第8話 特訓!焙煎地獄編
「修行だ」
古竜バルザロスが言った。
嫌な予感しかしない。
場所は世界樹裏手。
火山地帯。
溶岩ある。
普通に死ぬ景色。
「ここは焙煎谷」
古竜が誇らしげに言う。
「歴代バリスタが散った地」
不穏。
「散った?」
「主にメンタルが」
少し安心した。
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第一修行。
蒸らし千本ノック
「豆は呼吸しておる!」
古竜が吠える。
「湯を注げ!」
俺はドリップする。
「遅い!」
「雑!」
「愛がない!」
精神論きた。
三時間後。
腕が死んだ。
魔王が横でうなずく。
「よいフォームだ」
なぜ魔王がコーチ側なんだ。
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第二修行。
香り識別訓練
目隠し。
豆の香りだけで産地を当てる。
「これは?」
「……チョコ感あるから中南部?」
「違う。竜骨山脈西斜面」
細かい。
厳しすぎる。
勇者は一発正解。
なんでだ。
「嗅覚は戦士の基本」
そうなの?
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第三修行。
最悪だった。
煩悩を消して湯を注ぐ瞑想ドリップ
滝に打たれながら抽出。
意味分からない。
女神は涼しい顔。
魔王は悟ってる。
俺だけ寒い。
「雑念を捨てろ!」
古竜が叫ぶ。
無理。
「年金どうしよう」とか考えてしまう。
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しかし数日後。
変化が出た。
ドリップが静かになった。
香りが読める。
湯の音で豆の機嫌が分かる。
何この成長。
主人公してる。
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その夜。
古竜が珍しく優しかった。
「モリトモ」
「はい」
「技術では紅茶帝国に勝てぬ」
「え?」
「勝つのは思想だ」
深い。
「珈琲とは対話」
「紅茶とは格式」
「おぬしは何を淹れたい」
俺は少し考えた。
「……人が仲直りしたくなる一杯、ですかね」
古竜が笑った。
「それでよい」
師匠回収きた。
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だがその時。
空が割れた。
飛空艇。
紅茶帝国の偵察機。
上空から声。
「修行中失礼」
丁寧。
アールグレイ卿だった。
「皇帝陛下より伝言」
嫌な予感。
「追加競技を設ける」
え?
「第四競技――」
間。
「スイーツ対決」
女神が立ち上がった。
「来たわね」
目が本気。
神が覚醒した。
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その夜、急遽新特訓。
女神による菓子修行。
地獄第二幕。
「スポンジは心で泡立てるの」
精神論多いなこの世界。
魔王、生クリーム泡立ててる。
勇者、フルーツ切ってる。
古竜、クレームブリュレ炙ってる。
なんだこのパーティ。
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数日後。
完成した必殺メニュー。
世界平和ブレンド・改
そしてペアスイーツ。
停戦ティラミス
名前が強い。
魔王が震える。
「勝てる……」
勇者も言う。
「いや、勝つ」
俺もちょっと熱くなる。
ただコーヒーを淹れたかっただけなのに。
なぜか天下一飲料大会に向けて修行している。
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その時。
世界樹の幹に張り紙。
大会トーナメント表。
準決勝相手。
漆黒の薬湯拳士
俺は固まった。
「……薬湯?」
古竜が顔を曇らせる。
「奴らは伝説の“煎術流派”」
勇者が息を呑む。
「まさか、飲料武術まで参戦しているのか」
女神がつぶやく。
「大会、思ったより魔境ね」
俺は頭を抱えた。
なぜ飲み物に流派があるんだ。
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新メニュー追加。
停戦ティラミス
食べると敵を許したくなる場合があります。
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つづく




