第95話「変化の波」
社会は——少しずつ、変化していた。
◇
残響庭園の存在が——広く知られるようになっていた。
「死者と生者の架け橋」——そう呼ばれるようになっていた。
「最近——見学者が、増えてます」
田所が報告した。
「見学者——」
「学生、研究者、一般の方々。残響技術に——関心を持つ人が、増えてます」
「そうか——」
柊は複雑な気持ちだった。
注目されることは——良いことでもあり、不安でもあった。
◇
ある日——取材の依頼が来た。
大手メディアからの——ドキュメンタリー取材。
「残響庭園の——日常を、撮影したい」
プロデューサーが説明した。
「残響とは何か。遺族との関係は。そういったことを——広く伝えたい」
柊は沢渡と相談した。
「どうしますか——」
「受けよう」
沢渡が言った。
「でも——」
「正しく伝えてもらえるなら——意味がある」
「わかりました——」
◇
取材が——始まった。
カメラが——桜の園の日常を、追いかけた。
残響たちとの対話。遺族との面会。そして——成仏の儀式。
「残響は——人間と、同じですか」
インタビュアーが尋ねた。
「同じ——ではありません」
柊が答えた。
「残響は——故人の意識の近似です。完全なコピーじゃない」
「でも——感情がある」
「あります。喜び、悲しみ、寂しさ。人間と——同じように」
「じゃあ——何が違う」
柊は考え込んだ。
「生きていない——ということです」
「生きていない——」
「残響は——生きてはいない。でも、存在している。その違いが——難しい」
◇
取材は——数週間続いた。
残響たちの中にも——取材を受ける人がいた。
「私は——十年前に、亡くなりました」
ある残響が語った。
「でも——ここで、家族と会い続けています」
「幸せですか——」
「幸せです。でも——複雑でもあります」
「どういう意味ですか——」
「私は——生きていない。でも、家族は——生きている。その時間の流れが——違う」
残響は微笑んだ。
「でも——繋がっていられる。それだけで——十分です」
◇
ドキュメンタリーが——放送された。
反響は——大きかった。
「感動した——」
「残響って——こういうものだったんだ」
「死んでも——繋がれるなんて」
しかし——批判的な声もあった。
「死者を——閉じ込めているのでは」
「自然な死を——妨げている」
「倫理的に——問題がある」
柊は——様々な意見を、受け止めた。
「賛否両論——だな」
「そうね——」
玲が言った。
「でも——議論が起きることは、悪くない」
「どういう意味——」
「みんなが——考え始めてる。死とは何か。残響とは何か」
玲は微笑んだ。
「それが——大切なことだと思う」
柊は頷いた。
社会は——変わり始めていた。




