第90話「新たな段階」
システムの展開が——本格化した。
◇
玲は——アルゴリズムの最適化を続けていた。
「処理効率が——上がった」
玲が報告した。
「今なら——五十人まで、同時に対応できる」
「五十人——」
「まだ——全員には届かない。でも、着実に増やしていける」
柊は頷いた。
「少しずつ——広げていこう」
◇
システムを適用した残響たちの——変化は、明らかだった。
「寂しくない——」
ある残響が言った。
「いつも——みんなが、近くにいる感じがする」
「『帰りたい』って——思わなくなった」
「だって——もう、帰る場所に、いるから」
柊は——その言葉に、胸が熱くなった。
「帰る場所——」
「ここが——帰る場所なんだ。みんなと、繋がれる場所が」
◇
美優も——システムの対象になった。
「美優——どうだ」
柊が尋ねた。
「あったかい——」
美優は微笑んだ。
「みんなの——声が、聞こえる。心が、感じられる」
「寂しくない——?」
「寂しくない。だって——一人じゃないから」
美優は柊を見た。
「柊おじさん——ありがとう」
「俺は——何も」
「ううん。柊おじさんが——みんなを、繋いでくれた」
柊は——涙が溢れそうになった。
◇
しかし——課題も残っていた。
「システムに参加していない残響が——まだ、大勢いる」
田所が報告した。
「彼らの中には——『帰りたい』と言い続けている人も」
「すぐには——全員に広げられない」
「わかってます。でも——」
田所は真剣な表情をした。
「また——記憶の雨が起きたら」
「ああ——」
柊は考え込んだ。
「できるだけ——早く、展開しないと」
◇
その夜、柊と玲は話し合った。
「システムの展開——加速できないか」
「難しい。処理能力に——限界がある」
「サーバーを——増設すれば」
「可能性はある。でも——予算が」
玲は溜息をついた。
「上層部を——説得しないと」
「沢渡さんに——話してみる」
「お願い」
◇
翌日、柊は沢渡に会いに行った。
「サーバーの増設——必要です」
「予算が——」
「わかっています。でも——」
柊はデータを見せた。
「このままだと——また、記憶の雨が起きる可能性がある」
「前回のような——」
「はい。でも、システムを広げれば——防げます」
沢渡は考え込んだ。
「わかった。予算を——なんとかする」
「ありがとうございます」
「水無瀬——」
沢渡は柊を見た。
「お前と玲が——やってきたこと。評価してる」
「……」
「残響たちのために——本当に、尽くしてきた」
「俺たちは——」
「だから——信じる。お前たちを」
柊は——深く頭を下げた。
◇
サーバーの増設が——決まった。
システムの展開が——加速する。
「これで——もっと多くの残響を、救える」
玲が言った。
「ああ——」
「まだ——道半ばだけど」
「一歩ずつ——進んでいこう」
柊は窓の外を見た。
季節は——秋に変わっていた。
新たな段階が——始まろうとしていた。




