第94話「父の遺志」
ある日——柊は、父の研究室を訪れた。
◇
父、水無瀬蒼太が使っていた研究室。
今は——資料室として、保存されていた。
「久しぶりだな——」
柊は部屋を見回した。
父の痕跡が——あちこちに残っていた。
書籍、メモ、古い端末。
◇
柊は——父のメモを、読み返していた。
残響技術の開発に関する——膨大な記録。
その中に——こんな一節があった。
『残響は——死者の意識の近似である。しかし——それだけではない』
『残響は——生者と死者を、繋ぐ架け橋である』
『この架け橋を通じて——人間は、死を超えて、繋がり続けることができる』
柊は——胸が熱くなった。
「父さん——」
◇
さらに読み進めた。
『私は——この技術を、善きことに使いたい』
『死者と生者が——互いを思いやり、繋がり続ける世界を、作りたい』
『しかし——同時に、恐れもある』
『この技術が——悪用されることを』
『死者が——永遠に、囚われ続けることを』
柊は考え込んだ。
父は——残響技術の光と影を、両方見ていた。
◇
最後のページには——こう書かれていた。
『柊へ
もし、お前がこれを読んでいるなら——私は、もういないのだろう。
残響技術は——お前に託す。
この技術を——正しく使ってほしい。
死者が——安らかに眠れるように。
生者が——死者を想い続けられるように。
そして——いつか、死者と生者が、穏やかに別れられるように。
それが——私の願いだ。
父より』
柊は——涙を流した。
「父さん——」
◇
部屋を出ると——玲が待っていた。
「どうだった——」
「父さんの——遺志が、わかった気がする」
「遺志——」
「死者と生者を——繋ぐこと。そして——穏やかに、別れられるようにすること」
柊は玲を見た。
「俺たちが——やってきたこと。間違ってなかった」
「……」
「残響たちを——繋ぐシステム。成仏を——見届けること」
「それが——お父さんの願いだった」
「ああ——」
柊は深呼吸した。
「俺は——父さんの遺志を、継いでいく」
「私も——一緒に」
玲は柊の手を握った。
「ありがとう——」
◇
柊は——空を見上げた。
秋の雲が——ゆっくりと、流れていく。
「父さん——見てるか」
返事はなかった。
でも——どこかで、父が微笑んでいる気がした。




