第7話 紅茶帝国、宣戦布告する
森のカフェ・ヒュッゲラボに戻って三日後。
平穏が戻るかと思った。
戻らなかった。
朝、店を開けると入り口に封蝋付きの手紙。
黒地に金文字。
高級感が腹立つ。
俺が開く。
読み上げる。
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珈琲勢力代表 モリトモ殿
貴殿らによる珈琲布教活動は、紅茶帝国の秩序を著しく乱している。
ついては正式に宣言する。
茶戦争を開始する。
なお、午後三時に使者を送る。
アフタヌーンティーは厳守。
紅茶皇帝エル・ダージリン
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……礼儀正しく宣戦布告してくるな。
魔王が唸る。
「ついに来たか」
勇者が青ざめる。
「伝説の紅茶帝国……」
女神が震える。
「マナーに厳しいことで有名」
そこなの?
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午後三時。
ぴったりに来た。
時間に正確。
怖い。
現れたのは白い軍服の貴族風青年。
金髪。
片眼鏡。
無駄に優雅。
「私は紅茶帝国第一執事、アールグレイ卿」
名前がそのままだ。
彼は店に入るなりテーブルを撫でた。
「ふむ……木の風合いは悪くない」
評価されてる。
「だが」
空気が変わる。
「珈琲は粗野だ」
魔王が立つ。
「なんだと」
勇者も剣に手をかける。
まずい。
戦争ルートだ。
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だがアールグレイ卿は微笑む。
「争いは好みません」
お、平和的?
「決着は競技で」
嫌な予感。
「七日後、王都にて――」
高らかに宣言。
第一回 飲料天下一決定戦を開催する!
なんで天下一武道会形式なんだ。
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競技内容がやばかった。
第一競技
ブラインドテイスティング
第二競技
お茶請けペアリング
第三競技
飲んで和解させろ外交対決
最後だけうち有利では?
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アールグレイ卿が言う。
「もし紅茶が勝てば」
「この店はティールーム化してもらう」
えっ。
森のカフェ・ヒュッゲラボが
森のティーサロンになるの?
それは嫌だ。
古竜が怒る。
「断じて許さん」
焙煎竜、熱い。
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だがその時。
女神がぼそり。
「……紅茶も少し好き」
裏切り!
「ミルクティーだけ」
さらに危うい。
魔王まで言う。
「チャイは悪くない」
お前もか。
珈琲陣営の結束が弱い。
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アールグレイ卿は帰り際、カップを置いた。
「試飲を」
紅茶だった。
黄金色。
香りがすごい。
俺は飲む。
……うまい。
悔しいけどめちゃくちゃうまい。
アールグレイ卿がにやり。
「恐れたか」
俺は言った。
「いや」
カップを置く。
「燃えてきた」
自分でもびっくりするくらい熱かった。
ただコーヒーを淹れたいだけだった。
なのに。
なぜか飲料天下一武道会に出ることになった。
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その夜。
作戦会議。
魔王。
「特訓が必要だ」
勇者。
「修行編だな」
古竜。
「焙煎地獄を始める」
その単語怖い。
女神が微笑む。
「スイーツ担当は任せて」
頼もしい。
パーティ完成してきた。
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看板横に新メニュー追加。
対紅茶決戦ブレンド
飲むと妙に闘志が湧く場合があります。
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そして翌朝。
店の前に貼り紙。
臨時休業
天下一飲料大会出場のため
カフェの休業理由じゃない。
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その時、空から巨大飛空艇。
紅茶帝国の紋章。
そこに一人、影。
王冠を被った女性。
長い赤髪。
気品と圧。
女帝だった。
「私が紅茶皇帝エル・ダージリン」
魔王が呟く。
「本体が来た……」
俺は悟った。
これ、長編になる。
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つづく




