を緩めて棒を抜き、枝を引き下ろした。

 もう一度仕掛けを戻すと、子供たちをそばへ呼んだ。


「もう一つ、君たちでもやってみようか」


 ルークが残りの紐を分けた。

 ロイが受け取り、先ほど見たように輪を作る。


 紐を重ね、端を通したところで、手が止まった。

 太い眉が少し寄る。

 一度ほどいてから、ルークへ目を向けた。


「……そこの結び方、もう一回見せて」


 ルークは頷き、隣へ腰を下ろした。


「うん。ここからな」


 いったん紐を受け取り、手を止めながらゆっくり結び直す。

 ロイは手元を見てから紐を受け取った。できた結び目を一度ほどき、今度は自分で紐を重ねていく。


「こっちを通す?」


「そう。そこは、押さえてて」


 輪ができると、ロイは紐を引いた。

 動きを確かめてから、もう一度緩める。


「俺も」


 トビが手を伸ばした。

 ロイは結び目をほどき、トビへ紐を渡した。

 トビも輪を作り、引いて確かめる。


 次に紐を受け取ったラルフは、結び目をほどいてから二人の真似をした。けれど、引く前に端が抜けてしまった。


「あれ」


「そこ、押さえとくんだって」


 トビが指を伸ばした。

 ラルフは持ち直し、もう一度結び直した。


 仕掛ける場所は、子供たちの道から少し入ったところだった。

 一つ目のそばから獣の通った跡をたどり、もう一つ置けそうなところを探す。


「ここなら、朝、水を取りに行く時にも寄れる」


 ロイが道との間を見た。

 ルークも確かめ、頷く。


「どこに置いたか、皆にも教えておいてな」


 エルナが枝を渡すと、トビが受け取った。

 ロイと二人で位置を確かめながら、ルークの手を借りて仕掛けていく。


 ラルフはそばの木を見上げていた。


「二つに分かれてる木の下。さっきのは、平たい石の向こう」


「覚えた?」


「うん。明日には、かかってるかな」


 ルークは立ち上がり、手についた土を払った。


「かかることもある。でも、空っぽの朝もあるよ」


「何もいなかったら?」


「仕掛けが動いてないか確かめて、通る場所も見直そう。明日の朝、一緒に見に来ような」


 ラルフがもう一度、木と罠を見た。

 ロイは足元の棒を拾い、二つの仕掛けを順に見た。


 エルナは木々の間から差す光を見た。

 来た時より、少し傾いている。


「そろそろ、戻りましょうか」


 包みを抱え直すと、ロイが道の先を指した。


「帰りはこっち。こっちの方が近い」


「分かりました」


 ルークが最後に仕掛けを確かめ、子供たちに続いた。


     *


 家の前へ戻ると、ミラが火のそばから顔を上げた。


「おかえり」


「ただいま。採れたよ」


 ラルフが包みへ手を伸ばした。

 ピアが立ち上がり、そばへ来る。


 エルナは先に、火の上の串へ目を向けた。

 肉は少し色が濃くなり、表面の湿り気も減っている。


「串、こっちと替えたよ」


 ミラが端を指した。

 エルナは頷き、近くの一本を確かめた。


「はい。ありがとうございます」


 ノアは台に座り、膝を伸ばしたままこちらを見ていた。

 ロイがその隣へ、掘るのに使った棒を置く。

 エルナも布を広げると、ピアが淡い亜麻色の髪を揺らして覗き込んだ。


「草?」


「この根っこ、食べられるんだって」


 ラルフが一株を持ち上げた。


「石を曲がったとこ。いつも通ってる道の、木の下にあった」


「どうやって食べるの?」


 ミラがエルナを見た。


「煮て食べます。あとで、一緒に支度しましょう」


 ミラは頷き、根についた土を指で落とした。

 ピアも手を伸ばしかけ、トビの持っている株へ顔を寄せる。


「こっち、見て」


 トビが葉をそっと開いた。


「葉っぱの下。ここ、赤いだろ」


 ピアが覗き込んだ。

 ノアも台の上で身体を寄せ、トビの手元を見る。


「……ここ?」


「うん」


 ピアは布の上から、もう一株を取った。

 葉を分けてつけ根を見てから、トビへ差し出す。


「これも」


 トビはそちらを覗き、小さく頷いた。




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