第4話 女神、クレーマーになる
空に浮かんだ巨大な魔法陣から、一人の女性が降りてきた。
銀色の長髪。
白い法衣。
背には光の翼。
どう見ても神。
いや、女神。
女神は店先に降り立つなり、看板を見上げた。
森のカフェ・ヒュッゲラボ
そして、第一声。
「クレームを申し上げます」
来店一言目がそれか。
「ええと……いらっしゃいませ?」
俺が言うと、女神は冷ややかに言った。
「下界において、神界の許可なく平和が進んでいると聞きました」
魔王がぼそり。
「やはり来たか」
勇者も頭を抱える。
「最難関だ」
女神、面倒な省庁みたいな扱いされてる。
⸻
「問題点は三つあります」
女神は指を立てた。
「第一に、停戦協定が神界未承認」
「第二に、対話ブレンドなる飲料の効果が未審査」
「第三に」
ここで俺を指さす。
「この店、ハーブティーの浄化力が弱い」
最後そこ!?
戦争じゃなく味のクレームだった。
⸻
俺はとりあえず席をすすめた。
「お飲みになります?」
「……調査のためです」
座るんかい。
完全に客じゃないか。
《感情抽出》発動。
相手は女神。
抽出される感情がすごい。
責任。
神としての孤独。
そして――
微量のツンデレ。
そんな成分あるのか。
俺は慎重にブレンドした。
月光ハーブティー改。
名付けて――
「浄化エクストラです」
女神は一口飲んだ。
沈黙。
二口。
三口。
……震えている。
「どうしました」
ぽつり。
「……母の味」
重い。
急に泣くな。
魔王と勇者がざわつく。
女神は目元を押さえながら言った。
「神になってから、千年……こんな癒やしは忘れていました」
クレーマー、陥落。
早い。
⸻
だが問題は終わらなかった。
女神が急に真顔になる。
「ただし、別件があります」
嫌な予感。
「神界では現在、“第一神族”と“第二神族”で冷戦状態です」
神界まで揉めてるのか。
「停戦調停を依頼します」
俺は即答した。
「無理です」
「報酬は出ます」
「内容によります」
即転ぶな俺。
⸻
魔王が笑う。
「モリトモ、おぬし向いておる」
勇者もうなずく。
「もはや喫茶店ではないな」
いや喫茶店です。
断固として。
その時、女神がぽつり。
「……あと、この店、ポイントカードはありますか」
あるわけない。
「常連になるので」
魔王と勇者が同時に言った。
「我らも欲しい」
なんで常連制度が始まるんだ。
⸻
その夜。
女神まで帰ったあと、俺は一人で店を閉めていた。
ふと見ると、看板の下に新しい文字が刻まれていた。
誰かが彫ったらしい。
神・魔・人 中立指定喫茶
勝手に外交拠点化されてる。
俺は天を仰いだ。
ただコーヒーを淹れていただけなのに。
なぜか神界からも顧問扱いされ始めた。
⸻
新メニュー追加。
浄化エクストラ
飲むと素直になりすぎる場合があります。
そして常連カード制度開始。
10杯で一杯無料。
魔王が真っ先に作った。
⸻
そのとき、森の奥から新たな咆哮。
ドオオオオオン。
地面が揺れる。
勇者が顔色を変えた。
「まずい」
魔王も立ち上がる。
「古竜だ」
店の外に、山ほどもある巨大な影。
黄金の瞳。
黒い翼。
伝説の竜。
そいつは低い声で言った。
「……珈琲とは、なんだ?」
新しい常連、来た。
つづく




