第7話 新たな家族(仮)
その美女――賢魔導書グリモは、空中で脚を組み、尊大にこちらを見下ろしながら冷ややかに言い放った。
「言っておきますが。私は世界中の叡智を記録し、真理を解き明かすために造られた高位存在です。……こんな文明の果てのような場所に住む男に、私の知を安売りする気はありませんことよ」
その高圧的な態度に、真っ先に反応したのはオルタだった。
「ちょっと! いきなり出てきて失礼ね! このお方は、世界を救った最強の英雄、アリウスお兄様よ。知識ばかり詰め込んだ古臭い本は、少し慎んだらどう?」
オルタが殺気を孕んだ視線を送るが、グリモは鼻で笑いモノクルの位置を直した。
「ふん、聖剣などという切った張ったしか能のない鉄の塊こそ口を慎みなさい。最強の英雄? 暴力で問題を解決することしかできない野蛮人ということでしょう?」
「なっ、なんですって……!?」
「真に文明を……世界を導くのは、理を支配する古の賢者や、私のような高次存在なのです」
そう言って、グリモはアリウスたちを見下すように腕を組んだ。
彼女の視線には、数多の賢者を導いてきたという圧倒的な自負が宿っている。
その態度にリリィもまた、不快そうに刀身を細かく震わせた。
「ねえ、グリモさんだっけ? 貴女はお兄ちゃんの凄さを知らないからそんなことが言えるんだよ。お兄ちゃんは私たちのことを『家族』って言ってくれたんだから」
助け舟を出したリリィに対しても、グリモの舌鋒は容赦なかった。
「家族? 噴飯ものですわね。剣という道具でありながら、主人に依存し、精神的な安寧を求める。それはただの『機能不全』ですわ」
「なっ……! い、依存って……。私はお兄ちゃんの役に立ちたいから、メンテナンスしてもらってるんだよ! マスターの役に立つのが私たち道具の幸せでしょう?」
リリィの反論をグリモは鼻で笑い、優雅に指先を振った。
「私たち? 笑わせないで。貴女が提供しているのは物理的な破壊のみ。ですが、私が持つのは未来を変える最適解です。知性のない力は、ただの暴力。そんなものと一緒にないで欲しいわね」
「な……っ」
正論……というよりは、あまりにも無機質な理屈の刃に、言葉を詰まらせたリリィに、グリモは論破してやったと満足げに頷いた。
「――さて、アリウスといいましたか。高度な魔導具にとって、知性を持たない野蛮な人間に使われることほどの屈辱はありません。私が必要とするのは、魔導理論を解し、常に知的な刺激を与えてくれる真の賢者のみ。……ましてや、そんな薄汚れた手で、私を道具扱いしようなどと思わないことですわね」
そう言い放つグリモの瞳には、隠しきれない優越感が宿っていた。
「はぁ……」
アリウスが深いため息をつく。
と同時に、この魔導書がここに押し付けられた理由を心底理解した。
どうやらこの丸太小屋にまた一人、クセの強い「新しい家族(仮)」が増えてしまったらしい。
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