第98話「母の夢」
ある夜——柊は、夢を見た。
◇
母——水無瀬雪乃が、目の前にいた。
成仏する前の——穏やかな表情の母だった。
『柊——』
『母さん——』
柊は——涙が溢れた。
『会いたかった——』
『私も——会いたかったわ』
母は微笑んだ。
『聞いたわよ。赤ちゃんができたんですって』
『ああ——』
『おめでとう——』
母は——嬉しそうだった。
『私——おばあちゃんになれたのね』
『母さん——』
『会えないけど——嬉しいわ』
◇
夢の中で——二人は話をした。
『柊——元気にしてる?』
『ああ。仕事も——うまくいってる』
『玲さんと——仲良くしてる?』
『もちろん——』
『よかった——』
母は安堵した表情をした。
『私——柊が心配だったの。一人で——頑張りすぎるから』
『母さん——』
『でも——玲さんがいれば、大丈夫ね』
『ああ——』
柊は頷いた。
『玲のおかげで——俺は、救われた』
◇
母は——遠くを見るような目をした。
『柊——』
『何——』
『生まれてくる子どもに——伝えてほしいことがあるの』
『何を——』
『おばあちゃんは——あなたを愛してる。会えないけど——いつも、見守ってる』
母の目に——涙が光った。
『そして——お父さんのことも、許してあげて』
『父さん——』
『お父さんは——弱い人だった。でも——悪い人じゃなかった』
『……』
『お前には——お父さんの良いところを、受け継いでほしい』
柊は——黙って聞いていた。
『研究への情熱。人を助けたいという思い。それは——お父さんから受け継いだものよ』
『母さん——』
『だから——お父さんを、恨まないで』
◇
母の姿が——薄れ始めた。
『母さん——行っちゃうのか』
『ええ。でも——心配しないで』
母は微笑んだ。
『私は——幸せよ。柊が——立派に生きてるから』
『母さん——』
『ありがとう。柊——』
母の姿が——消えていった。
『さようなら——』
◇
目が覚めた。
柊の頬には——涙が流れていた。
「母さん——」
隣で——玲が眠っていた。
柊は——静かに、天井を見つめた。
母の言葉が——心に響いていた。
『お父さんを——恨まないで』
柊は——考え込んだ。
父のこと——まだ、完全には、許せていなかった。
でも——母の願いなら。
「父さん——」
柊は呟いた。
「許せる日が——来るといいな」
夜明けが——近づいていた。




