第5話 ドラゴン、焙煎にうるさい
古竜はでかかった。
でかいという表現では足りない。
店よりでかい。
世界樹の根元に頭を突っ込み、黄金の瞳でこちらを覗いている。
圧。
圧がすごい。
俺は震えながら聞いた。
「……ご注文は?」
古竜は鼻から煙を吐いた。
「まず確認する」
低く重い声。
「豆の産地は?」
え?
そっち?
魔王が小声で言った。
「しまった」
勇者も青ざめる。
「伝説の焙煎竜バルザロスだ」
そんなジャンルあるの。
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古竜は言った。
「浅煎りか、深煎りか」
「……気分で」
「抽出温度は」
「ええと……雰囲気で」
竜の目が細くなる。
終わった。
俺、殺される。
だが次の瞬間。
古竜はため息をついた。
「素人か」
致命傷。
コーヒーでマウント取られた。
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「見ておれ」
古竜は前足を差し出した。
爪の間に、赤い実。
「竜骨山脈産・幻のコーヒーチェリーだ」
そんなのあるの。
「千年に一度しか熟さぬ」
重い設定。
古竜は誇らしげに言った。
「余は三百年、焙煎を研究しておる」
ドラゴン、何してるんだ。
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気づけば、焙煎講座が始まっていた。
「豆は生きておる」
「焙煎は対話」
「火加減に哲学が宿る」
深い。
無駄に深い。
魔王も真剣に聞いている。
勇者メモ取ってる。
なんでだ。
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そして古竜は言った。
「モリトモ、淹れてみよ」
試験か。
俺は《感情抽出》と豆を合わせることを試した。
感情と焙煎の融合。
新メニュー生成。
深い琥珀色。
香りは森と炎。
「これは……」
「和平ローストです」
古竜が飲む。
沈黙。
森が静まる。
魔王が固唾を呑む。
勇者も動かない。
やがて古竜は言った。
「……七十五点」
低い。
でも生きてる。
「だが、将来性あり」
合格らしい。
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その日から古竜バルザロスは週一で来るようになった。
そして最悪なことに、
焙煎指導を始めた。
「豆を雑に扱うな」
「湯は躍らせるな」
「今の蒸らし、甘い」
厳しい。
めちゃくちゃ厳しい。
女神が言う。
「先生みたい」
勇者。
「師匠より怖い」
魔王。
「余でも泣く」
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だがそのおかげで店は進化した。
新メニューが増える。
•和平ロースト
•古竜ブレンド
•世界樹炭火焙煎
ちょっと本格派になってきた。
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その夜。
古竜が珍しく静かに言った。
「モリトモ」
「はい」
「珈琲とは、争いを遅らせる飲み物だ」
深い。
「人は一杯飲む間、剣を抜けぬ」
……なるほど。
ちょっと感動した。
古竜、ただの面倒客じゃなかった。
その時。
世界樹が突然光った。
ゴゴゴゴ……
根元が開く。
地下への巨大な扉。
魔王が息を呑む。
「まさか」
勇者もつぶやく。
「失われた“原初の豆”……」
古竜が震えた。
「伝説の究極珈琲……!」
なんで冒険編始まりそうなんだ。
俺は頭を抱えた。
ただコーヒーを淹れていただけなのに。
なぜか伝説の豆を探す旅が始まりそうだった。
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新メニュー追加。
古竜ブレンド
飲むと焙煎にうるさくなる場合があります。
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つづく




