第3話 勇者、停戦会議を持ち込む
その朝、俺は嫌な予感で目が覚めた。
理由は簡単だ。
昨日、勇者と魔王が「次回、停戦条件を持参する」と書き置きを残していったからである。
喫茶店に残すメモじゃない。
外交文書なんよ。
「……今日は平穏であってくれ」
そう願いながら店を開けた。
カラン、と手作りのベルを鳴らす。
森のカフェ・ヒュッゲラボ、本日も営業中。
その十分後。
ドドドドドド。
軍隊が来た。
「いや早いって!」
森の入口から白い鎧の一団。
勇者アレス率いる王国騎士団。
反対側から黒鎧の軍勢。
魔王軍。
なぜ両陣営フル装備。
カフェだぞここ。
先頭の勇者が真顔で言う。
「停戦会議を開始する」
魔王も重々しくうなずく。
「中立地として、この店を選定した」
選定するな。
俺は頭を抱えた。
「せめて貸切予約して」
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狭い店内はすぐ満席になった。
丸太テーブルに、勇者、魔王、側近、参謀。
完全に首脳会談。
しかも俺しか店員いない。
ワンオペで国際会議回すな。
「注文を承る」
なぜ俺も乗ってるんだ。
勇者が言う。
「和解ブレンド」
魔王。
「停戦ラテ」
側近。
「胃に優しいものを」
外交って胃をやるんだな。
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だが会議は早々に揉めた。
勇者が言う。
「月影の渓谷を返還してもらう」
魔王が机を叩く。
「それは譲れん!」
殺気。
空気が張る。
まずい。
戦争再開ルートだ。
その瞬間。
俺の頭にひらめいた。
「……コーヒーブレイクにしません?」
全員が止まる。
「会議で煮詰まったら休憩、大事です」
前世の経験である。
会議は休憩でだいたいなんとかなる。
俺はスキル発動。
《感情抽出》
敵意、不安、疲労。
全部まとめて抽出。
新メニュー生成。
琥珀色に輝く一杯。
「これは?」
「対話ブレンドです」
全員に配る。
一口。
沈黙。
二口。
空気が変わる。
魔王がぽつり。
「……そもそも月影の渓谷って、温泉しかないぞ」
勇者。
「えっ、そうなの?」
側近。
「景色はいい」
なんで戦ってた。
そこから流れが変わった。
「共同管理でどうだ」
「観光資源化するか」
「温泉街を作る?」
おい待て。
領土問題が町おこしになった。
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その時、勇者が突然言った。
「モリトモ」
「はい」
「お前、外交顧問にならんか」
嫌だ。
カフェやりたいだけなんだ俺。
魔王まで言う。
「魔界側顧問も兼務できる」
ダブルワークさせるな。
「私は店主です」
きっぱり断ると、なぜか全員感心した顔になる。
「欲がない……」
「真の賢者か」
違う。
ただ働きたくないだけ。
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数時間後。
会議は終わった。
正式文書がまとめられる。
タイトル。
第一次ヒュッゲラボ停戦協定
なんだそれ。
しかも署名欄に俺の名前ある。
勝手に入れるな。
勇者が笑う。
「記念だ」
魔王もうなずく。
「世界平和への第一歩だ」
……世界平和。
タイトル回収っぽい言葉が出てきた。
嫌な予感しかしない。
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会議終了後。
魔王と勇者は並んでコーヒーを飲んでいた。
完全に仲良しである。
勇者が言う。
「次は女神勢力とも交渉が必要だ」
俺、むせた。
「女神?」
魔王が渋い顔をする。
「あれが最も面倒だ」
新たな厄介客の気配。
その時、空が光った。
世界樹の上空に巨大な魔法陣。
白い羽が舞う。
神々しい声が響く。
「下界に、無許可で平和を進める喫茶店があると聞きました」
……来た。
女神クレーマー来た。
俺は天を仰いだ。
ただコーヒーを淹れていただけなのに。
なぜか神界案件に発展していた。
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メニューに新項目が追加された。
対話ブレンド
飲むと敵と話し合いたくなる場合があります。
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つづく




