第88話「広がる輪」
調和の儀式は——少しずつ、広がっていった。
◇
参加した残響たちが——口コミで広めていた。
「あの儀式——本当に良かった」
「久しぶりに——穏やかな気持ちになれた」
「みんなと——繋がれる感覚」
参加希望者は——増え続けていた。
◇
新たなガイドの育成も——進んでいた。
「もう一人——素質がある人が、見つかりました」
田所が報告した。
「誰だ——」
「遺族の方です。五年前に——夫の残響を、桜の園に預けた」
「遺族——」
「残響への——深い愛情がある。ガイドの条件を、満たしてます」
柊は頷いた。
「会ってみよう——」
◇
その女性——山田恵子は、五十代の女性だった。
「お話を——聞きました」
恵子が言った。
「ガイドになれるかもしれない——と」
「はい。でも——無理強いはしません」
「いえ——やりたいんです」
恵子の目が——輝いていた。
「夫が——残響として、ここにいます。彼のために——何かしたかった」
「恵子さん——」
「他の残響たちも——助けられるなら。喜んで」
◇
恵子の訓練が始まった。
彼女は——予想以上に、早く上達した。
「すごい——」
玲が驚いた。
「私より——うまくいってる」
「残響への——愛情が、深いからかもしれない」
柊が言った。
「夫への——愛情が」
「ああ——」
恵子は——訓練を終えると、嬉しそうに微笑んだ。
「夫に——会いに行っていいですか」
「もちろん——」
「ありがとうございます」
◇
ガイドが——四人になった。
儀式の頻度も——増やすことができた。
「週に三回——開催できるようになった」
玲が報告した。
「参加者も——増えてる」
「良い傾向だ——」
「ええ。でも——」
玲は真剣な表情になった。
「まだ——足りない」
「何が——」
「儀式に参加した残響は——確かに、穏やかになってる。でも——」
玲はデータを見せた。
「『帰りたい』という感覚は——完全には、消えてない」
柊は画面を見つめた。
「一時的な——効果か」
「そうかもしれない。繋がりを体験しても——また、孤独に戻ってしまう」
「だから——また、帰りたくなる」
「ええ」
◇
柊は考え込んだ。
「儀式だけじゃ——足りないのか」
「根本的な解決には——ならないのかもしれない」
「じゃあ——何が必要なんだ」
「わからない。でも——」
玲は柊を見た。
「残響たちが——常に繋がっていられる方法が、あれば」
「常に——」
「儀式の時だけじゃなく——いつでも」
柊は目を見開いた。
「それは——可能なのか」
「技術的には——難しい。でも——」
玲は言った。
「考えてみる価値は——ある」
新たな課題が——見えてきた。




