第99話「命の重さ」
玲の妊娠が進むにつれて——柊は、命の重さを、改めて感じていた。
◇
「柊——動いてる」
玲が言った。
「本当か——」
柊は——玲のお腹に手を当てた。
小さな——動きを感じた。
「すごい——」
「ね——」
玲は微笑んだ。
「生きてるって——こういうことなのね」
「ああ——」
◇
仕事中——柊は考え込むことが多くなった。
残響たち——彼らは、生きてはいない。でも、存在している。
お腹の中の子ども——彼または彼女は、これから生まれてくる。
生と死——その境界線が、改めて、見えてきた。
「水無瀬さん——大丈夫ですか」
田所が声をかけた。
「ああ——考え事をしてた」
「何を——」
「命の重さについて——」
田所は少し驚いた顔をした。
「命の——重さ」
「残響は——命じゃない。でも、存在している。その違いが——」
「難しいですね——」
「ああ——」
◇
美優に会いに行った。
「柊おじさん——」
美優は嬉しそうだった。
「赤ちゃん——どうなった?」
「順調だよ——もうすぐ、性別がわかる」
「楽しみだね——」
「ああ——」
柊は美優を見つめた。
「美優——」
「何——」
「お前は——生きてた時のこと、覚えてるか」
美優は少し考えた。
「覚えてる——でも、遠い記憶みたい」
「そうか——」
「どうしたの——」
「いや——」
柊は首を振った。
「お前は——今、幸せか」
「幸せだよ——」
美優は微笑んだ。
「お父さんが——会いに来てくれる。柊おじさんも——話してくれる」
「……」
「寂しい時も——あるけど。みんなと繋がってるから——大丈夫」
柊は——安心した。
◇
夜、玲と話をした。
「美優のこと——考えてた」
「どういうこと——」
「彼女は——八歳で亡くなった。でも、今は——十五歳相当」
「精神的に——成長してるのよね」
「ああ。それは——生きてることと、同じなのか」
玲は考え込んだ。
「難しい問題ね——」
「残響は——生きてはいない。でも、成長する。変化する」
「生きてることの——定義が、問われてるのかもしれない」
「ああ——」
柊は窓の外を見た。
「俺たちの子どもは——生まれてくる。そして——いつか、死ぬ」
「……」
「その間に——何を残せるか。それが——大切なのかもしれない」
玲は柊の手を握った。
「私たちは——この子に、たくさんの愛を、与えよう」
「ああ——」
「それが——命の重さを、伝えることになる」
柊は頷いた。
「そうだな——」
お腹の中で——小さな命が、動いていた。




