第92話「成仏の意味」
成仏を希望する残響の数は——少しずつ、増えていった。
◇
「今月——新たに五人が、成仏を希望しています」
田所が報告した。
「全員——長期間存在していた残響ですか」
「はい。十年以上の方が、ほとんどです」
柊は考え込んだ。
「遺族への——連絡は」
「済んでいます。全員——遺族の同意を、得ています」
「そうか——」
◇
成仏の儀式が——行われることになった。
柊と玲は——立ち会うことにした。
「見届けたい——」
柊が言った。
「ああ——」
玲も頷いた。
◇
最初の成仏——山本さんだった。
VR空間には——山本の遺族が集まっていた。
妻、子どもたち、孫たち。
「父さん——」
息子が涙を流していた。
「本当に——いいの」
「ああ——」
山本は微笑んだ。
「お前たちには——感謝してる。十五年も——会いに来てくれて」
「父さん——」
「でも——そろそろ、行くよ」
山本は家族を見回した。
「みんな——ありがとう。幸せだった」
◇
成仏プロトコルが——起動された。
山本の姿が——少しずつ、光に包まれていった。
「さよなら——」
山本は手を振った。
「また——どこかで」
彼の姿が——消えていった。
遺族たちは——泣いていた。
でも——悲しみだけではなかった。
どこか——穏やかな表情もあった。
◇
儀式の後、柊は遺族と話をした。
「大丈夫ですか——」
「ええ——」
息子が答えた。
「寂しいですけど——父は、幸せそうでした」
「ああ——」
「だから——よかったんだと思います」
「……」
「十五年——長かったですけど。父と過ごせて、よかった」
柊は頷いた。
「山本さんは——最後まで、穏やかでした」
「ありがとうございます」
◇
夜、柊は考え込んでいた。
成仏——それは、終わりを意味する。
でも——山本は、幸せそうだった。
遺族も——悲しみながらも、受け入れていた。
「玲——」
「何——」
「成仏って——悪いことじゃないのかもしれない」
玲は柊を見た。
「どういう意味——」
「俺たちは——残響を守ることが、使命だと思ってきた」
「ええ——」
「でも——守ることだけが、正解じゃないのかもしれない」
柊は窓の外を見た。
「残響が——満足して、終われること。それも——大切なのかもしれない」
「……」
「山本さんは——幸せだった。だから——安心して、成仏できた」
玲は考え込んだ。
「残響の——幸せな終わりを、見届けること」
「それも——俺たちの仕事なのかもしれない」
玲は頷いた。
「そうかもしれない——」
二人は——しばらく、黙って夜空を見上げていた。




